アストンマーティンF1の速さの秘密を探る:ふたりの空力専門家が求めた最適解。単純な模倣でなく長期的展望を探求
2023年F1第1戦バーレーンGPでフェルナンド・アロンソにより3位表彰台を獲得したアストンマーティン。驚きの飛躍を成し遂げることができた理由は何なのか、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが分析する。
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■層の厚い技術陣営
AMR23は元レッドブルの空力部門責任者ダン・ファローズが、アストンマーティンのテクニカルディレクターに就任して初めて、ゼロから指揮を執って開発したマシンだ。またレッドブル同僚でもあった元メルセデスのチーフ空力エンジニア、エリック・ブランディンの専門知識も生かされている。
つまりアストンマーティンはF1チームの中で唯一、技術部門のトップに2人の空力専門家がいることになる。そしてそれは決して、偶然ではない。空力こそが速さの源泉だという信念のもと、彼らは開発を進めてきた。パワーユニット、ギヤボックス、油圧、リヤサスペンションを共有するメルセデスW14よりもAMR23が優れている理由は、まさにそこである。
AMR23の外見上の特徴のひとつが、サイドポンツーンの形状だ。去年型のサイドポンツーンがレッドブルRB18からインスピレーションを得たのに対し、今年のボディワークは別のチーム、アルピーヌのそれに非常に似ている(レッドブルのクリスチャン・ホーナーやヘルムート・マルコの皮肉な発言とは矛盾するものだが)。英国エンストンで開発されたアルピーヌA522やA523と同様、AMR23もサイドポンツーン上部が溝のように深く抉れている(黄色矢印参照)。
ファローズとブランディンをサポートするのは、元アルファロメオのチーフデザイナーでマクラーレンやトロロッソでも活躍したエンジニアリングディレクターのルカ・フルバット(下写真中央)だ。
ローレンス・ストロールの積極的な採用方針に納得したこの3人の離反者は、他にも多くのエンジニアを伴い(2021年にはレッドブルから7人のエンジニアがアストンマーティンに加わった!)、元ブリヂストンの松崎淳(下写真左)らビッグネームがすでにいたチームのエンジニアリングレベルをさらに向上させた。一方でこれらのエンジニアたちの高額な年俸が、予算制限の中でどのように収まるのか、注目されるところだ。
AMR23の開発に関して、チームは「シーズン中もアグレッシブに改良を重ねていく」と、表明している。つまり今後もいっそう速くなっていく可能性があるということだ。一方で開幕戦でいきなり表彰台に上がったフェルナンド・アロンソは、まだマシンの複雑さをすべてマスターしていないことを認めている。
バーレーンでは4コーナーの立ち上がりで2度もアクセルを踏み込み、リヤエンドを滑らせてしまった。
「あれは完全に、僕のミスだった。マシンに慣れなければならないし、ドライビングに必要なもの、ステアリングホイールの感触など、すべてのことがまだ100%自分のスタイルに合っていない」
■大きな野心を実現するための確かな基盤となるか
メルセデスやフェラーリが独自のコンセプトを追求したのに対し、アストンマーティンは昨シーズンまでに存在していた中から最適解を求め、それを模倣する手法を取っている。とはいえこれまで散々、「ピンクメルセデス」や「グリーンブル」と揶揄や非難されてきたように、単なるライバルのコピー工場だと考えるのは早計に過ぎる。
新たなファクトリーにまもなく引っ越し、2024年までに独自の風洞を持つ予定であるこのチームを動かしているのは、オーナーの凄まじい野望に見合った新しい野心である。頂点に立つためには、競合他社をコピーするだけでは不十分であることを、ダン・ファローズたちは知っている。確かにファローズはエイドリアン・ニューウェイから多くを学んだが、一方でレッドブルの空力哲学を構築したのもファローズ自身である。
49歳イギリス出身のファローズは、「我々は今の技術規約を、かなりアグレッシブに解釈している」と語る。「数カ月後、数年後にどんなコンセプトが流行るかを想像し、通常の開発過程を大胆にスキップしようと思っているのだ」
「つまりこのマシンで我々が成し遂げたかったのは、性能を一歩前進させるだけでなく、将来の開発に向けた強固なプラットフォームを提供することだ。現時点では、なぜこんな形状なのか理解できない部分もあるかもしれない。しかしそれこそがまさに、我々が今後発展させていこうと思っている領域なのだ」
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