【F1チームを支える人々(1)トム・マッカロー/アストンマーティン】不可能を可能にするエンジニアリング部門の要
F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないチームメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。第1回で取り上げるのは、フォース・インディア時代からチームを支えてきた、アストンマーティンF1チームのパフォーマンスディレクター、トム・マッカローだ。
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この数年間、アストンマーティンF1チームでは大きな変化が起きている。ローレンス・ストロールがオーナーになったことに伴い、多額の資金が流入。施設に大規模な投資を行うことが可能になり、新しいファクトリーがほぼ完成し、現在、移転の準備が整いつつある。それと同時に、人員面への投資も積極的に行われてきた。
マイク・クラックがチーム代表に就任した後、空力の分野でも優れた人々が大勢加入した。その筆頭となるのは、ダン・ファローズとエリック・ブランディンであり、2023年に優れたマシンを生み出せたのは、彼らの貢献あってのことだったと考えられている。今年のAMR23は、ここまでの3戦ですべて表彰台を獲得しており、アストンマーティンは、コンストラクターズ選手権2位につけているのだ。
ファローズとブランディンが加入し、ほどなくして、長年チーフテクニカルオフィサーを務めてきたアンドリュー・グリーンがチームから離れた(彼は今もアストンマーティンの他の部門で働いている)。アストンマーティンにおいて体制が一新されたようにも見えるが、実際にはそうではなく、古くから働いている優秀な人々が大勢いる。そのひとりがパフォーマンスディレクターのトム・マッカローだ。
■チームが最大の力を発揮できるよう全体の監督を行うパフォーマンスディレクター
マッカローのパフォーマンスディレクターという仕事は、週末においてのチームのパフォーマンスを監督し、最大限の競争力を発揮するための責任を負うことだ。
イギリス出身のマッカローは、チームがフォース・インディアとして活動していた時代の2013年末に加入、当初はチーフレースエンジニアを務め、現在では昇格してパフォーマンスディレクターになった。
他の人々のことを持ち出したくはないのだが、マッカローは、一部のエンジニアとは異なり、非常に複雑な技術的な話題を、普通の人間が理解できるように話すという、素晴らしい能力を持っている。極端に複雑な問題を多数含んでいるような話題においても、相手が分かるように説明する。それが自分の仕事であり、責任であるという姿勢を持っているのだ。
マッカローは、父親の趣味を通してレースに興味を持ち、若いころは、イギリス国内のさまざまなサーキットに入り浸った。その後、彼はエンジニアリングに関心を持つようになり、自動車工学の学位を取得、伝説的なレーシングカーメーカーであるレイナード・モータースポーツに入社した。
レイナードが閉鎖された後、マッカローは、F1チームへと活動の場を移した。パフォーマンスエンジニアとしてウイリアムズに加入し、10年を過ごし、ザウバーのヘッド・オブ・トラックエンジニアリングに就任し、スイスに移住。その後、ニコ・ヒュルケンベルグのフォース・インディア復帰と同時期に、マッカローは同チームに移籍した。
■厳しい時代の経験から、チームの多数の部門の橋渡しをする能力を培う
フォース・インディアにおいて、マッカローはたくさんの経験を積むことができた。当時チームは、非常に限られた予算内で運営されており、しかも年々、金銭面で厳しくなっていった。そういう状況のなか、マッカローは、通常のチーフレースエンジニアの役割を越えて、多数のミーティングに参加し、多くの意思決定に関わっていったのだ。
フォース・インディアからレーシングポイント、そしてアストンマーティンへと名称を変えていったこのチームを表現する際にしばしば使われる言葉のひとつが、『不可能と思われるような結果を出す』というものだ。マッカローは、それを成し遂げている典型的な例といえる人物である。才能あるエンジニアである彼は、複数の異なる部門を連携させて、サーキットでの作業がスムーズに進むことを可能にし、毎レース、チームが学んだことを進歩につなげるため、ファクトリーとの橋渡しもする。本当に素晴らしい能力の持ち主だ。
まだ47歳でありながら、マッカローはそれまでの経験によって、現在のパフォーマンスディレクターというポジションまで上り詰めた。エンジニアリング部門全体を監督する彼は、今後、チームが新しいファクトリーを最大限に活用するためには何が必要なのか見極める上でも、中心的な役割を果たしていく。
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