【全ドライバー独自採点/F1第3戦】大きなチャンスを残酷に奪われたラッセル。マシンに苦しみながら今季初入賞の角田
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はオーストラリアGPでの戦いぶりを振り返る。
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今年のオーストラリアGPで各ドライバーの評価を行うのは、非常に難しかった。素晴らしいパフォーマンスを発揮してきたにもかかわらず、終盤のリスタートで失態を演じてすべてが台無しになってしまったドライバーが何人かいる。だがたった1回のミスで否定的な評価を与えるのはあまりに酷だと思うので、いったん高い評価を与えたうえで、ミスの重大さに応じて2点あるいは3点減点するという解決策を用いた。そもそも、混乱の責任の一部は、最初の1周でアクシデントが起こりがちなこのサーキットで何度もリスタートを行ったレースディレクションにあるのは明らかなのだ。
■評価 10/10:最も傑出も、運に恵まれなかったラッセル
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選2番手/決勝リタイア
混乱の週末において最も傑出していたドライバーは、ジョージ・ラッセル(メルセデス)だ。パワーユニットの故障により、マックス・フェルスタッペンと勝利を争う機会を残酷にも奪われた。予選Q3の初めまでは苦戦していたが、最後の最後に素晴らしいラップを走り、フロントロウを確保した。良いスタートを切り、ターン1での動きを成功させたことで、トップに浮上。セーフティカー出動時にピットインしたのは、論理的な戦略だったが、その直後に赤旗が出てしまったことで、後退することになった。その後、ニコ・ヒュルケンベルグ、ランス・ストロール、ピエース・ガスリーを抜いて、タイヤをセーブしつつ、後半にはフェルナンド・アロンソにアタックして表彰台を獲得することを目指していたのだろうが、トラブルによりリタイアせざるを得なかった。
■評価 9/10:予想よりは苦戦を強いられたフェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/決勝1位
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選3番手/決勝2位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選4番手/決勝3位
レースウイナーのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、今回はチームメイトとの間には何も問題はなかったが、珍しくいくつか小さなミスを犯し、予想よりは困難な週末を送ることになった。Q3の最初のアタックでワイドになったが、最終的には2番手に0.236秒差でポールポジションを獲得。レースではスタートが悪く、序盤数周に非常に保守的なアプローチをとったことで、3番手に後退した。しかし最初の赤旗によってラッセルがトップ争いから脱落し、ハミルトンとのバトルでは、DRSを使って難なく前に出た。その後はレースをコントロールしているようにみえたが、最後から2番目のコーナーでコースオフし、3秒以上をロスする場面もあった。勝利を無事獲得できたものの、そこまでの過程は、予想されたよりもはるかに困難だった。
ルイス・ハミルトン(メルセデス)にとって、この週末に可能なベストな結果は2位だった。予選Q3の序盤にセンセーショナルなラップを走り、暫定ポールポジションの座についた。しかし2回目のランでは、トラフィックの影響でタイヤの温度を思うように上げることができなかった。レース1周目に見事なレースクラフトを発揮してフェルスタッペンを追い越し、ラッセルがレースをリードしている間、DRSを駆使して、フェルスタッペンを抑え続けた。DRSを使えなくなった後は、前の位置を維持することはできなかったが、その後も、再び自分より速いマシンに乗るフェルナンド・アロンソを抑えきり2位を獲得。アロンソからも賛辞の言葉が出るほどのパフォーマンスだった。
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は3戦連続で表彰台を獲得したが、今回はメルセデスに敗れたことで、最初の2戦ほどのインパクトはなかった。それでも、いつもどおり、ひとつもミスを犯すことなく、大量のポイントを稼ぎ、ドライバーズ選手権では2位セルジオ・ペレスとの差を縮めた。
■評価 8/10:チームメイトに圧勝したヒュルケンベルグ
ランド・ノリス(マクラーレン):予選13番手/決勝6位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選10番手/決勝7位
