「ホンダは意見を変える。変わらない社風だな(笑)」ゲルハルト・ベルガー、若手育成とリアム・ローソンを語る
経営危機に陥っていたDTMドイツ・ツーリングカー選手権を主催するITR GmbHをハンス・ベルナー・アウフレヒトから買収して救済、2018年から代表取締役に就任してDTMの運営を引き継いだゲルハルト・ベルガー。元F1ドライバーの彼は、ITR代表就任後、株式会社GTアソシエイションの坂東正明代表と協力体制を築き、ともに共通規則『クラス1』の発展や、スーパーGTとの交流戦の実現に尽力した。
2022年12月にはドイツ自動車連盟(ADAC)へ、ITR GmbHの全権利を売却、DTMから退いたベルガー。2023年9月9日、ドイツ・ニュルブルクリンクでのイベント、『レッドブル・フォーミュラ・ニュルブルクリンク』に姿を現した彼に、近況を聞いた。
■若手育成法について「フェラーリはよく分かっている」
──DTMを退いて早くも9カ月が過ぎました。いまはどんな生活を送っていらっしゃるのでしょうか?
ゲルハルト・ベルガー(以下、GB):DTMの後は家業のベルガー運輸やその関連企業の業務、そして家族との時間を大切にしている。長男は6歳で、9月から小学一年生になったばかりだ。カートにも乗り始めたので、彼のカートの練習やレースでイタリアによく行っている。
(※ベルガーの住むオーストリアのチロル地方はイタリアに非常に近い)
F1にはバーレーンにはオフィシャルに行ったが、モンツァは特に何か目的があって行ったのではなく、偶然その時期に家族とイタリア国内でバカンスを過ごしていたので、ちらっと土日に寄っただけだ。他のレースには行っていない。以前よりも随分と行かなくなったんだ。
──2021年のDTMシーズンは、クラス1から急遽GT3にスイッチしました。そこではAFコルセからフェラーリ488 GT3を駆ってリアム・ローソンとアレクサンダー・アルボンがシリーズ参戦しました。ふたりとも、現在F1で活躍をしていますね。若いフォーミュラドライバーのふたりにDTM、それもGT3でレースをする機会を与えたのはなぜですか?
GB:ひとつには、以前のようにDTMからF1ドライバーを輩出したいという思いがあった。その一方で、若いドライバーにはさまざまな経験を積んで欲しいとの願いもあった。現に、GT3をドライブしたことのないこのふたりは、きっと自分たちが送り込まれたGT3レースのDTMに戸惑いもあったに違いないが、実に素晴らしく学習し、吸収をした。
最終戦、ローソンはメルセデスのチームオーダーによりシリーズチャンピオンを逃したが、それは決して彼の実力が劣っていた訳ではない。真の意味でのチャンピオンはローソンだった。一方でアルボンはあの年はF1のシートを喪失してリザーブドライバーに降格したが、翌年自力でF1へカムバックを果たした。DTM時代も現在も、最高の仕事をしているドライバーのひとりとして高く評価をしている。
そして、ローソンには(今年の)ザンドフールトで突然F1へのチャンスが巡ってきた。いま出せる自分のポテンシャルをトラック上で最大に発揮し、すべての関係者とファンにそれを示せる最大の機会なのだから、それを活かすも殺すも自分次第。しかし、ルーキーながらリタイアもせずとても頑張っている。
ダニエル(・リカルド)の回復の度合いでどうなるかは不明だが、もしもローソンが日本GPに出られるチャンスがあるのなら、今シーズン日本でお世話になっているスーパーフォーミュラの方々、ファンの皆さんの前で最高の走りを見せて欲しいと願っている。
──あなたが現役時代は、F1ドライバーをしながら他のシリーズでツーリングカーやGTカーをドライブすることはごく普通でしたが、いまではほぼ不可能です。若くF1を目指すドライバーに、あえて違うカテゴリーで1年間修行をさせたというあなたの方法論には、どんな意図があったのでしょうか?
GB:トップクラスのドライバーというのは、どんなカテゴリーのマシンに乗らせてもとても速い。それが本物の証だ。アレに乗りたくない、コレは乗れないというヤツは、プロのレーシングドライバーとして失格だ。
特に若いドライバーの場合、すべての走行距離が糧となり、引き出しを増やす。それはF1、F2、F3、GT3でもGT4でもプロトタイプでも同じことだ。後にプロとなった時に、そのさまざまな経験のすべてが自身を助けることになるのだから。
若いフォーミュラドライバーをGTに乗せるなんてとんでもないというマネージャーやチーム関係者がたまにいるが、私はその考えは間違っていると思う。
──フェラーリのF1のリザーブドライバーであり、FIA-F2に参戦中のロベルト・シュワルツマンも、フェラーリ296 GT3をドライブしてスパ24h時間レースに参戦していましたね。
GB:フェラーリも分かってるな。とても良いことだ。
■「必ずホンダならやってくれると信じている」
──2021年にあなたとローソンについて話していた際に、当時あなたは「彼はこの数年の内にF1に行くだろう」とおっしゃっていましたね。
GB:もちろん、いい走りをしていたが、その時はまだ海のものとも山のものとも分からない若手のひとりだった。だが、私が当時彼を見ていた目は間違ってはいなかったのかな。
──ところで、2021年限りでF1活動撤退を発表したホンダですが、2026年にはアストンマーティンと組んで復帰するようです。それについてどう思われますか?
GB:ホンダは意見を変える、それは私の時代から変わらない社風だな(笑)。いま、レッドブル(・パワートレインズ)とともにありとあらゆるレースを勝ち続けている。あの強靭なメルセデスを超えたのだから、彼らのハードな仕事や功績は非常に素晴らしく、称賛に価する。かつてのホンダドライバーとして、ホンダのみなさんを誇りに思う。
また、私が在籍していた頃と変わらず、ホンダスピリットがいまも継承されている点も素晴らしいと思っている。
いまはレッドブルの独勝状態だが、今後エンジンサプライヤーとなるホンダは、他のチームの勝利にも貢献できるようになるだろうし、アストンと勝てるようにれば、ホンダの功績が更に広がる。かつてのホンダファミリーの一員として、ホンダの飛躍を心より応援するとともに、必ずホンダならやってくれると信じている。
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