【新連載プレビュー】レーシングドライバーと代理人の実情。他スポーツとの違い【タキ井上が語る敏腕F1マネージャー】
1994年の日本GPでF1デビューを果たし、1995年には日本人4人目のフルタイムF1ドライバーとなった“タキ井上”こと井上隆智穂。そんなタキ井上の新連載がスタートを迎えた。F1引退後、さまざまなかたちでレーシングドライバーのマネジメントに携わったタキ井上が、複数回にわたり敏腕F1マネージャーたちについて語っていく。
初回となる今回は本企画の前書きとして、タキ井上が指す“マネージャー”とは何なのかを語ってもらった。
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8月に3回にわたって掲載された『タキ井上の記憶に残るF1マシン10選』が好評だったようで、オートスポーツweb編集部から新たな話題提供の依頼があった(汗)。テーマは『敏腕F1マネージャーについて』とのこと。僕自身も興味があり、いつかはまとめてみたいなーと考えていたので快く引き受けた次第だ。
ただし、“マネージャー”という言葉の響きはあまりよくないと思う。たとえば、日本で広く浸透しているアマチュアスポーツの高校野球や高校サッカーでマネージャーといえば、飲み物を用意したりユニフォームを洗濯したり記録を付けたりといった、選手の身の回りの雑用をこなす女子生徒を多くの日本人は頭に浮かべるのではないだろうか?
これは日本のモーターレーシングの世界においても同じようなもので、レーシングチームが『マネージャー募集!』などと告知を打った場合、たいていはレーシングドライバーやチームスタッフの身の回りの世話係。さすがにレーシングスーツの洗濯はしないだろうが(編注:セッションの合間に天日に干すことはあるらしいです)、天神屋(編注:富士スピードウェイ利用者にはおなじみの仕出しお弁当屋さんです)の弁当を手配したり、転戦先のビジネスホテルや交通手段を確保したりといった雑用が重要な職種のように思う(汗)。
いちおう念を押しておくと今回の新連載でタキ井上が指す“マネージャー”とは、いわゆる代理人(エージェント)である。レーシングドライバーに代わって新たなレーシングチームのシートを探して契約を促したり現在所属するレーシングチームとのさまざまな交渉に当たったりする人物と考えてもらっても差し支えない。米国のメジャーリーグベースボール(MLB)でも、代理人という言葉はメデイアで頻繁に出てくる。
たとえば、現在ロサンゼルス・エンゼルスに所属する大谷翔平選手の代理人は元MLB選手だったネズ・バレロで、米国の『クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)』という会社の社員。ちなみにCAAのクライアントは俳優がメインで、そのほかに歌手や映画監督などとともにMLB選手が居るといった具合である。
同じ米国では『インターナショナル・マネジメント・グループ(IMG)』という会社の名前も耳にしたことがあると思うが、日本のクライアントだけでも、テニスの錦織圭選手や国枝慎吾選手、フィギュア・スケートの坂本花織選手や紀平梨花選手、卓球の石川佳純選手や張本智和選手、スノーボードの平野歩夢選手、サーフィンの五十嵐カノア選手が名前を連ねる。
CAAにしてもIMGにしてもエージェンシー(代理業)業界では世界的に見て大手と言っても問題ない。ところがモーターレーシングの世界に目を向けると、大手に所属するレーシングドライバーは少ない。現在のF1やそのラダーシリーズに参戦するレーシングドライバーの多くは、欧州のエージェンシーや欧州のエージェントのクライアントだ。レーシングドライバーは、米国に比べると小規模のエージェシーや個人的つながりのエージェントに自分の未来を託しているように思う(汗)。
■タキ井上が“敏腕F1マネージャー”に挙げる猛者たち
こうした実情を踏まえて、次回以降この新連載の記事を読者のみなさまには読んでいただきたいと切に願う。敏腕F1マネージャーあるいはその関係者として取り上げるのは以下の人物たち。元レーシングドライバーであり7シーズンもレッドブルF1に所属したマーク・ウェバー。アルピーヌ育成ドライバーにもかかわらず、今回マクラーレンF1と2023〜2024年のドライバー契約を締結したオスカー・ピアストリのマネージャーだ。
レーシングドライバー上がりという範疇でいえば、ジェンソン・バトンやキミ・ライコネンをF1へ導いたスティーブ・ロバートソンを取り上げる必要があるかもしれない。元F1ドライバーのマーク・ブランデルとマーティン・ブランドルによって創設されたエージェンシー『2MB』に触れる必要もあるだろう。
普段、オートスポーツwebなどのレース専門メディアで目にしない『GPスポーツ・マネジメント』のジュリアン・ジャコビやエンリコ・ザナリーニも取り上げたい。このふたりは現在のF1界において、それなりに強烈なパワーを持つマネージャーだ。また、このふたりほどではないが、ジャンパオロ・マテウッチにも軽く触れてみたいとも思う(汗)。
過去の敏腕F1マネージャーでは、かつてミカ・ハッキネンをクライアントとし、現在もロイック・デュバルやヤン・マグヌッセンをクライアントとするディディエ・コトン。ミハエル・シューマッハーやラルフ・シューマッハーなど、ドイツ人レーシングドライバーのマネージャーだったウイリー・ウェバーも外せない。
そして元レーシングドライバー、現在はメルセデスAMG F1チーム代表・CEOを務めるトト・ウォルフ。メルセデスのモータースポーツプログラムを運営するHWAの株式取得やウイリアムズF1の株式取得など実業家であるだけでなく、レーシングドライバーのマネージャーもこなすバリバリのビジネスマン。もちろん、メルセデスAMG F1チームの株式も約30%をちゃっかり保有している。
元FIA世界自動車連盟会長であるジャン・トッドの息子ニコラス・トッドのパワーも見過ごせない。フェラーリに所属するシャルル・ルクレールは、ニコラスが運営する『オール・ロード・マネジメント(ALM)』のクライアント。すでにF1からは離れているが、ダニール・クビアトやフェリペ・マッサを始め、FIA F2ドライバーのマーカス・アームストロング、WEC世界耐久選手権にTOYOTA GAZOO Racingから参戦するホセ-マリア・ロペスも抱えている。
こうしたモーターレーシングの世界で、マネージャー(≒エージェンシーやエージェント)たちが頼りにしている人物がいる。元F1のドンであるバーニー・エクレストンや元ルノーF1代表だったフラビオ・ブリアトーレだ。ふたりとも第一線からは身を引いているとはいえ、現在でも強烈なパワーを持っていることを忘れてはならない(汗)。
そして、かつて“史上最低のF1ドライバー”の称号をめでたく受けたタキ井上。そのタキ井上をF1ドライバーにしてくれた人物も、いつか訪れる最終回で紹介したいと思う(汗)。1990~1993年に参戦した全日本F3選手権では優勝はおろか表彰台に立った経験もなく1994年に参戦した国際F3000選手権(※現在のFIA F2に相当)では入賞経験さえなかったタキ井上。しかし、1994年にシムテックから日本GPにスポット参戦、1995年はフットワークF1でフル参戦に導いたのだから、彼こそが“史上最高の敏腕F1マネージャー”だと信じる……(汗)。
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