【全ドライバー独自採点/F1第10戦】天候とFIAの失態。困難な週末に真価を発揮した5人
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はオーストリアGPのスプリントの週末を振り返る。
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今回、トラックリミットの件は無視してドライバーの評価を行った。レッドブル・リンクではコクピット内のドライバーからは白線は見えづらい。そのため、今回のような事態になることを予測して手を打たなかったFIAにすべての責任があるからだ。それでなくてもオーストリアGPはドライバーにとって困難な週末だった。スプリント・フォーマットでフリープラクティスは1回しかなく、土曜日はウエットからドライへと移り変わる厄介なコンディションになり、日曜日決勝には前日とは全く異なるドライとなった。
■評価 10/10:レッドブル・リンクの王者。圧倒的な力で支配したフェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/スプリント・シュートアウト1番手/スプリント1番手/決勝1位
そういう週末にひとり際立っていたドライバーがいた。マックス・フェルスタッペン(レッドブル)だ。プラクティスの初めからメインレースの終わりまで、レッドブル・リンクの王者というべき圧倒的な力で支配した。フェルスタッペンはほとんどミスをしなかったが、ケビン・マグヌッセンやルイス・ハミルトンに対する妨害でペナルティを取られなかったのはラッキーだった。
スプリントレースでは、1周目にチームメイトに芝生に押し出されたものの、リードを守った後は、1周あたり1秒近くの差をつけて勝利した。大きな自信を持って戦っていたフェルスタッペンは、日曜決勝のバーチャルセーフティカー(VSC)導入中に、フェラーリ2台とは異なりステイアウト、最初のプランに従って走り、カルロス・サインツとシャルル・ルクレールを抜き去り、簡単に引き離していった。終盤にはファステストラップを狙うためにピットストップし、ソフトタイヤに交換するという決断を下し、これも成功させて、追加で1点を加算した。ただ、正直言って、これについては、報酬に対して大きすぎるリスクを冒したと思う。
■評価 9/10:競争力の低いマシンで週末ベストのラップを見せたヒュルケンベルグ
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選2番手/スプリント・シュートアウト6番手/スプリント12番手/決勝2位
ランド・ノリス(マクラーレン):予選4番手/スプリント・シュートアウト3番手/スプリント9番手/決勝4位
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選3番手/スプリント・シュートアウト5番手/スプリント3番手/決勝6位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選8番手/スプリント・シュートアウト4番手/スプリント6番手/決勝リタイア
フェルスタッペン以外で唯一リードラップを記録したのがシャルル・ルクレール(フェラーリ)だった。週末のなかで波があったものの、予選Q3のラップはとても美しいもので、特に高速コーナーの走りは見事だった。
土曜日の複雑なコンディションでは、自分が求めるハンドリングをマシンから得られずに苦しんだが、日曜日のドライコンディションでは、パフォーマンスを取り戻した。驚異的なスピードを発揮し、より新しいタイヤを履き、より速いマシンに乗るフェルスタッペンを全力で抑えようとする姿を見ると、ルクレールがどれだけ優れたドライバーかを改めて思い知った。条件が揃ったときの彼は、凄まじい力を発揮する。
ランド・ノリス(マクラーレン)は、いつもこのトラックで高い競争力を発揮する。すべてのコンディションで速く、メルセデスとアストンマーティンを真っ向勝負で打ち負かし、チームに大きな自信をもたらした。日曜決勝ではカルロス・サインツやセルジオ・ペレスと戦い、レース後にサインツがペナルティで降格されたために、ノリスは4位を手に入れた。今回のノリスは、アグレッシブでありながらミスをせず、今シーズンここまでのペース不足はMCL60に起因していたということを強く示した。
カルロス・サインツ(フェラーリ)が6位という結果に終わったのは残念だ。彼は間違いなく、もっと上位にふさわしい仕事をした。全体的にルクレールよりも優位に立ち、土曜日の複雑なコンディションでとても良い走りをした。ただ、金曜予選Q3ではチームメイトにかなわなかった。
日曜決勝の彼のペースはルクレールと同等、あるいはそれ以上だった。VSCの間にチームはサインツをルクレールの後ろで待機させたためにポジションを失い、タイヤが新しい状態の時に、ペレス、ハミルトン、ノリスを追い越さなければならず、スティントの終盤にタイムをロスする結果になった。サインツとペレスのバトルは週末のハイライトのひとつだった。レース後のペナルティで6位に降格されたのは、非常に残念だ。
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、週末を通してチームメイトを大きく上回った。ドライの金曜予選ではハースを8番手につけるという大健闘を見せ、スプリント・シュートアウトでは、週末ベストのラップを走った。そのラップで、競争力のないマシンでグリッド2列目を確保したのだ。ウエットからドライへと変化したスプリントでは、インターミディエイトタイヤが持つ限りライバルたちに抵抗した後、ポイント圏内を走りながらドライタイヤに交換するという勇気ある決断をした。それが奏功し、ヒュルケンベルグは貴重なポイントを手に入れた。あと1周あれば、アストンマーティン2台を追い抜くこともできただろう。トリッキーなコンディションで彼がどれだけ速いかを改めて証明した。しかしメインレースではトラブルに見舞われ、わずか12周でリタイアしなければならなかった。
