【F1第21戦無線レビュー】「そういうことは二度と頼まないでくれ」無線に応えず、順位の返還を拒否したフェルスタッペン
2022年F1第21戦ブラジルGP。予選ではケビン・マグヌッセンが自身、そして所属するハースF1チームにとっても初となるポールポジションを獲得し、決勝ではジョージ・ラッセルがキャリア初優勝を飾るなど、新たなヒーローが誕生した週末となった。一方ダブルタイトルを獲得したレッドブルでは、レース終盤に思わぬ問題が発生した。そんなブラジルGPを無線とともに振り返る。
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単なる無線のやりとりから、かなり赤裸々な人間関係が窺える。今年のブラジルGPは、そんな週末だった。
ジョージ・ラッセルとルイス・ハミルトンが最前列に並び、今季初めてメルセデスがフロントロウを独占した。
スタート直後、ケビン・マグヌッセン(ハース)がダニエル・リカルド(マクラーレン)に接触され、2台がリタイア。1周目からセーフティカー(SC)が導入された。
L1
マグヌッセン:ごめんね。押されて、リタイアになってしまった。
7周目のレース再開。3番手のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がスタート加速でハミルトンに迫り、ターン1でアウト側から抜きにかかったが、2台は接触。フェルスタッペンはフロントウイングにダメージを負って大きく後退した上に、5秒ペナルティまで科されてしまう。
ハミルトン:あれは、レーシングインシデントじゃない
いったんは8番手まで順位を落としたハミルトンだったが、先行車を次々にかわし、45周目にはセルジオ・ペレス(レッドブル)も抜き去って、2番手に復帰。再びメルセデスの1-2体制となった。
55周目、ランド・ノリス(マクラーレン)がコース上に止まったことで、まずバーチャルセーフティカー(VSC)。続いてSCに変更される。これで優勝を争うラッセルとハミルトン、そして3位争いのペレスとサインツのギャップが、一気に縮まった。
L55
ラッセル:どうするの? 1-2をキープするの? それともレースするの?
リカルド・ムスコーニ:レースする。ただしお互いのリスペクトを、忘れずにね。
ラッセルにしても、当然自分の首位が安泰だとは思っていない。それでも一応、釘を刺しておこうということなのだろう。なにしろ初優勝が、かかっているのだから。もちろんハミルトンも、アピールを忘れない。
L56
ハミルトン:背後にニュータイヤの連中がいるんだけど
実際にはハミルトンよりタイヤ寿命が若いのは4番手のサインツだけで、それほど脅威を感じているわけではないだろう。
背後ではメルセデス同様、チームメイト同士で並んでいるアルピーヌの2台がもめていた。8番手のエステバン・オコンが、チームからの指示に真っ向から異議申し立てをした。
L58
ジョシュ・ペケット:後ろのフェルナンドの方が、タイヤのアドバンテージがある。ベッテルの前に出ることに集中したい。2台でレースしないことを確認してくれ。
オコン:僕にレースさせてくれ! リスタートで遅れを取りたくないし。
ペケット:いいか、エステバン。フェルナンドと戦うことは認めない。わかったか。
オコン:ベッテルを抜きたい。フェルナンドと、レースするつもりはないよ。
ペケット:それは、かまわない。ただフェルナンドの邪魔をするな。
7番手ベッテルは13周走ったミディアムタイヤ。オコンは11周のソフトタイヤ。再スタートで抜ける、抜かせてくれと懇願した。しかしオコンのすぐ後ろのアロのタイヤは、6周のソフト。チームにしてみれば、とにかくオコンがアロンソをブロックするようなことは避けたい。
そして60周目のリスタート直後、2台は次々にベッテルをかわしていく。さらにアロンソがあっさりと、オコンを抜き去っていった。
一方使い古したミディアムで走り続けるペレスは3番手からズルズルと順位を落とし、終盤65周目にはアロンソにも抜かれて6番手に。背後にはフェルスタッペンがつけた。
L67
ジャンピエロ・ランビアーゼ(→フェルスタッペン):ルクレールとアロンソをやっつけてくれ
これでペレスはフェルスタッペンに順位を譲った。しかしそこからのフェルスタッペンのペースが、思ったほど伸びない。
一方、4番手のルクレールは、チームにこんな要求をした。
L68
ルクレール:順位がこのままだったら、チャンピオンシップのことを考えてくれ!
マルコス・パドロス:了解した。
この時点でルクレールは、ドライバーズ選手権2位のペレスを5ポイント差で追っていた。ペレスが苦戦している今、選手権2位を奪い返す絶好のチャンスだ。3番手サインツと、順位を入れ替えさせてくれという婉曲な依頼だった。とはいえサインツが、せっかくの表彰台を簡単に譲るはずもない。しかしルクレールにしてみれば、これまで何度も散々な目に遭ってきたのだから、という思いだっただろう。
ルクレール:ポイントのことを考えてくれ
マルコス・パドロス:それはリスクが大きすぎる
ルクレール:すごいジョークだね
最終的に、ルクレールの願いは拒否された。
そしてレッドブルの2台は、フェラーリ以上におかしなことになっていた。
L71
ランビアーゼ(→フェルスタッペン):もしアロンソを抜けないなら、取り決め通りチェコを前に行かせてくれ
フェルスタッペンからの返事はない。
ランビアーゼ:マックス、チェコを先に行かせてくれ。マックス、お願いだから
フェルスタッペン:(無言)
ランビアーゼ:マックス、どうしたんだ。
フェルスタッペン:前にも言っただろう。僕にそういうことは、二度と頼まないでくれ。わかったか? 前に理由は言ったし、それが正しいと僕は思ってる。
こうしてフェルスタッペンは最後までペレスを先行させず、6位チェッカー。ペレスは7位完走。ルクレールも順位を譲ってもらえなかったが、4位に入ったことでペレスから選手権2位を奪うことに成功した。
チェッカー後
マルコス・パドロス:チャールズ、4位だ。素晴らしい仕事だ。
ルクレール:なんだって?
マルコス・パドロス:素晴らしい仕事だ、と言ったんだ。
ルクレール:素晴らしい。確かにね。
メキーズ:よくやった、チャールズ。順位のことは、理由がある。あとで話そう。
ルクレール:なんの理由なんだろう……。僕にはわからない。でも、もういいよ。
ヒュー・バード:マックスは譲ってくれなかった。
ペレス:そうか、それは本当にありがとう。
クリスチャン・ホーナー代表:チェコ、本当に申し訳ない。
ペレス:彼が本当はどんな人間か、ということだね
レース後のインタビューでもフェルスタッペンは、譲らなかった理由を語ることを避け続けた。一方でペレスは、「彼がふたつのタイトルを得られたことは、僕に感謝してくれないとね」と、吐き捨てた。
ここまで完璧なシーズンを送ってきたように見えるレッドブルだが、この一件はしばらく尾を引きそうだ。
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