ランド・ノリス(マクラーレン)は決勝終盤までほとんど目立たない存在だったが、実は週末のスターのひとりだった。ジェッダでのひどいミスの埋め合わせをすべく挑んだものの、MCL60のスピード不足のため、予選では13番手が精いっぱい。しかし決勝でのパフォーマンスは非常に良かった。角田裕毅の前に出たことは、最終結果において大きな意味を持った。クリーンエアのなかでタイヤを労わり、ペレスを相手に20周近く勇敢にディフェンスし、何度かのチャレンジの後に、ヒュルケンベルグを抜き去った。
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、週末を通してチームメイトを完全に圧倒して7位を獲得した。セミリタイア状態だった彼と契約したハースの決断は正しかったということだろう。予選Q3では小さなミスを犯してふたつポジションを失い、決勝ではノリスに対してかなり際どい防御をしていたが、それでも今回のヒュルケンベルグは高い評価に値する。
■評価 7/10:勇敢に戦うもマシンのペース不足でポジションを落としていった角田
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選5番手/決勝12位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選9番手/決勝リタイア(13位完走扱い)
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選16番手/決勝8位
周冠宇(アルファロメオ):予選17番手/決勝9位
角田裕毅(アルファタウリ):予選12番手/決勝10位
カルロス・サインツ(フェラーリ)は、週末を通して、ラッセルと並ぶ素晴らしいパフォーマンスを発揮したため、本来ならもっと高い評価をつけたかった。予選Q3ではタイヤの準備を整える方法について自分自身で決定を下したことにより、ルクレールを上回る結果を出した。レースでは1周目にアロンソを見事にパスして4位に浮上。しかしラッセルと同様に、ピットストップ直後に最初の赤旗が出たことの犠牲になり、11番手にまで落ちた。ハードタイヤに交換した後、6周のなかで周冠宇、角田裕毅、ノリス、ヒュルケンベルグ、ストロールを抜き去った。しかしピエール・ガスリーをパスするのにはさらに10周を要した。
次のターゲットはアロンソだったが、オーバーテイクをしかけるのに十分なほどは近づけなかった。結局、2回目の赤旗後のリスタートでミスを犯してアロンソにヒット、非常に厳しいペナルティを科されて、12ポイントを失った。このミスで、評価において3点を減点した。
ピエール・ガスリー(アルピーヌ)に関しては、減点を2点にとどめよう。彼のミスがどのようにして起きたかというと、2回目の赤旗後のリスタートで、スピンしていたアロンソに衝突するのを避けなければならず、それが元でエステバン・オコンにヒットしたのであり、致し方ない部分もあった。もちろん、ミラーを見ればオコンがそこにいることが分かったはずだが、他人のミスで、ほぼ手中に収めていた5番手を失ったばかりの人間にそこまで望むのは気の毒だ。
ガスリーは予選でチームメイトに勝ち、ポイント圏内を余裕を持って走行、ハミルトン、アロンソ、サインツに追いつく一方で、後ろのストロールを引き離していた。これほど素晴らしい走りをしていたにもかかわらず、自分とチームのポイントを失う結果に終わったことはただただ残念だ。
地元のヒーロー、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、予選では経験豊富なノリスとわずか0.3秒差のタイムを出したが、Q1敗退。レースでは、最初の赤旗でトップ10入りしたものの、自分より速いマシンに乗るサインツ、ペレス、オコンを抑えることはできなかった。終盤クリーンエアで走ったピアストリは、角田をパスし、良いペースを発揮。終盤、アルピーヌ勢のリタイアとサインツのペナルティによって、ポジションを3つ上げ、F1での初ポイントをつかんだ。
周冠宇(アルファロメオ)も、終盤のリスタートでの混乱により大きな恩恵を受け、9位入賞を果たした。それでも周は予選でバルテリ・ボッタスを破り、レースでもチームメイトを引き離し、堅実なパフォーマンスを見せていたので、2ポイントという結果にふさわしい。
角田裕毅(アルファタウリ)は、サインツの降格により今季初入賞。サインツのペナルティがなければ、角田は再び11位になっていた。今回も週末を通して、チームメイトより速く、決勝では最初の赤旗によってポイント争いに加わり、勇敢に戦ったものの、AT04のペース不足により、最長のDRSゾーンにおいていくつもポジションを失った。
■評価 6/10:Q1でコースオフも、運よく11点を加算したペレス
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選6番手/決勝4位
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選ノータイム/決勝5位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選11番手/決勝リタイア(14位完走扱い)
