パドック裏話:改革の陣頭指揮をとるFIA会長にチームは冷ややか
F1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。第13戦ハンガリーGP編です。
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多くの人がご存知のことと思うが、モハメド・ベン・スレイエムはかつてレーシングドライバーだった。より正確に言うなら、かなり高いレベルで戦っていた元ラリードライバーであり、彼はそれを自慢にしている。
現FIA会長のスレイエムは、会長選挙でもそうしたバックグラウンドを全面に打ち出し、それゆえにレーシングドライバーとレースを深く理解していると主張した。その後、昨年のアブダビでの出来事への対処にあたっても、ベン・スレイエムは自身が元ドライバーであるという事実に繰り返し言及している。
実際、あの一件の余波は大きく、たとえばレースコントロールのあり方の見直しや、ふたりの新たなレースディレクターの任命など、FIA内部でも重大な変革があった。
だが、これまでのところ、改革はあまり功を奏していない。オーストリアでは、激昂したセバスチャン・ベッテルがドライバーズブリーフィングの席を蹴って退室しているし、フランスで起きたバーチャル・セーフティカーの運用ミスも、究極的にはFIAの組織的欠陥に帰せられる。
特にFIAのモータースポーツ事務総長とF1エグゼクティブディレクターを務めたピーター・バイヤーが6月初めに離職したあと、一部のチームからはFIAの能力について懸念の声が上がっている。F1に関連した様々な責任を果たせるだけの経験、それも現代の経験を有する人材が絶対的に不足しているというのだ。
そうした状況もあって、ベン・スレイエムは直々に問題解決に乗り出そうと考えた。まさに文字どおりの意味で。
現在F1では、ドライバーたちの体を守るために、ポーパシングとバウンシングの解消を目指した作業が進められている。FIAの現会長は、これを自ら陣頭指揮しようと決めたのである。
FIAはベルギーGPから車両規定に変更を加えようとしているが、現時点での焦点は2023年以降に向けてのプランに移っている。今後チームがマシンの開発を進めて、パフォーマンスが向上すると、ポーパシングがこれまで以上に大きな問題になってくる可能性が高いと考えられるからだ。
ポーパシングへの対策として、すでにFIAは来季からフロアの位置を25mm上げることを検討中と言明している。しかしながら、大多数のチームはこの計画に賛意を示していない。
通常であれば、チームの大半が望んでいないルール変更は実現しないはずだ。ところが、FIAはこの変更を押し通すために「安全性の確保」を根拠としている。実際のところ、FIAがそうした手段を採るのは、まだ意見の対立があることの証拠にほかならない。
このテーマについての議論が紛糾するなか、ベン・スレイエムはその技術的ディスカッションに自身も出席することを決めた。そして、実際には話し合いに加わるだけでは気がすまなかった……。
ハンガリーGPの週末、スレイエムはいくつかのチームのガレージを訪れて、クルマを間近に観察することを望み、さらにそれらのフロアを調べて回った。想像してみてほしい。FIAのボスがガレージの床に寝そべって、クルマの裏側をしげしげと見ている場面を。当の本人としては、そうすることで来年のルールをどうすべきか、フロアを上げるのは25mmか10mmか、あるいはまた別の数字が良いのかという判断に役立てるつもりでいるようだ。
当然のことながら、こうした振る舞いはチームにはあまり歓迎されなかった。そして、ベン・スレイエムはFIAの職員を信じておらず、組織が関わるあらゆる仕事について、自分は誰よりもいい仕事ができると思っているらしいという印象を、人々の間に広めることにもなった。
あるチーム代表は、何かと首を突っ込んでくるFIA会長に「マッド・モハメド」というニックネームを献上した。自分の下で働く人々に対して、いつも怒っているように見えるからだという(訳注:ここでの「マッド(Mad)」は「怒りっぽい」の意)。
ベン・スレイエムがFIAの職員を信用していないのかと思われる一方で、チームもFIAとその会長への信頼を急速に失いつつある。このように複雑で難しい技術的問題について、会長が「自分は正しい判断ができる専門家だ」と思い込んでいるとしたら、それも当然の成り行きと言うべきだろう。
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