F1モナコGP技術解説:メルセデスW14の大規模アップデート(2)フロントサスペンションの変更とその効果

 

 2023年F1第7戦モナコGPに、メルセデスが導入した大規模なマシンアップグレードを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察。W14の細部の画像を紹介するとともに、デザインの変化とその狙いを分析する。第1回「レッドブルからインスピレーションを得たアンダーフロア」 に続く今回は、新しく導入されたフロントサスペンションに注目する。

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 メルセデスはW14のサイドポンツーンとフロアに変更を施したが、それだけでは十分ではない。あらゆる姿勢でフロアが一定のダウンフォースを生み出すためには、フロアを安定させるサスペンションが必要だ。去年のレッドブルRB18、そして今年のRB19のサスペンションは、エイドリアン・ニューウェイが直々に設計した。空力プラットフォームを制御するで上で、サスペンションがいかに重要な役割を果たすかを、ニューウェイはすぐに理解したのだ。

 2022年に導入されたグラウンドエフェクトマシンは、車高変化に非常に敏感である。高すぎればダウンフォースが十分に生み出されず、低すぎるとポーパシングやバウンシングに悩まされる。空力とサスペンションの相互作用は、いっそう重要性を増しているということだ。

 ところがメルセデスの開発陣はW13とW14を設計した際、サスペンションとダンパーの剛性で十分に空力プラットフォームをコントロールできると考えた。しかしこれだけでは不十分で、フロアの安定には他のツールを使う必要があることを、彼らも徐々に理解していった。一方ニューウェイは即座に理解したからこそ、RB18とRB19にアンチダイブ・フロントサスペンションとアンチスクワット・リヤサスペンションを装着したのだ。

メルセデスW14、レッドブルRB19のフロントサスペンション比較
メルセデスW14、レッドブルRB19のフロントサスペンション比較
メルセデスW14のサスペンション比較
メルセデスW14のサスペンション比較

 メルセデスは今回、W14Bのフロントサスペンションにアンチダイブシステムを取り入れた。具体的にどんなものなのか、見てみよう。

 上の比較写真の黄色矢印で明らかなように、アッパーウィッシュボーンのフロントアームはリヤアームよりも高い位置にシャシーに取り付けられている。これはブレーキング時にノーズダイブしやすいフロントサスを制御するためだ。レッドブルの場合、この2つの取り付け位置の角度は、約45度という極端なものだ。一方モナコ以前のメルセデスでは、この角度は15度程度だった。

 それがW14Bでは、アッパーウィッシュボーンのフロントアームが上がったことで、角度は明らかに大きくなっている(RB19ほどではないが)。さらにカバーを外した状態では、固定箇所が補強されていることがわかる(上の比較写真の黄色い部分)。

 ドライバーやエンジニアは、リヤエンドがまだ神経質すぎるという感想を持っている。とはいえ新しいパーツは、ほぼ期待どおりに機能した。ただしモナコという特別なコースレイアウトでは、十分なデータを集めることができなかった。アップデートの最適化作業は今週末のスペイン、そしてカナダで続けられる。レッドブル、そしてアストンマーティンに少しでも追いつくために、彼らがやるべきことはまだまだ多い。

ルイス・ハミルトン(メルセデス)
2023年F1第7戦モナコGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

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