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選8番手/決勝リタイア
順位からしてランス・ストロール(アストンマーティン)のこの評価は低すぎると思われるかもしれないが、彼はおそらくこの週末において最もラッキーなドライバーだった。予選ではアロンソにかなわず、決勝1周目にアルボンにパスされたストロールは、その後、アルボンがクラッシュし、ラッセルとサインツが最初の赤旗で後退したため、4番手から再スタートを切ることになった。しかしすぐさまラッセルとガスリーにパスされ、11番手から浮上してきたサインツにも抜かれ、先頭集団についていくことができなかった。終盤のリスタートで自らコースアウトしたが、再び赤旗が出たことに助けられ、アルピーヌ勢がリタイアし、サインツがペナルティを受けたことによって、実際には8番目の速さしかなかったにもかかわらず、4位を手にした。
セルジオ・ペレス(レッドブル)にとって5位は天からの恵みのようなものだ。土曜日には5回もコースオフ、予選Q1で最後のコースオフを喫してノータイムに終わり、表彰台のチャンスを失った。ピットからスタートしたペレスは、ジェッダでのフェルスタッペンほど順調にポジションを上げていくことができず、20周かかってノリスをようやく追い抜いた。終盤のリスタートでの混乱の恩恵を受けて、貴重な10ポイントを獲得、さらにファステストラップも記録して、1点を追加した。
エステバン・オコン(アルピーヌ)は週末を通してチームメイトにおよばず、最終的にはガスリーとのアクシデントによりリタイアに終わった。ガスリーほどA523に快適に乗れていなかったのは確かだが、ウォールでレースを終えるという結果は気の毒だった。
予選と決勝序盤7周でのアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は素晴らしかった。ウイリアムズで8番手というセンセーショナルな予選順位をつかみ、決勝1周目にストロールを追い抜いた。その後、先頭集団から遅れていき、ターン6でウォールにヒットした。素晴らしいリザルトを取り逃したのは確かだが、そのミスが起こるまでは見事だったので、これ以上低い評価をつけることはできない。
■評価 5/10:本来の速さを発揮できなかったルクレール
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選7番手/決勝リタイア
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選19番手/決勝11位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選14番手/決勝リタイア(17位完走扱い)
シャルル・ルクレール(フェラーリ)にとってひどい週末だった。予選では、常にチームの指示に従って行動した結果、その代償として、チームメイトに今年初めて敗れた。準備ラップが2周必要だったにもかかわらず、1周しか行わなかったことで7番手に沈んだのだ。決勝1周目に悪い判断をして、アクシデントによりリタイアした。もちろん速さは相変わらず持ち合わせているが、集中力が途切れているように見えるので、次戦に向けてしっかり立て直す必要がある。
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は2戦連続で、予選とレースの両方でチームメイトに負け、今回はマシンに問題があったわけでもなさそうだった。予選ではうまくラップをまとめることができず、ピットレーンからスタートしたにもかかわらず、パフォーマンスが振るわず、彼にとって残念な週末だった。
今回もうひとり低調だったのは、ケビン・マグヌッセン(ハース)だ。チームメイトに太刀打ちできず、予選Q2でのタイム差は0.7秒におよんだ。決勝でポイント圏内に入ることができず、終盤、周冠宇からポジションを守ろうとしている際に、ターン2の外側のウォールに接触、路面のデブリをまき散らし、赤旗の原因を作った。
■評価 4/10:精彩を欠いたデ・フリース
ニック・デ・フリース(アルファタウリ):予選15番手/決勝リタイア(15位完走扱い)
3戦連続でニック・デ・フリース(アルファタウリ)は、予選で角田に敗れ(0.236秒差)、決勝では後方でほとんど存在感を示していなかった。終盤のリスタート直後、ミスを犯したローガン・サージェントに追突されて、レースを終える結果になった。
■評価 3/10:速さがなくミスも犯したサージェン
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選18番手/決勝リタイア(16位完走扱い)
ローガン・サージェント(ウイリアムズ)は、ジェッダでの輝きを失っていた。予選はチームメイトがQ3に進出したにもかかわらず、Q1で敗退。レースでは、すべてのコンパウンドを試したものの速さを見出せず、最後にミスを犯してクラッシュしてしまった。
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