F1第11戦技術解説:マクラーレンはなぜ突然速くなったのか(1)空力効率向上をもたらした新フロントウイング
2023年F1第11戦イギリスGPで驚きの速さを発揮したマクラーレンMCL60の最近のアップグレードを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察。細部の画像を紹介するとともに、速さの理由を分析する(全3回)。
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マクラーレンがイギリスGPで、2位表彰台を獲得した。突然の戦闘力向上には、様々な要因が絡んでいる。旧仕様との比較写真を駆使して、説明しよう。
■新フロントウイングを導入
レッドブルさえいなければ、2023年のF1シーズンは史上最も熱い戦いのひとつとなっていただろう。レッドブル以外の9チームのマシン形状は、グランプリごとに目まぐるしく変化している。こうした絶え間なく繰り返されてきたアップデートのおかげで、アストンマーティン、メルセデス、フェラーリが、レッドブルには手が届かないまでも、2番手の座を争ってきた。
それがシルバーストンでは、マクラーレンMCL60がレッドブルに次ぐ速さを披露した。セーフティカーの不運がなければ、ダブル表彰台の可能性も十分にあった。
簡単に言えば、成功の要因は主にふたつあった。まずシャシー改良がうまく行ったこと。そしてシルバーストンサーキットの特性、特にこの週末の天候に助けられた点だ。このふたつのパラメータが相まって、マクラーレンのパフォーマンスは期待したより何倍も高まったのだ。詳しく見ていこう。
マクラーレンは、MCL60の一連のアップデートを、オーストリアGPから、イギリス、ハンガリーと3戦連続で入れる計画を立てた。オーストリアではまず、アストンマーティンとレッドブルにインスパイアされた新しいサイドポンツーンを、ランド・ノリス車にのみ投入した。その結果、ノリスが予選4番手を獲得。決勝でも、アストンマーティン、フェラーリ、2台のメルセデスを抑えて、4位入賞を果たした。
続くイギリスGPでは、オスカー・ピアストリのマシンもサイドポンツーンの改良を受けた。ただ、新しいフロントウイングを装着したのは、ノリス車だけだった。ウイングの変更点については、最初の2枚の比較写真でわかるように、プロフィールはよりフラットになり(黄色のラインを比較)、アッパーフラップのアジャスターは外側に移動した(中2枚の比較写真・緑色の矢印)。
■空力効率が向上
一方でフラップと翼端板との接続の仕方も、大きく変わった。下の比較写真の赤矢印で示したように、フラップの両端はほとんど切り離され、金属パーツで固定された形だ。その結果、前方からの気流は、より外側へ導かれる。これは去年、メルセデスが先鞭をつけたデザインだ。
このいわゆる“アウトウォッシュ”は、フロントウイングの後流で発生した渦がサイドに向かって吹き上がり、前輪の回転によって発生した乱流がフロア下に入り込むことなく、外側に飛んでいくことだ。
これらの改良により、マクラーレンはコプス、チャペル、ストウなどの高速コーナーで、特に速さを発揮した。多くのダウンフォースを発生させると同時に、過剰なドラッグに悩まされなくなったのだ。対照的なのがアストンマーティンで、ダウンフォースの発生量は大きいが、ドラッグも多く、シルバーストンでは特に不利だった。
(第2回に続く)
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