F1新規定導入でマシンは遅くなった!? ラップタイムから後退度合いを探る/2022年F1数字考第3回
空力関連などの大幅なレギュレーション変更を経て迎えた昨季2022年シーズンのF1。ラップタイム的には『遅くなった』という認識を多くの人がもっているだろう。もちろんラップタイムはマシンの性能を示す絶対的指標ではないし、そももそも“2022年規定”の主眼は追い抜きの増加にあったはずだ。ただ、やはりラップタイムが極めて見えやすく、わかりやすい“数字”であることは確か。2022年のF1における数字を軸に考える『F1数字考』企画の最終回はそこに着目することとしよう。
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ラップタイムの比較、これはシンプルなようで、実は意外と難しい。厳密にやろうとするならば温度条件や予選の展開(赤旗終了だったか否かなど)まで考慮しなければならず、完璧主義が過ぎると比較サンプルがほとんど採れなくなってしまうジレンマに陥るのだ。
今回は許容範囲をある程度広くして、2021年と2022年のタイム比較をしてみたいと思う。
コース全長&基本レイアウトが同じ(=同一コース)で、予選Q3が両年とも概ね完全なドライコンディションと判断できる状況ならばOK、というスタンスでサンプルを採る。路面や縁石の改修、供給タイヤコンパウンド等々の要素はほぼ全面的に無視するのでご了承を。路面状態についても筆者と編集部の主観的判断であることをご承知おきいただきたい(とても微妙な判断を強いられたQ3もあった)。
2021年と2022年のF1はいずれも全22戦。このうち、同一コースで開催されたグランプリは17だった。ちなみにレッドブルリンクでは2021年が2グランプリの開催だったが、グランプリ名ベースでの判断とし、2021、2022年とも開催があったオーストリアGP同士をペアリングして17のなかに含んでいる。
17のグランプリのうち、両年とも予選Q3が概ね完全ドライと判断したグランプリ(コース)は13。けっこう曖昧な条件付けでも、比較サンプルは全22戦の半分ちょっとしかないのである。とはいえ、13あれば一定の比較は可能だろう。
以下の表は、2022年と2021年、両年の“予選Q3における1位”のタイムの単純比較である。総じて2022年の方が遅いため、2022年に遅くなった秒数と、“遅くなった度合い”(%)を一覧にしている。
(※遅くなった度合いは、2021年のタイムを100%とした場合に、2022年のタイムが“超過”した%を記載。例:2022年のタイムが2021年のタイムの101.8472%なら、1.85%と記載。小数点第三位を四捨五入)
■予選Q3の1位タイム比較
GP | 2022年 | 2021年 | 遅くなった秒数 | 遅くなった度合い(%) |
---|---|---|---|---|
バーレーン | 1分30秒558 | 1分28秒997 | 1.561秒 | 1.75% |
サウジアラビア | 1分28秒200 | 1分27秒511 | 0.689秒 | 0.79% |
スペイン | 1分18秒750 | 1分16秒741 | 2.009秒 | 2.62% |
モナコ | 1分11秒376 | 1分10秒346 | 1.030秒 | 1.46% |
アゼルバイジャン | 1分41秒359 | 1分41秒218 | 0.141秒 | 0.14% |
オーストリア | 1分04秒984 | 1分03秒720 | 1.264秒 | 1.98% |
フランス | 1分30秒872 | 1分29秒990 | 0.882秒 | 0.98% |
ハンガリー | 1分17秒377 | 1分15秒419 | 1.958秒 | 2.60% |
オランダ | 1分10秒342 | 1分08秒885 | 1.457秒 | 2.12% |
イタリア | 1分20秒161 | 1分19秒555 | 0.606秒 | 0.76% |
アメリカ | 1分34秒356 | 1分32秒910 | 1.446秒 | 1.56% |
メキシコ | 1分17秒775 | 1分15秒875 | 1.900秒 | 2.50% |
アブダビ | 1分23秒824 | 1分22秒109 | 1.715秒 | 2.09% |
(平均1.64%) |
コース名には複数の呼び方があったりするので、グランプリ名で表記した。また、サウジアラビアGPは2021年が12月で2022年は3月だったが、時季的な影響は大きくないと判断している。
上表の全13グランプリにおける、2022年の“遅くなった度合い”の平均は1.64%だった(各グランプリの四捨五入後の数字から単純平均をとった数字)。あくまで今回の統計の仕方においては、という前提はつくが、2022年、F1マシンは前の年より平均で1.64%遅くなったのである。
13グランプリのうちで2021年から最も遅くなったのは、遅くなった度合い2.62%のスペインGP。2%以上は5つあり、スペイン、ハンガリー、オランダ、メキシコ、アブダビの各GPだった。ラウンドの進み具合(マシンの熟成具合)とはあまり関係しないようで、むしろシーズン後半に遅くなった度合いが大きい(2%以上)グランプリが多いくらいだ。
ということは、やはりコース適性に依存する部分が大きいのか。遅くなった度合いが小さかったグランプリ、遅くなった度合い1%未満のコースは4つで、サウジアラビア、アゼルバイジャン、フランス、イタリアである。遅くなった度合いのミニマムはアゼルバイジャンGPの0.14%。
あまり遅くなっていないこれらのグランプリの共通項を探すと、直線あるいは直線的な部分が長いコース、ではないだろうか? もちろん一概にはいえないと思うが、2022年に予選ラップタイムの落ち幅があまり大きくならないための要素のひとつがそれであった、とはいえそうだ。
平均の1.64%に最も近いのはアメリカGPの1.56%。サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)は現代F1における最も平均的なコース、なのだろうか。一方、いつの時代も最も特殊性が高いコースと考えられがちなのはモナコGP。でも、これが平均値に近い1.46%なのは少々意外?
