次期日本人F1最有力候補「間違いなくタイトル争いができる」岩佐歩夢が語るFIA F2の難しさと2023年の戦い
2023年シーズンも引き続き、F1直下のレースカテゴリー『FIA F2』に参戦する岩佐歩夢は、今もっともF1に近い日本人ドライバーと評される若手注目株だ。FIA F2参戦2年目を迎え、F1昇格に向けて勝負の1年を迎える岩佐にFIA F2の難しさ、若手ドライバーが参戦するメリット、そして2023年シーズンに向けた意気込みを聞いた。
* * * * * * * * *
──まずは改めてになりますが、FIA F2のデビューシーズンでもある2022年は岩佐選手のドライバー人生において、どのような意味を持つシーズンでしたか?
「2022年の1年間に関しては、もちろん結果を追い求めていました。ただ、それよりもドライバーとしてすごく成長できた1年になったというのが第一印象です。ドライビングの面はもちろんですが、FIA F3からFIA F2にステップアップし、やはり、『速さだけでは勝てない』ということをすごく実感しました」
「速さだけではなく、勝つためにはいろいろな要素が必要だということはわかってはいたのですけど、昨年はその要素をうまくパフォーマンスに反映することができず、結果を出せなかった時期もありました。ただ、しっかりとチームと一緒に時間を過ごしていくことによって、速さ以外に必要な要素を習得することができ、それをシーズン後半戦に結果として出すことができました。この経験は自分にとって大きな収穫になったと思っています」
──岩佐選手はチーム加入1年目から序々にリーダーシップを発揮し、チームの環境を自分で作り始めているような印象を受けましたが、そこに関しての手応えはいかがでしたか。
「僕がチームを引っ張っていた、というような感覚はあまりないのですけども、エンジニアとドライバーが対等に、どんなことに関してもお互いの意見をぶつけ合うことができるようになりました。お互いに意見を出し合って、それをすべてトライして、良いところと悪いところを出しきり、悪いところを捨て、いいところを吸収して、ということを1年間続けていました。ですので、僕がチームをリードしていたというよりは、チームとしてしっかりと力を合わせて1年間ずっとやってきたという感じですね」
──1年を通じてFIA F2での戦い方、ヨーロッパでのレースの進め方のベースができたという感じでしょうか。
「そうですね。僕も日本のレースをたくさん戦ってきたわけではないので(4輪のレース経験はFIA F4とスーパーFJのみ)、日欧の細かな違いはわからないというのが正直なところです。それでもヨーロッパで、特にFIA F2を戦う上で大切なステップを、ある程度実践できた結果が昨年のシーズン後半戦の速さと強さにつながったのではないかと考えています」
──そのFIA F2ですが、改めてカテゴリーとしての難しさはどのようなところにありますでしょうか。
「いろいろありますけど、まずはドライバーのレベルが高いというのが一番だと思います。FIA F2はF1へのステップアップを目指す22台/22人のドライバーによる戦いになるので、やはりそこに参戦してくるドライバーはレベルが高いと実感しました」
「また、周りのドライバーとも話しをしていて結構話題に挙がるのが『FIA F2の方がFIA F3よりもクルマの性能差が小さい』ということです。実際、シリーズランキングや各車のパフォーマンスを見ていると、FIA F3よりFIA F2の方が各チーム内の2台のパフォーマンスの差がすごく少なく、それは僕自身も肌で感じていたところです。そういった点も競争が激しい理由のひとつかなとは思っています」
「ワンメイク車両で個体差がほとんどない中で戦っているので、次に重要なのは、チームとの相性などになってきます。『クルマが一緒だからドライバーが速ければ結果が出るんだ』と僕も最初は思っていたのですけど、そうではなく、マシンをチーム、エンジニアと作り上げていく作業が重要になります。レースウイークに入ってからも、たとえばレース中のストラテジーに関するコミュニケーションなども、チームとの相性がうまくいかないと、ぜんぜん結果が出なくなります。その部分が去年1年間ですごく見えてきたところかなと思います」
──これは国内のスーパーフォーミュラとの比較になってしまいますが、同じワンメイクでもFIA F2は前身のGP2時代からメカクローム製のエンジンやシャシーに当たり外れが大きく、クルマのパフォーマンス差が大きいカテゴリーだという印象がありました。
「もちろん、エンジンなどは個体差があり、レース中に体で感じ取れたり、データでわかるくらいの差が出るケースもあります。ただ、それ以外の部分では基本的にFIA F3よりも、クルマのセットアップでの差、チーム間での差はあまりないのかなとは思いますね」
──そのFIA F2ですが、改めてドライバーにとって参戦する一番のメリットはどのような部分になりますでしょうか。
「やはりF1と同じレースウイークに開催されるので同じコースを走ることができますし、トラックコンディションがすごく変化する中で、しっかりとドライビング、セットアップをアジャストして戦わなければならない。上位を目指していくという点はすごくいいトレーニングになっていると思いますし、得られるものはすごく大きいカテゴリーです」
「そして、今のFIA F2はタイヤが18インチになったことで、すごく難しくなっている部分があると思っています。F1も18インチになりましたけど、FIA F2に関してはタイヤウォーマーが使用できないので、タイヤが冷えた状態から走りはじめないといけないというところが、おそらくF1よりも難しいと思います。また、F1とは確認できるタイヤのデータ量がぜんぜん違います。FIA F2ではタイヤの内部温度を走りながら確認できないので、そこはもうドライバーの感覚で合わせていくかたちになります」
「もちろん走り終わったら、タイヤの大雑把なデータは取れるので、そのデータをエンジニアと一緒に分析して『次はこんなセットアップにしてみよう』という取り組みを積み重ねていくしか、最適なウォームアップ方法が見つけられません。その辺はFIA F2の難しさかなと思います。ただ、ドライバー自身がそれらの細かな変化を体で感じとり、パフォーマンス向上につなげなければいけないことは、ドライバーとしてのポテンシャルを高めることにもつながりますので、これもFIA F2に参戦するメリットだと思います」
──現場にいるF1関係者からも注目されることも大きなメリットだと思いますが、F1の近くにいるメリットは感じますか?
