”ミニ”スカートを実現するため? F1チームがサイドポンツーンをこぞって「ダウンウォッシュ」にする理由

 

 今年のモナコGPでは、メルセデスがサイドポンツーンの形状を大変更。これまでの”ゼロポッド”と呼ばれていたコンセプトを捨て、多くのチームが使っているダウンウォッシュ型を選んだ。またスペインGPではフェラーリも、それまでのバスタブ型を諦め、やはりダウンウォッシュ型を採用。これにより、グリッド上のほとんどのマシンが、ダウンウォッシュ型のサイドポンツーンを備えることになった。
 このダウンウォッシュ型のサイドポンツーンには、どんなメリットがあるのだろうか?
 サイドポンツーンの上面の気流は、その部分で何が起きているかということが最も重要なわけではない。その形状が、マシンの他の部分にどのように作用しているのか、それが最も重要視される。
 マクラーレンのチーム代表であるアンドレアス・ザイドルによれば、サイドポンツーンの幅を広げてダウンウォッシュ型にすることにより、その下部にアンダーカットを設けられるようになり、かつてのグラウンド・エフェクトカー時代の”スカート”と同じような効果を発揮できるようになるという。
 かつてのグラウンド・エフェクトカー時代には、フロア下の気流を外部の乱流から守るために、フロア端にはスカートが吊り下げられ、気流の流路を確保していた。
「単純に”ダウンウォッシュ”だとは言わない。幅が広いサイドポンツーンと言うことができるだろう。実際このサイドポンツーンは、フロアと非常によく作用するコンセプトだと思う」
 ザイドル代表はそう語った。
「簡単に言えば、このサイドポンツーンは”ミニ”スカートのような役割を担っているんだ」
「空力学的に言えば、幅広のサイドポンツーンは、フロアの吸引力を手助けする。フロアの吸引力と、マシンへの荷重と最大限に高めるには、これなしではいられない。そういうコンセプトだ。そして全チームがその方向に収束しているというのは、非常に明らかなことだ」
 前述の通り、以前のグラウンド・エフェクトカー全盛期には、サイドポンツーンの下に沿ってスカートを設け、フロア下を密閉。これにより、フロア下で発生するダウンフォースを高めていた。しかし現在では、フロアの最低高に制限が存在するため、当時のようなスカートを設けるのは不可能。ただ、フロア下で起きていることについての一般的な理論は、当時も現在も同じと言える。
 ステラ代表が言う幅広のサイドポンツーンは、フロントタイヤによって生み出される後方乱気流に対処する手段だと見なすことができる。これは、以前のレギュレーション下でディフレクターが行なっていた仕事と同様だ。しかし、その乱流をボディワークから切り離すための設計の自由度は、それほど高くない。
 しかしサイドポンツーンでうまく気流を制御することができれば、フロントタイヤで生み出された乱気流をサイドポンツーンの側面やフロア端を通して、フロア下のスカートを生み出してダウンフォース発生を助け、リヤタイヤで生み出される乱流をも制御し、ディフューザーへの悪影響も軽減できる。
 もちろんこれらの解決策は、1980年代のグラウンド・エフェクトカーで見られたような直接的で極端なモノではない。しかし、チーム間の差が小さくなっている今日のF1では、そこで得られる利益は実に重要なのである。
 フェラーリは風洞実験を進めていく中で、このダウンウォッシュスタイルのサイドポンツーンの効果が明らかであることに気付き、アプローチの変更に取り組んだということだろう。
 現在のF1には、予算制限が課されているため、各チームが使えるリソースは有限である。そのため、別のコンセプトに切り替えることを決断するには、時間がかかる。
 フェラーリでドライバーコーチを務めるジョック・クレアは、次のように語る。
「我々は誰かがやったことを真似ているわけではない。彼らがやったことを見ているだけだ。そして風洞に戻って、それが機能するのか確認する」
「そうやって出来てきたモノが、今のマシンに反映されている。それが機能すると判断したからだ。結局のところ、我々は科学に従っているだけだ。そして空力には素晴らしい部分があり、それがこのスポーツの素晴らしい部分だ。それが、我々がF1を戦う理由でもある。私の場合は30年にもなる。毎日が異なり、毎年異なり、そして全てのクルマが違うから、これをやっている。そして我々はまだ学んでいるし、問題を解決する方法は無数にある。それを全てカバーすることなんて絶対にできない」
 フェラーリにとって、バスタブ型を捨て、ダウンウォッシュ型に変更することは、いくつか妥協を強いられることになった。
 例えば、インテークの形状と位置は維持されたが、サイドポンツーンとフロアの関係性という面では、これまで行なってきた作業が意味をなさなくなるわけだ。
 しかし、マシンのパフォーマンスを最適化する作業が続いていかないというわけではない。他チームがこの部分に積極的に修正を加えてきていることを考えれば、パフォーマンスを向上させる余地は間違いなくあるはずだ。
 しかしアストンマーチンやウイリアムズは、昨シーズンの途中でそれまでのコンセプトを捨て、ダウンウォッシュ型を採用した。そしてそれを、今シーズンにかけてさらに最適化させてきた。
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