【全ドライバー独自採点/F1第8戦】試練のなか完璧な走りを見せ続けるルクレール。好走も残酷な結果に終わった角田裕毅

 

 長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。

 2022年F1第8戦アゼルバイジャンGPでは、シャルル・ルクレール(フェラーリ)が圧倒的速さでポールポジションを獲得。しかしレースで再びトラブルが発生、ノーポイントというむごい結果となった。フェラーリのダブルリタイアで、レッドブルが1-2を飾り、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がシーズン5勝目を挙げ、ポイントリードをさらに拡大した。

 アゼルバイジャンGPでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。

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■評価 10/10:運命の女神に背を向けられながら、他を圧倒する速さを見せたルクレール

 幸運の女神はシャルル・ルクレール(フェラーリ)に完全に背を向けてしまっているようだが、今回も彼が他より明らかに優れた走りをしていたことは明らかだ。ポールラップは最高というほかなく、セクター2のスピードには誰もが圧倒された。

 ポールポジションの位置のグリップが低かったために、決勝スタートでリードを失った。その後、、バーチャル・セーフティカーが出ると、ルクレールはチームからの指示を予想し、実際にピットインを指示された時にはすでにピットに向かっていた。そうして勝利の可能性を維持したルクレールだが、再びパワーユニット関連のトラブルが発生したことで、優勝を逃がし、タイトル争いでも非常に不利な状況に陥った。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP シャルル・ルクレール(フェラーリ)がトラブルでリタイア

■評価 9/10:ガスリーがビッグチームにアピールする走り

 ルクレールのリタイアによってマックス・フェルスタッペン(レッドブル)はたやすく勝利を手に入れることができた。モナコに続いてフェルスタッペンはチームメイトに予選で敗れたが、今回は、リカバーするチャンスがあった。セルジオ・ペレスがあえて競わなかったおかげで、フェルスタッペンは楽に前に出て、ミスなく余裕で勝利をつかんだ。

 レッドブル勢とともに表彰台に上ったのはジョージ・ラッセル(メルセデス)だった。彼のマシンには優勝する力がないが、8戦すべてでトップ5に入っているおかげで、ラッセルはタイトルを狙える位置にとどまっている。

 ルイス・ハミルトンほどラディカルでないセットアップで走ったラッセルは、レースを通して単独で走り、フェラーリ2台のリタイアにより、3位を獲得した。

 バクーで輝いたドライバーのひとりがピエール・ガスリー(アルファタウリ)だ。予選でも決勝でも“ベスト・オブ・ザ・レスト”のポジションに立ち、週末を通してハミルトンと戦った。大手チームからのオファーが欲しいこのタイミングで、ガスリーは完璧な走りを見せ、2023年に優れたチームに移籍するための道を、力強く切り開いた。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ピエール・ガスリー(アルファタウリ)

■評価 8/10:調子を上げつつあった角田。トラブルがなければ6位だった

 セルジオ・ペレス(レッドブル)の予選での速さは衝撃的だった。モナコに続いてここでもフェルスタッペンを破ってみせたのだ。さらに決勝ではスタートで見事にルクレールを追い抜いた。だが、珍しくリヤタイヤのデグラデーションに苦しみ、チームメイトを進んで前に出した。一方で、ファステストラップで追加の1点を稼いだし、ハードタイヤの持たせ方は、フェルスタッペンよりもうまかった。

 パフォーマンスに見合う結果を手に入れられなかったふたりに、高い評価を与えたい。角田裕毅(アルファタウリ)と周冠宇(アルファロメオ)だ。

 角田の調子が上向いていることは、週末を通して明らかであり、予選でも決勝でも経験豊富なガスリーのすぐ後ろに位置していた。6位は固いかと思われたが、DRSのフラップが故障し、緊急ピットインが必要になり、ポイント圏外に落ちるという残酷な結果に終わった。

