F1技術解説:第6戦(2)W13はレッドブルとフェラーリのいいとこ取りに? 悩めるメルセデスが踏み出した大きな一歩
2022年F1第6戦スペインGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点などについて解説する。第1回「劇的に速くなったメルセデス。W13に向上をもたらした新フロア」に続く第2回は、メルセデスのスペインでのパフォーマンスについて分析した。
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W13の基本コンセプトは、フロアのエッジを高速走行中に変形させてマシン下の空間を完全な密閉状態にし、強大なダウンフォースを生み出すというものだった。しかしそれによってここまで激しいポーパシングが起きることは、メルセデスの開発エンジニアたちにはまったく想定外だった。
テクニカルディレクターのマイク・エリオット、空力部門チーフのジャロッド・マーフィーの指揮の下、メルセデスはフロア剛性を高め、同時にフロアに切り込みを入れた。その結果、ピークダウンフォースは減少した反面、安定した状態でダウンフォースが発生するようになり、結果としてポーパシングの劇的な収束につながった。
とはいえジョージ・ラッセルは、改良型マシンのパフォーマンスに100%満足はしていない。
「ポーパシングは確かに大きくなくなった。でもそれと引き換えに、多くのダウンフォースを失った。優勝を争うドライバーたちに追いつけるほどのクルマかといえば、残念ながら現状はそうではないね」
しかしそのラッセルは、予選ではセルジオ・ペレスのレッドブルを抑えて4番グリッドを獲得した。ポールシッターとのタイム差は0.817%で、バーレーンよりは大きいものの、ここ4戦よりは小さくなっている。
そしてレースでは、グランプリ終盤に水漏れによるオーバーヒートの問題がなければ、メルセデスは3、4位を獲得していた可能性があった。さらに楽観的に言うなら、スタート直後にルイス・ハミルトンがケビン・マグヌッセンにヒットされて45秒を失っていなければ、2位にさえ届いていたかもしれない。ハミルトンは異なる戦略でスタートし(唯一ミディアムタイヤでスタート)、レースに適応したセットアップ(フロントダウンフォースを強化した)のおかげで、チームメイトよりコンマ4秒速い自己ベストタイムを記録した。
しかしそれらはあくまで、仮定の話に過ぎない。実際にはラッセルは、3位表彰台を射止めたとはいえ、マックス・フェルスタッペンやシャルル・ルクレールよりもコンマ5秒から7秒遅かった。つまりW13のコンセプトがタイトルを狙えるものかどうか、設計者たちが決定的な判断を下すのは時期尚早だということだ。
そして今季の開発の方向性が間違っていると結論づけられた場合、来季に向けて大きなコンセプト変更を迫られることになる。しかしそれを実行するには、バジェットキャップ(年間予算制限)が大きな壁となって立ちはだかることになるだろう。
一方でメルセデスがコンストラクターズランキング3位を維持すれば、6月末に割り当てが変更される際に、メルセデスはレッドブルやフェラーリよりも多くのシミュレーション(風洞やCFD)を行うことができるようになる。
とはいえ、今回のスペインでメルセデスが予選でレッドブル1台に勝ったことは、本当に大きな進歩だった。次戦以降の展開を待つ必要があるが、現時点でのW13は、直線で速く、低速コーナーでは効率的で、高速コーナーでも悪くないと思われる。つまりレッドブルとフェラーリのいいとこ取りをしたマシンということだ。ポーパシングがかなり制御できるようになったことで、メルセデス開発陣はようやくピレリタイヤの理解や、シャシーの正常な開発に集中できるようになる。
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