F1技術解説:マイアミGP(2)とてつもなく大きなスピード差に苦しむメルセデス。W14をいまだに理解できず

 

 2023年F1第5戦マイアミGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回「フェラーリを困惑させるSF-23の予測不能な挙動」 に続く今回は、メルセデスW14の細部の写真を紹介するとともに、メルセデスが苦戦した週末を振り返る。

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 マイアミGPでのメルセデスは、フェラーリと同じような自問自答を繰り返していた。ブラックリーのエンジニアたちもW14の平凡なパフォーマンスに驚き、しかもその原因をはっきり把握できなかったのだ。

 マイアミの市街地サーキットで、ルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルのマシンは縁石を乗り越える際の衝撃をうまく吸収できず、低速コーナーではまったく戦闘力がなかった。その結果、予選ではフェラーリより0.5秒ほど遅かった。

 ただしレースでは、ハミルトン車の戦略やタイヤマネジメントが良かったこともあり、良い結果を残すことができた。しかしレッドブルのような強力なDRSがないため、ハミルトンは長い間DRSトレインから脱出することができなかった。

 決勝レースの結果は悪くなかったとはいえ、ライバルたちと比較しての純粋なスピード差はとてつもなく大きい。ラッセルの予選ラップタイムは、セルジオ・ペレスのポールタイムから1秒、比較的最高速が出ていないアストンマーティンのフェルナンド・アロンソからでもコンマ6秒、そしてフェラーリのカルロス・サインツから0.5秒遅かった。

2023年F1第5戦マイアミGP メルセデスW14
2023年F1第5戦マイアミGP メルセデスW14
2023年F1第5戦マイアミGP メルセデスW14
2023年F1第5戦マイアミGP メルセデスW14

 GPSの軌跡を見ると、メルセデスはコース後半11~15コーナーのタイトな区間で大きくタイムロスしていることがわかる。高速コーナーでの安定性を保つために大きなフィンが必要だったことのトレードオフだったのか(その分、ツイスティな区間では俊敏性に欠け、さらにストレートでは最高速が伸びない)。

 上述の意見は、あくまで仮説に過ぎない。なにしろメルセデスのエンジニアたちからして、マイアミでの苦難の原因を特定するのに苦心しているのだから。トト・ウォルフ代表は、「優れたマシンとは言えない。どこに問題の根本があるのか、私自身まだ分かっていない。エンジニアたちは今もって、W14をすべて理解しているとは言えない」

2023年F1第5戦マイアミGP ジョージ・ラッセル(メルセデス)

 次のエミリア・ロマーニャGPで、メルセデスはサイドポンツーン、フロア、フロントサスペンションの変更を含む大幅なアップグレードを導入する予定だ。これによって少なくともコンマ2、3秒速くなることを、チームは期待している。それと同時に新しいパーツの導入が、今のマシンに何が足りないのかを理解するのに役立つことも期待している。

 ただしウォルフ代表は、あくまで現実的だ。
「これまで15年間のF1参戦で、マシンが一気に0.5秒速くなるような、そんなアップデートは見たことがない。我々の場合も、そのような効果を生むことはないだろうね。一方で私が楽しみにしているのは、理解しないまま導入したパーツが何だったのか解明され、その変数が取り除かれることだ。そうなれば、今後の開発はかなりスムーズに進むことになるだろう」

 F1チームの中でもとりわけ優秀なエンジニアたちを数多く抱えているはずのメルセデスとフェラーリが、自分たちのマシンの何が問題なのかを特定するのに苦労している。先進的な技術を誇示するスポーツとして、恥ずべき逆説と言えそうだ。

2023年F1第5戦マイアミGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

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