 ルーキーの周冠宇は、シーズンここまでで最も優れた走りを見せた。バルテリ・ボッタスより予選で速く、決勝でもチームメイトを引き離していった。セバスチャン・ベッテルのすぐ後ろに位置していたため、入賞の可能性が高かったが、冷却システムのリークによりリタイアしなければならなかった。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP 角田裕毅(アルファタウリ)

■評価 7/10:気の毒なハミルトンは近いうちに報われるのか

 セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は角田の後退で6位を手に入れた。彼は完璧な週末を送ったわけではなく、予選でのミスで、あやうくQ2で敗退するところだったし、決勝でエステバン・オコンを抜こうとした際にコースオフしたため、7秒を失い、ポジションをふたつ落とした。しかしその後、ベッテルはしっかり挽回し、悲惨な週末になりそうだったアストンマーティンを救った。バルセロナでモディファイ版シャシーが導入されて以降、ベッテルとランス・ストロールの差は大きく広がっている。

 フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)はマシンの力を最大限に引き出してみせた。だが、Q1最後にスポーツマンらしくない行動をしたことについては減点したい。アレクサンダー・アルボンをはじめとする何台かを抑え続け、ターン15でコースオフをするふりをして、自身のQ2進出を確実にした。この行為は、2006年モナコのラスカスでのミハエル・シューマッハーの“コースオフ”を思い起こさせる。

 カルロス・サインツ(フェラーリ)は今回も望んでいる結果を出すことができなかった。Q3最初のランでトップタイムを出しながら、結局ルクレールに敗れたのはこれで3回目だ。最後のランでリスクを取る必要があり、それが裏目に出た。決勝では優勝争いに加わることができなかった。ミディアムタイヤで長いスティントを取るという戦略を予定していたが、早々にトラブルでレースを終えた。

 ランド・ノリス(マクラーレン)とダニエル・リカルド(マクラーレン)は、同じぐらい良い仕事をした。来季シートとF1キャリアを失わないために戦わなければならないリカルドは、今回一歩前進した。ふたりは何度もチームオーダーを受け、結果的にフェルナンド・アロンソを破るチャンスをつかめなかった。チームオーダーは、ハードタイヤで走っていた際のリカルドの戦略を台無しにし、終盤、ノリスがリカルドをオーバーテイクすることも許さなかった。

 ルイス・ハミルトン(メルセデス)には同情を禁じ得ない。メルセデスが彼のマシンに施したラディカルなセットアップの代償を支払い、背中にひどい痛みを抱えながらレースを走り切った。チームは今も、W13には大きなポテンシャルがあると確信している。ハミルトンは激しいポーパシングのために、ストレートでラッセルにタイム差をつけられていた。

 チームのために実験を行うなか、短期的にハミルトンは予選でも決勝でも若きチームメイトに遅れを取っている。ハミルトンとしては、彼が払っている犠牲が近い将来報われることを願うしかない。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

■評価 6/10:マグヌッセンがチームリーダーとしての能力を証明

 アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)はQ1最後のアロンソの行動に腹を立てていた。Q2進出のための最後のアタックを台無しにされたと感じたからだ。決勝ではバルテリ・ボッタス、ストロールをはじめとする自分より前にいた何人かよりも良いペースで走った。2回ストップへの変更は実を結んだが、10位を狙うには残り周回数が足りなかった。

 ケビン・マグヌッセン(ハース)も10位を目指して走っていたものの、またしてもパワーユニットが壊れた。バクーでハースのパッケージには競争力がなかったが、マグヌッセンは最大限の力を引き出したといっていいだろう。成熟度が増し、冷静さを保てるようになったマグヌッセンは、予選での失望にうまく対処した。来年、競争力のあるチームメイトが加入したとしても、ハースのリーダーとしての役割を担う力があることを証明したようだ。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