ちなみに日本GP(鈴鹿サーキット)は2020〜2021年と開催がなかったわけだが、参考値として2019年と2022年で比較したところ、2022年に遅くなった度合いは2.31%だった。遅くなった度合いは大きめの部類に入る。なんとなくだが、平均をとった13グランプリの傾向とあわせて考えると納得できるところだ(鈴鹿の参考値は平均の算出に含まれていない)。
とにかく、これらはあくまで参考としてご理解いただければ幸いである。記録も含めて、数字とはそういうもの。すべてをひっくるめて体現することはできないのだから。
■タイムの比較によって見えてきた“F1チームの開発力の早さ”
さて、2022年のマシンがラップタイム的に遅くなった理由を考えると、やはり車重の増加が最大の理由ではないか。タイヤ/ホイールサイズの変更も影響しているだろう。車重に関していえば、2022年はドライバー込み、燃料レスの状態での最低重量が798kg。2021年より約6%もマシンが重くなっていたのだから、一発の速さが少し遅くなるのは当然ともいえよう。これくらいで済んでいるのは立派?(他の要素を完全に無視した話だが)
ここで、次のような疑問を感じる方もいるだろう。
「F1のマシン規定はほぼ毎年なんらかの変化があると思うが、2021年のマシンは大きなくくりでいう“2017年規定”の最終版であるはず。新規定初年度の2022年マシンにとって、あまりに不利な比較相手では?」
確かに。それでは、ハンガリー、イタリア、アメリカ、メキシコの4グランプリに関して、2016年から予選Q3最速タイムの変遷を見てみよう。
■2016〜2022年における予選Q3の1位タイム推移
GP | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ハンガリー | 1分19秒965 | 1分16秒276 | ウエット | 1分14秒572 | 1分13秒447 | 1分15秒419 | 1分17秒377 |
イタリア | 1分21秒135 | ウエット | 1分19秒119 | 1分19秒307 | 1分18秒887 | 1分19秒555 | 1分20秒161 |
アメリカ | 1分34秒999 | 1分33秒108 | 1分32秒237 | 1分32秒029 | 開催なし | 1分32秒910 | 1分34秒356 |
メキシコ | 1分18秒704 | 1分16秒488 | 1分14秒759 | 1分14秒758 | 開催なし | 1分15秒875 | 1分17秒775 |
シルバーストン(イギリス)、バルセロナ(スペイン)といったところを入れたかったが、シルバーストンは肝心の2022年の予選Q3が雨、バルセロナは2021年からコース全長が変わっており、採用を断念した。
低速寄りの印象が根強いハンガリー、高速系の代名詞であるイタリア、今回の統計では中間的と思われるアメリカ、標高が高いという個性をもつメキシコ、この4つの流れを見ると、ザックリしたくくりの2017年規定時代(2017〜2021年)には、それほど大きなタイム変動はなかったといえよう(ハンガリーGPはやや乱高下気味だが)。
“2017年規定2年目”の2018年に若干の高速化傾向こそ感じられるが、F1チームの開発力は早い段階で、つまり新規定1年目にして“その規定のマックス”に近い領域に一応の到達を果たしてしまう、ということが言えそうなのである。
ということで、大きなくくりで見た“2022年規定2年目”の2023年になって急激なまでの状況変化があるということは考えにくい。それこそ2017年は明らかに2016年よりも速くなっていたわけで、2022年が2021年比でそうならなかったということは、当面は概ね2022年のタイム水準が続く可能性が高そうだ(F1の場合、ささいな規定変更がゲームチェンジャーの役割を果たすことも考えられなくはないので、断定はできないが)。
鈴鹿サーキットの予選コースレコードは1分27秒064。2019年、台風の影響で日曜(決勝日)の実施になった予選のQ3でセバスチャン・ベッテル(当時フェラーリ)がマークしたタイムである。3年ぶりの開催だった2022年のQ3トップタイムは1分29秒304(マックス・フェルスタッペン/レッドブル)。鈴鹿1分26秒台という次の夢が実現するのは、しばらく先のことになりそうだ。
昨季を最後にF1から引退したセブ、大好きな鈴鹿のレコードホルダーの座は当分、安泰なようですよ。
2022年規定導入の主たる目的であったレース中のオーバーテイクの増加、こちらの効果のほどはどうだったか? オーバーテイクについて自主統計で語ることは困難、あくまで個人の感覚的なところで話すのが精一杯だが、大きな状況変化はなかった、ように感じられる。ただ、抜けそうで抜けないまま、といった状況は少し減ったようにも思えた。読者のみなさんはどんな感覚をお持ちだろうか。
今季2023年のF1も新車発表が続くなどして、開幕近しの雰囲気が強くなってきた。“2022年規定2年目”は、どういう数字の動きが見られるのか、楽しみにしたいものである。
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