【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第6回】“タイヤに厳しい特性”が苦しい予選の一因に。戦略で逆転を狙うも実らず

 

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3週間ぶりのグランプリとなったモナコでは、“抜けないレース”に向けて重要な予選でQ1敗退と厳しい状況に置かれてしまった。なんとか入賞を目指し、他のチームとは異なる戦い方を選んだハースの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

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2023年F1第7戦モナコGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝19位DNF
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選18番手/決勝17位

 豪雨と洪水の影響で、ひとつ前のエミリア・ロマーニャGPが中止になりました。僕はイモラに向かうために家を出た直後に中止がほぼ確定したのですぐに家に戻りましたが、ガレージ設営のメンバーは火曜日の午後にサーキットから退去させられるまで作業をしていました。メカニックたちは火曜日に移動で、結局一度もサーキット入りすることなく木曜日にイギリスに帰ってきました。

 幸い、うちのチームが滞在していたホテルの周りはクルマも普通に通れる状況でしたが、他チームではレンタカーが完全に水没するなど大変だったようです。ファエンツァに住んでいる同僚のなかには家の2階まで浸水した人もいてかなりのダメージを受けたと聞いています。

 ということでモナコGPは3週間ぶりのグランプリとなりました。イモラで撤収作業にかかわったメンバーはそのままモナコ入りしましたが、それによって準備時間が増えたので不便はありませんでした。

 まずは予選を振り返ると今回は2台ともQ1敗退でした。予選後のケビンのコメントにある通り僕たちはQ1で2回しかアタックをしなかったのですが、もちろんあとから考えれば3セット目のソフトタイヤを投入するべきでした。しかし、1回目が終わった時点であそこまでタイムが出ないとは想定していなかったんです。赤旗で中断しなければならなかったニコのラップは1分13秒8に向かっていたので、2回目には1分12秒8あたりのタイムが出ると踏んでいました。

 ドライバーのコメント通り、うちは1周目に一番タイムが出るのでバックアップを含めた3周分の燃料と時間で最後のアタックに出ました。しかし、結果は想定を大きく下回るタイムしか出なかったのでQ1落ちに。Q2が一番の勝負だと思っていたのでQ1でソフトタイヤを2セット以上使いたくなかったのですが、今回はその考えが裏目に出ました。予選後、ドライバーはふたりとも「クルマのバランスはよくて1周上手くまとめられたが、とにかくクルマがグリップ不足だった」とコメントしていました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2023年F1第7戦モナコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 1周目にしかタイムが出ないのは、うちのクルマの『タイヤに厳しい』という特性によるものだと思っています。1周目にかなりタイヤを使ってしまうんですよね。ですから2周目に路面状況がよくなっていても、タイヤの状態はより悪いのでタイムが出ないのです。Q1の最後にコースに出るのを遅らせた理由は、どうやってもうちのクルマでは3周目にタイムは出ないので、2周(クールダウンを含めて3周)走るタイミングになるまで待っていたからです。

 もし3セット目を投入する選択肢を残しておく場合はもっと早く出て、2周走ってみてからピットインしてもう1セットタイヤを使うか決めることも可能でした。しかしその場合は、路面がまだあまり改善されていない比較的早い段階で2セット目のタイヤを使ってしまうことになるのでタイムが出ない可能性が高く、どうしても3セット目のタイヤをつぎ込むことになると予想されました。先にも書きましたが、結果論としてはクルマが思ったより遅かったので3セット目をつぎ込むべきでした。

ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2023年F1第7戦モナコGP ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)

 レースでは、ニコに関しては1周目を終えてピットインすることを事前に決めていました。抜けないモナコで予選17番手、18番手からポイントを狙うには他と違う特殊なことをしなければどうにもなりません。1周目にタイヤ交換をすませて、とにかくなるべく早い段階で前の集団に追いつく。そして前のクルマがピットインした際に、彼らがニコの後ろで再びコースインすることになる状況を狙うわけです。もしそうなったらニコとケビンの位置やペースを見て、なんとかケビンにとって有利なピットストップができるようにニコのペースを調整します。

 この戦略が選択肢となるのは抜けないモナコだからです。もちろん、これをやっても上手くいくのはほかの様々なことがうちに有利に働いてくれた時だけです。しかし17番手、18番手からポイントを獲りにいくにはこのような手を使う以外はありませんでした。

 一方でケビンも、レース後半に雨が降り始めてから、タイヤを変えずに赤旗を待っていました。雨が降ってきた段階で普通にインターミディエイトタイヤに交換してもまったくポイントに手が届かないですし、コースオフしているクルマもあったので、この戦略にはケビンもチームも同意見でした。しかし赤旗も出ず、特にセクター2が非常に危険になってきたのでピットインしました。インターではなくフルウェットを履いたのも、この段階からみんなと同じインターで走っても当然前には行けないからです。

 ちなみに今回使ったフルウエットタイヤは、エミリア・ロマーニャGPで導入予定だった新しいものです。ニコとセルジオ・ペレス(レッドブル)が同じタイミングでフルウエットを履きましたが、感触はとてもよかったです。ラップタイムもよかったですし、またフルウエットがどのあたりまで持つのかデータを採れたので、この先のことを考えれば有益でした。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2023年F1第7戦モナコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 とにかくモナコではクルマが速くなくて、かなりセットアップを大きく振っても基本的に大きく状況を改善することができませんでした。Q1敗退となったため、抜けないモナコでは特殊な戦略をとるしかポイント獲得の可能性はなかったのでそうしましたが、そのような戦略が機能するには様々な外的要因が有利に働かなければいけません。結果的にそうならなかったのでどうにもなりませんでした。

 次のバルセロナはまったく違うサーキットなので、通常の位置で戦えると思っています。なんとかクルマの長所を活かして一歩でも前に出られるようやります。

ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2023年F1第7戦モナコGP ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
ケビン・マグヌッセン(ハース)
2023年F1第7戦モナコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

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