■評価 5/10:アロンソに全くかなわなかったオコン

 エステバン・オコン(アルピーヌ)は他者の脱落によって10位に繰り上がり、ポイントを獲得した。だが彼は週末を通してアロンソに匹敵するパフォーマンスを見せることができなかった。Q2でのイエローフラッグの影響を受けたのは確かだが、レースでは、このサーキットのツイスティなセクションで速さがなかった。ストレートではマシンのトップスピードが優れているおかげで戦うことができたが、すべてのバトルに敗れ、角田がトラブルで後退したことで10位を得た。

 今回、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)の評価をするのはなかなか難しい。彼のマシンは基本的なメカニカルの問題を抱えていたようだが、チームはそれを見つけ出せなかった。FP3までブレーキパワーが不足しており、それ以降もタイヤを適切な温度まで温めることができなかった。彼がこれまでバクーで見せてきた速さを考えると、今回のパフォーマンスのなさは不可解だ。そういうわけで、今回は彼を酷評するのは控えよう。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP エステバン・オコンとフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP エステバン・オコンとフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)

■評価 3/10:批判されて萎縮しているシューマッハー

 トラブルでFP1を走れなかったことが、ミック・シューマッハー(ハース)の不利につながったのは間違いない。だが、その後の彼は、ミスを怖がりながら走っているように見えた。チーム代表ギュンター・シュタイナーから強い批判を受けたことが関係しているかもしれない。レースでは後方を単独で走り、2回ストップに切り替えたが、大きな効果はなく、14位でレースを終えた。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ミック・シューマッハー(ハース)とセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ミック・シューマッハー(ハース)とセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)

■評価 2/10:最下位が定位置になりつつあるふたり

 ふたりのカナダ人ドライバーが今回も評価上、最下位だった。ランス・ストロール(アストンマーティン)は、またもや予選でも決勝でもベッテルから大きく遅れ、予選Q1の短時間のなかで2度もクラッシュした。決勝でも、チームメイトとは異なり、光るところはなく、ポイント圏内から遠い位置を単独で走り、レース終盤、チームの指示でリタイアした。

 毎戦、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)を批判し続けるのが辛くなってきた。まるで大けがをしている人間を殴っているみたいな気分になる……。予選は今回もぱっとせず、決勝ではグリッド上でのメカニックの行為によってペナルティを受け、その後は他のドライバーたちから大きく遅れた位置を走り続けた。彼のベストラップは、アルボンより1.7秒も遅かった。……もうこれぐらいにしておこう。

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)

■全ドライバー評価/F1第8戦アゼルバイジャンGP(10段階)

評価 10/10
シャルル・ルクレール:予選1番手/決勝リタイア

評価 9/10
マックス・フェルスタッペン:予選3番手/決勝1位
ジョージ・ラッセル:予選5番手/決勝3位
ピエール・ガスリー:予選6番手/決勝5位

評価 8/10
セルジオ・ペレス:予選2番手/決勝2位
角田裕毅:予選8番手/決勝13位
周冠宇:予選14番手/決勝リタイア

評価 7/10
セバスチャン・ベッテル:予選9番手/決勝6位
フェルナンド・アロンソ:予選10番手/決勝7位
カルロス・サインツ:予選4番手/決勝リタイア
ランド・ノリス:予選11番手/決勝9位
ダニエル・リカルド:予選12番手/決勝8位
ルイス・ハミルトン:予選7番手/決勝4位

評価 6/10
アレクサンダー・アルボン:予選17番手/決勝12位
ケビン・マグヌッセン:予選16番手/決勝リタイア

評価 5/10
エステバン・オコン:予選13番手/決勝10位
バルテリ・ボッタス:予選15番手/決勝11位

評価 3/10
ミック・シューマッハー:予選20番手/決勝14位

評価 2/10
ランス・ストロール:予選19番手/決勝16位(DNF)
ニコラス・ラティフィ:予選18番手/決勝15位

2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP 表彰式
2022年F1第8戦アゼルバイジャンGP表彰式 優勝マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2位セルジオ・ペレス(レッドブル)、3位ジョージ・ラッセル(メルセデス)

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