「そうですね。FIA F3参戦時からF1と同じレースウイークで走っていますが、正直なところ、まだFIA F2とF1は世界が違うと感じています。もちろんFIA F3、FIA F2はF1とつながるレースカテゴリーで、FIA F2でタイトルを獲ってF1に上がるというのが今一番メジャーなルートだと思います。ただ、同じサーキットでの併催といえども、やはりF1が走ってる様子を(FIA F2の準備やデータ分析に時間を費やすため)なかなか見ることはできないので(笑)」
「でも、やはりF1と同じ会場にいることによって、F1関係者の方が結構見てくれているというのは大きなところだと思います。やはりそこで光る走りをしていると、絶対に誰かの目には止まる環境だと思うので、そこに関してすごく大きなメリットかなと思います」
──続いて現在所属されているダムス(チーム本拠地フランス)についてですが、フランス人も多いダムスとの仕事はいかがですか?
「僕としてはダムスとの仕事がすごく合っていると感じていますね。正直、僕のイメージしていたフランスのレーシングチームとはまったく違い(苦笑)、海外にはなさそうな雰囲気のチームなのかなとも思ったりもしています。僕の担当エンジニアさんは去年からレースエンジニアになった新人の方なのですけど、一方、2022年のチームメイトだったロイ・ニッサニーのエンジニアや2台のマシンを指揮するチーフエンジニアは、すごくベテランの方でした。チームの中でも古株ですけど、若いエンジニアともしっかりとコミュニケーションを取れていますし、年齢や経験を問わずファミリー感があるというか『家族でレースをしてる』というような感じがあります」
「ダムスはデータをうまく使って戦略を組み立てていくチームですけども、時には臨機応変にデータだけではなく、エンジニアの勘やドライバーの勘をすごく大事にしています。データロガーがなかった時代の考え方やレースの戦い方も織り交ぜながら、今のFIA F2を戦う感じですね。だからこそコミュニケーションをすごく大事にしたレースウイークの進め方をしています」
「チームオーナーがシャルル・ピックさんに変わっても、ピックさんにもガンガン意見をぶつけていくような。でもそれは、エンジニア、メカニック、ドライバー、チームオーナーであっても、遠慮なく意見をぶつけさせてもらえる環境だと思いますので、本当にいい環境なのではないかと思います」
──今年の新しいチームメイトとして新人のアーサー・ルクレールが加入しましたが、印象はいかがですか。
「僕は2022年よりもすごくいい状況になっていると感じています。正直なところ、2022年のチームメイトだったロイは経験豊富で僕自身学ぶことも多かったのですけど、レースウイークに入ってフリープラクティスから予選を進めていく中で、コース上で僕がロイに劣る部分が少なく、セットアップや走りの部分で比較対象としてうまく進めることができなかったという課題がチームにはありました」
「それは僕としても感じていた部分でもありました。アーサーはルーキーですけど、昨年末のアブダビテストの最終日には、僕よりも速いコーナーがあったりして、もう既に彼から学ぶところがあり、チームメイトにプレッシャーをかけてくれている部分があると感じています。2023年は切磋琢磨して、お互いがいいプレッシャーをかけながら、チームとしてもさらに成長できるシーズンになるのではないかなと思っています」
──F1昇格に必要なスーパーライセンスの獲得を含め、2023年は岩佐選手にとって特に大事な勝負の1年となるのではないかと思います。どのような心境で2023年シーズンに臨みますか?
「もちろん、2023年の最終目標はシリーズタイトル獲得です。そこに向けてさらに強く、速くならないといけません。2022年の後半戦を分析する限り、ポテンシャルはあるので、間違いなくタイトル争いができると思っています。そこからさらに、新たな味付けなども行い、チームと一緒にまずは目の前のレースを1戦1戦、勝つことが本当に重要になると考えています」
* * * * * * * * *
FIA F2のチャンピオン争いとともに、スーパーライセンスの獲得、そしてF1へのステップアップが期待される2023年の岩佐歩夢。2023年FIA F2開幕戦は3月3〜5日に、F1バーレーンGPのサポートイベントとしてバーレーン・インターナショナル・サーキットで開催される。岩佐の参戦するFIA F2の模様は動画配信サービス『DAZN(ダゾーン)』にて、全14大会の全セッションがライブ配信される。
DAZN:https://www.dazn.com/ja-JP/welcome
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです