レッドブル&HRC密着:ライバルを凌駕する信頼性とデータの熟成。「パワーユニット側でできることを最大限やりました」
マックス・フェルスタッペンが鈴鹿初優勝を遂げ、ドライバーズタイトル2連覇を確定させた2022年のF1日本GP。表彰式が終わってほどなく、HRC(ホンダ・レーシング)のスタッフがレッドブルガレージのピットレーン前に集結した。表彰式で受け取ったばかりの優勝トロフィを高く掲げた浅木泰昭氏(HRC四輪レース開発部長)を中心に、全員が歓喜の雄叫びを上げた。
その数、総勢11人。浅木氏ともう一人レッドブルに転職したスタッフを除けば、さらに9人に減る。レッドブルとアルファタウリに搭載されるホンダが技術支援をしたパワーユニットを、たったこれだけのスタッフがレース現場で担当しているのだ。ただし撤退前の去年も、「せいぜい2人多かった程度」だと、レッドブルを担当するHRCの湊谷圭祐エンジニアが教えてくれた。以前からずっと、少数精鋭だったということだ。
今回の雨の鈴鹿、そして2時間近い中断時間を経ての30周足らずの周回数という変則的なレースに、彼らはどう向き合ったのか。湊谷エンジニアは「チームが戦略上の最適解を見つけられるよう、HRCもベストの対応をする必要があった」と言う。具体的にはたとえばレース終盤、2位のシャルル・ルクレールをセルジオ・ペレスが猛追していた状況だ。
「チェコ(ペレス)があれだけプッシュし続けて追い込んだからこそ、最後にミスしてくれた。そのプッシュが可能になるよう、回生エネルギーのチャージだけでなく、再スタートのタイヤをいかに迅速に温められるか、パワーユニット側でできることを最大限やりました」
「あとは燃料搭載量と、燃焼の仕方ですね。短期決戦の上に、ウエット路面が乾きつつあるコンディションです。基本はドライ想定で燃料を積むんですが、ウエットではペース配分が読めない。でもガス欠は絶対避けないといけないから、マージンを取って多めに燃料を積む。その上で走行中に、いかに多く燃やすか。そうやってできるだけ、車重を軽くしてあげる。最後はかなりタイヤが、特にフロントがきつくなってました。だから車重を軽くしたことで、そのしんどさ軽減にも少しは貢献できたんじゃないかなと思います」
「マックスが独走して、最後はチェコが抜いてチャンピオンが決まった。その意味でも、チーム全体で勝ち取ったタイトルでした」
このコメントだけでお分かりのように、湊谷エンジニアの話には「チームのために」、「車体のために」、あるいは「チーム全体で」という表現が頻繁に出てくる。レース現場でパワーユニットを扱うエンジニアの、それが当然の仕事といってしまえばそれまでだ。しかし今季からのレギュレーション凍結で、馬力を増やすような開発はできない。
必然的に現場でのパワーユニットの使い方、車体との緊密な協力関係が、いっそう重要になってくる。湊谷エンジニア始めHRCの現場スタッフは、そこを十分に理解して、実行に移しているということだ。
今季HRCが技術支援をするパワーユニットは信頼性の面でも、ライバルたちを凌駕している。さらにレース現場では、「データ設定の熟成で、チームに貢献できてる」と言う。どういうことか。
「今季はパワーユニット4メーカーの、パフォーマンス面の差はそれほどないと僕は思ってます。ただホンダはどのサーキットに行っても、初日からパワーユニットのデータが熟成されてる。言い換えると、セッティングが高いレベルで決まってることが多い。それができると、レッドブルのエンジニアは車体セッティングに専念できますよね。その精度が、今季はさらに上がった感じです」
フェルスタッペンがポールポジションを取った8日の予選後、湊谷さんにはうれしいことがあったという。
「レッドブルのエンジニアたちと仕事を終えていっしょにご飯食べに行った時、『このポールポジションは、ホンダのポールポジションだ』と言ってくれたんです。素直にうれしかったし、いい距離感で仕事できてると思いましたね。お互いに信頼し合ってるし、単に仲良しじゃなくて、言うべきことは言う。でも険悪な雰囲気にはならない。そうやって貢献していることを理解してくれたからこそ、ああ言ってくれたんだと思います」
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