【F1技術解説】アストンマーティンはなぜ失速したのか(2)間違いを確認した技術陣がベルギーで導入した変更点
シーズン開幕当初、アストンマーティンはレッドブルに次いで2番目に強いマシンだった。しかしカナダGP後、かつてほどの勢いはない。その理由をF1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが探った(全2回)。
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■開発方向性の誤りをハンガリーで確認
カナダGPで投入したアップデートは、方向性が間違っていたのではないか。アストンマーティンのエンジニアたちがそんな疑念を確認できたのは、1カ月以上後のハンガリーGPだった。
「長いプロセスが必要だからだ」と、マイク・クラック代表は説明する。
「サーキットに行くと、必ず何らかの問題が持ち上がる。そして次の週末には、別のサーキットで別の問題に気づく。それらに対処するうちに、あっという間に時間が経ってしまう。新たな決断を下すのは、それら目の前の問題を解決してから。その間、少し待たなければならないということだ」
「新しいパーツを投入するのは、もちろんワクワクすることだ。しかしそれで自動的に速くなるわけではない。ベテランのエンジニアでさえ、時に誤解してしまう。本当に効果的かどうか、見極めるのは非常に難しい」
曲がりくねったレイアウトのハンガロリンクは、一見AMR23に合っているように思われる。シーズン開幕当初、アストンマーティンのマシンは低速コーナーで最速を誇っていたからだ。しかしフェルナンド・アロンソとランス・ストロールは合わせて3ポイントしか獲得できず、最悪の週末となった。
「好結果を期待したハンガロリンクで、そうならなかったのは確かに残念だった」とクラック代表は言う。
「しかしアップデートの方向性に、我々はずっとある種の疑惑を抱いていた。ハンガリーの週末に、ようやく欠けていたジグソーパズルのピースがハマった。そんな感じだった」
「このサーキットは、私たちが間違った方向に進んでいたことを確認する最後の手がかりだった。問題を洗い出し、それが実際に不振の原因だったことを確認するまでに、数週間を要した」
■いったんカナダ以前のデザインに戻す
期待通りに機能しなかったアップデートが何だったのか、クラック代表はもちろん具体的な言及はしてくれない。ただハンガリーでの走行データを基に、新パーツの製作を開始したことは間違いない。一方でハンガリーの翌週のベルギーGPでは、AMR23のフロアはカナダGP以前の旧仕様に戻されている(下の3枚の比較写真参照)。
明らかにチームはオリジナルに近いデザインに戻し、エアインテーク下とサイドの湾曲がかなり抑えられている(緑色の線を比較)。ベルギーではスプリント・フォーマットと天候の関係で走行時間が限られていたが、ドライバーたちはこの修正に満足しているようだった。
「マシンの挙動がより自然になった」とアロンソはコメントした。チームは車体セットアップにも変更を施し、それがスパ・フランコルシャンで実を結んだということだ。
最新鋭のシミュレーションツールが活用される今のF1で、チームがアップデートの失敗の原因を何週間も検知できなかったのは、控えめに言っても驚くべきことだ。特にアストンマーティンのように、ライバルよりも風洞やCFDの使用時間が多い場合(7月1日以前はそうだった)、その驚きはいっそう大きくなる。
とはいえそれは、どのチームにも起こり得ることだ。たとえば去年のフェラーリも、フランスで導入された新しいフロアがSF-75のバランスを崩した。今日のグランドエフェクトF1マシンでは、気流の質、ひいては全体的なパフォーマンスは、わずか数ミリメートルの範囲で左右される。レッドブルだけは(奇跡的に?)失敗を免れているが、それ以下のチームは今も試行錯誤を繰り返している。
開発の方向性を誤ったことに加え、アストンマーティンの不振はFIAから要求された修正に関連している可能性もある。あくまでパドックでの噂レベルの情報だが、FIAはいくつかのチームに対し、前後のウイングをより硬くするよう要請しているという。
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