【中野信治のF1分析/2022最終回】大きく飛躍した角田裕毅と岩佐歩夢。高まる期待と勝負の2023年
マックス・フェルスタッペンの圧倒的な強さと速さが目立った2022年のF1シーズン。最終戦のアブダビGPから見えたレッドブル、フェラーリ、メルセデスの関係性を元F1ドライバーの中野信治氏が独自の視点で振り返ります。そして2023年に大きな期待が掛かるF1参戦3年目の角田裕毅、そしてスーパーライセンスの獲得が目前に迫ったFIA F2に参戦している岩佐歩夢の成長と進化について、中野氏が語ります。
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2022年のF1も第21戦ブラジルGPと第22戦アブダビGPでシーズンが終了しました。すでにチャンピオンはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)に決定していましたけど、セルジオ・ペレス(レッドブル)とシャルル・ルクレール(フェラーリ)によるランキング2位争いに注目が集まるラスト2戦でした。
最終戦となったアブダビGPでもペレスとルクレールはすごくいいバトルを見せてくれましたね。解説をさせていただいているDAZNの『Wednesday F1 Time』でも言いましたが、ふたりのバトルは第1スティントでのタイヤの持たせ方が勝負になりました。
ミディアムタイヤスタートのペレスは15周目にピットインしましたけど、フェルスタッペンは同じミディアムで20周まで引っ張ることができていました。タイヤの保たせ方が今回のレースのキーポイントになり、その後のペレスを苦しめたのはその部分が大きいポイントでした。一方のルクレールもミディアムでしたが、こちらも21周まで引っ張れたことで1ストップを可能にして戦略の幅が広がりました。
ペレスもタイヤの保たせ方がうまいと評されるドライバーなのですけど、やはり、アブダビGPではフェルスタッペンが驚異的な走りをしたと思います。今季最後のレースでしたが、フェルスタッペンが何か見つけたのではないか、としか言いようがない走りでしたし、改めてフェルスタッペンは凄いということを感じました。今後さらに怖いドライバーになるなと思わせるようなレース展開でした。
一方、ラインキング2位となったルクレールも、アブダビでは素晴らしい走りを見せました。ランキング2位を争っているライバルのペレスが2ストップでタイヤを新しくして追い上げたにもかかわらず、ルクレールはきっちりと逃げ切りましたが、ルクレールのドライビングがあまりにも素晴らしかったですね。
2番手のルクレールは後ろから追い上げる3番手ペレスのペースを見ながら走行するという本当に大きなプレッシャーのなか、毎周に渡って予選アタックをしているかのような走りでノーミスでフィニッシュしましたので、改めてルクレールの凄さも感じました。フェラーリのクルマのポテンシャル的には、その走りをキープすることはかなり難しかったと思います。もともとデグラデーションが良くないクルマですし、実際シーズン終盤の数戦は苦しんでいました。今回の走り始めを見て、正直すぐにタイヤが終わってしまうかなとも思いましたけど、ルクレールは最後までタイヤを保たせました。
その要因のひとつは、気温が下がり路面温度が下がったことです。気温が下がることによってエアロバランスがフロントにいくので、ここ数戦フェラーリが苦しんでいたアンダーステアが緩和されました。アンダーステアになってしまうとそれを消そうとして早めにアクセルを開けるので、リヤのトラクションでタイヤを壊してしまいます。それが気温の変化と、ヤス・マリーナ・サーキットはもともと路面には砂の影響がありますが、レース中に路面がきれいになっていったので、すべてがフェラーリに対してうまくいきました。ルクレールのチャンピオンシップ2位というのは実力どおりの順当な結果になったなと感じます。
そしてシーズン終盤に調子を上げてきたメルセデスについては、アメリカGPのアップデート投入以来急激にクルマが良くなりました。もともとのコーナリングスピードは速かったのですけど、さらに安定感やスピードを増してきた印象です。今年のクルマ自体のデグラデーションも悪くなかったので、ストレートスピードはそれほど速くないですけど、コーナリングスピードを上げてレースでの強さを残してきました。後半戦のサーキットもメルセデス向けのコースが続いてたので、上位で戦うことができていました。
アブダビではレッドブルを追い詰めるまではいきませんでしたけど、フェラーリに対してはかなりいいところまで来ていたので、メルセデスチームの本当の素晴らしさを感じました。あとはやはルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルというふたりドライバーがお互いを高め合いながら、いい感じでチームのレベルも上げてきました。今年もブラジルGPでラッセルが初優勝を飾りましたけど、開幕時点では正直勝てるとは思っていませんでしたので、チーム力の凄さを改めて感じましたので、2023年は怖い存在です。
