ポーパシング&バウンシング解決の先を見据え……メルセデスが”将来のため”に施すアップデート

 

 メルセデスは今季開幕前から激しいポーパシング現象に見舞われ、マシンから期待通りのパフォーマンスを発揮できないでいる。またそのポーパシングは抑えられても、今度はバウンシングが起きてしまうという状況。その結果、今季ここまで未勝利であり、さらに最高位は3位(4回)に留まっている。
 そのメルセデスは、これらの問題を解決した後を見据え、様々な領域の開発にも着手している。その一端を先日のアゼルバイジャンGPの際に見ることができた。
 マシンのフロア下で発生するダウンフォースが増減することで、マシンが激しく上下動するポーパシング現象に、今季の全チームのマシンが大なり小なり見舞われている。中でもメルセデスは最も苦しめられているチームのひとつであり、昨年までのように優勝争いに加わることができず、トップ2チーム(レッドブルとフェラーリ)に大きく差をつけられている。
 またメルセデスは、ポーパシングは解消できたとしても、車高を下げることでフロアを路面に打ち付けてしまう”バウンシング”にも見舞われることになり、結果としてマシンの上下動は収まっていない状況だ。
 ドライバーのルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルは共にこの問題に苦言を呈しており、特にハミルトンはアゼルバイジャンGPの決勝レース中に、背中の厳しい痛みを訴えた。
 メルセデスは当然、ポーパシングまたはバウンシングを解消するために、空力面と足回りの面の改善を進めている。しかしその一方で、これらの問題の解消だけに全ての努力を投じているわけではない。
 アゼルバイジャンGPでメルセデスは、ゼロポッドを採用したことでサイドポンツーンから独立することになった側面吸収構造(SIS)を覆うフェアリングの下に、縦に突き出たフィンを追加してきた。
 メルセデスはこのSISの上にリヤビューミラーを搭載。その周りには小さなフィンが4枚取り付けられている。またリヤビューミラーの周りにはボックス状のフィンが取り回され、ステーも2本になっている。
 今回アゼルバイジャンで投入されたのは、このSISフェアリングから下に伸びるフィンである。これは明らかにポーパシングやバウンシングへの対策ではなく、空力的効果を狙ったモノであるのは間違いない。
 このフィンは、一見するとレギュレーションに反しているように見えるかもしれない。しかし実際には、レギュレーションで定められたボディワークの存在が許されているボックスの範囲内に収まっているものと思われる。
 メルセデスはこのフィンについて”リヤビューミラーのサポート”だと説明しているが、これについては議論が起きるかもしれない。しかし、パーツが存在する領域という面で見れば、合法であるのは明らかであろう。
 ただこのフィンによる変化は小さく、パフォーマンスの観点からすればそれほど重要ではないだろう。今のW13に求められているのは、ポーパシングやバウンシングの解消……ただそれらが解消した時には、今回投入したフィンなどが効果を発揮する可能性がある。
 チームが直面している大きな問題に対して、それほど重要とは思われないパーツを作った理由について、メルセデスのトラックサイド・エンジニアリング・ディレクターであるアンドリュー・ショブリンは、motorsport.comに対して次のように説明した。
「それは本当に、本当に小さな変更だ」
 そうショブリンは語る。
「しかし機能させるのが難しく、十分に速くないマシンを持っている時には、基本的な開発のために準備したモノを、風洞実験を行なうだけで残しておきたくないものだ。それは、ただただ時間の無駄なんだ」
「1ヵ月立ち止まってしまうと、年末まで開発の面で遅れをとってしまうのと同じようなことになるだろう」
「我々が今直面している課題のひとつは、我々にとっては本当に新しいことだ。マシンのバウンシングや乗り心地に関する基本的な問題を解決しようとしながら、パフォーマンスを向上させる作業も同時に行なわなければいけないんだ」
 ショブリンは、小さなアップデートであっても、ポーパシングに影響を与える大きな役割を果たす可能性があることを認める。
「我々は現在の状況を混乱させる可能性があることを行なわないように努めている」
 そうショブリンは言う。
「それと同時に、パーツを見てよく考える。そしてその効果が正しい方向への非常に小さいかもしれないけど、確実な一歩になることが分かっていれば、それを装着することができるんだ」
「今回のモノのような小さなパーツは、重要なモノじゃない。でも、我々が立ち止まっているわけではないことが確認できる、一種の典型的なモノなんだ」
 
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