そのなかでも、ラッセルについては一発の速さはまだ足りない部分もありますけど、ブラジルではハミルトンのプレッシャーを退けて勝利したことからも、このメンタルの強さはチャンピオンになる資質を持っていると思います。あとは一発の速さを身につけてくるとハミルトンも厳しくなるかもしれません。ハミルトンもラッセルがいることによってひとつ上の調子を出しているので、お互いに楽しみな存在ですし、ラッセルはウイリアムズ時代から順調に育っているので、2023年はクルマが良くなれば間違いなくチャンピオンシップに絡んでくると思います。
●世界のトップへと期待されるふたりの日本人ドライバー。3年目のF1角田裕毅、そしてF1への昇格を掛ける岩佐歩夢
そして2年目のシーズンを終えた角田裕毅(アルファタウリ)については、トータルで見るとレースウイーク時間の使い方が本当に向上したと思いますし、デビューイヤーの2021年に比べるとミスも大きく減りました。しかもフリー走行からチームメイトのピエール・ガスリーを上回る場面がすごく多く、予選でもレースでも前を走るシーンを多く見せてくれました。レースでの戦い方に関してもラスト2戦に関してはうまくタイヤのマネジメントをしながら、確実な走りを見せてくれました。
裕毅本人もインタビューで言っていましたけど、やはりチームメイトと互角な位置で戦えるところまで来たということは本当の大きな成長だと思いますし、ガスリーは倒すには相当手強い相手だと思うので、本当の意味での成長を見せてくれたと思います。F1にステップアップしてから、かなり厳しい時間を過ごしていたときもあったかと思いますけど、いろいろなことを受け入れ、自分が変化する努力もしてきたと思うので、それが形になった2シーズン目でした。ただ、2023年はニック・デ・フリースが新チームメイトになるので、裕毅はまた新たな戦いが始まります。ですが、そこに向けても十分な準備ができたのかなと思いました。
アルファタウリのクルマももう少しパフォーマンスが上がれば……というレースも2022年シーズンにはいくつか見られました。そこはレースの世界なので、クルマがいいときに自分をアピールしなければなりません。2021年は1年目ということでアピールする力はありませんでしたけど、2023年は3シーズン目のF1になるので、チームがうまいかたちでクルマの開発を進めてくれれば、間違いなく上位争いに絡んでくると思います。それだけの実力は本当に自分自身の力で身に付けています。
そしてもうひとり、2022年のFIA F2に参戦してランキング5位になった岩佐歩夢についてですが、本人もF2初年度でここまで戦えるとは思っていなかったはずです。歩夢は持ち前の物事をいい方向に持っていくための探究心と自分自身をどんどんと追い込んで改善するタイプですが、さらに周りも動かしていくというスタイルがあります。それが今年のダムスというチームにピタッとはまったのだと思います。
今のダムスは良くなってきたということを多くの人が言っていますけど、その“良いダムス”を作っているのは歩夢自身です。それができるドライバーが本当の意味で一流ですし、F1でも活躍することができます。歩夢は今、それを確実に身につけ始めています。僕も10月にフランスのダムスの工場に行き、エンジニアたちとも2022年の歩夢の戦いぶりと、どういうレースをしてどういうミスをして、足りない部分や良いポイントをすべて話してきました。
そこで感じたことは、歩夢は本当にチームの中で信頼を得ているということです。ダムスの全員が『歩夢を良くしてあげたい』と思っていて、歩夢の良い部分と足りない部分はチームでなんとかしようとしていて、チームが本当の意味でひとつになっています。ヨーロッパのチームをここまでひとつにしてしまう日本人ドライバーは近年いなかったと思います。それこそイギリスF3時代にカーリン・モータースポーツに所属していた佐藤琢磨くらいだと思います。
歩夢に携わっているエンジニアやトラックエンジニア全員の話を聞いていて『これはすごいドライバーだな』と思ってF2の最終戦を見たら、歩夢はポール・トゥ・ウインという素晴らしい走りを披露してくれました。画面やスクールで歩夢の走りを見て『うまいな』ということだけではなく、実際にどう感じているか、何をしたいと思っているかということをチームはすべて見ています。
2023年の歩夢には、とにかく結果をきちんと残して次のステップにつなげてほしいです。僕はもともと歩夢の走りについてはまったく心配していなくて、今のレベルには到達するだろうと感じていました。ですが、チームをまとめる、作り上げるという部分は正直、もう少し時間がかかると思っていたので、今の歩夢のチームをひとつにするための努力は本当に素晴らしいと感じました。2023年に向けて本当に楽しみな存在です。
<<プロフィール>>
中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
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