■評価 8/10:マシンの不可解な不調に悩んだハミルトン
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選5番手/スプリント・シュートアウト18番手/スプリント10番手/決勝8位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選10番手/スプリント・シュートアウト11番手/スプリント13番手/決勝11位
メルセデスとルイス・ハミルトン(メルセデス)にとって、不可解でフラストレーションが溜まる週末だった。オーストリアでのW14は、前の3戦よりも競争力がはるかに劣っていたのだ。
スプリント予選では、チームのタイヤ戦略に納得しておらず、最後のアタックでフェルスタッペンにブロックされたためにSQ1で敗退。しかしスプリントではうまく順位を上げた。ドライコンディションではラッセルよりも明らかに速く、日曜決勝ではノリスやアロンソと戦ったが、レース後のペナルティでチームメイトの後ろに降格された。
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は、ポイントこそ獲得できなかったものの、ふたつのレースで素晴らしい走りを見せた。信頼できるマシンを手に入れて、自信が高まり、再び金曜予選でQ3に進出。日曜決勝では、もっと良いタイヤ戦略で走っていれば、簡単に入賞することができただろう。
■評価 7/10:なんとかプライドを取り戻したペレス
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選15番手/スプリント・シュートアウト2番手/スプリント2番手/決勝3位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選7番手/スプリント・シュートアウト7番手/スプリント5番手/決勝5位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選9番手/スプリント・シュートアウト12番手/スプリント15番手/決勝10位
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選18番手/スプリント・シュートアウト20番手/スプリント18番手/決勝13位
たった24周のスプリントでフェルスタッペンに21秒差をつけられるという屈辱的な敗北を喫したセルジオ・ペレス(レッドブル)にとって、メインレースで表彰台に上れたことは救いになっただろう。スプリントではオープニングラップでフェルスタッペンを芝生に押し出し、その後で押し出されて後退するという、最悪の展開になった。金曜予選では4回連続でQ3に進出できなかったが、日曜レースで15番手から3位まで浮上、プライドと貴重なポイントを取り戻した。しかしレッドブル内の彼の立場は今や明確なナンバー2ドライバーである。
アストンマーティンはフェラーリと比較してのパフォーマンスが低下しつつあり、オーストリアではランド・ノリスが乗るアップデート版マクラーレンにも負けていた。フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は珍しく予選とスプリントでチームメイトにも敗れた。しかし日曜決勝では権威を取り戻し、レース後に複数のドライバーにペナルティが出た結果、アロンソは5位に繰り上がった。アロンソは今も、ペレスとドライバーズ選手権2位を争う位置を維持している。
厳しい時期を経て、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)はようやく良い週末を過ごすことができた。土曜日はうまくいかず、シュートアウトで最速タイムを抹消されてQ2で敗退、スプリントでポジションを上げることもできなかった。しかし金曜予選と日曜決勝では、チームメイトよりも安定したパフォーマンスを発揮し、チームに貴重なポイントをもたらした。
アップデート版マシンを得たローガン・サージェント(ウイリアムズ)は、F1でのここまででベストのレースをした。予選ではラップをうまくまとめることができず、ベストタイムはトラックリミットで取り消されてしまったが、日曜決勝には巧みなオーバーテイクでポジションを上げていき、アルボンとほぼ同じタイムで周回、チームメイトのふたつ下のポジションをつかんだ。13位というのは立派な結果だ。
■評価 6/10:パフォーマンス不足のマシンで苦しんだ角田裕毅
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選11番手/スプリント・シュートアウト15番手/スプリント8番手/決勝7位
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選6番手/スプリント・シュートアウト8番手/スプリント4番手/決勝9位
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選13番手/スプリント・シュートアウト17番手/スプリント11番手/決勝16位
角田裕毅(アルファタウリ):予選16番手/スプリント・シュートアウト13番手/スプリント16番手/決勝19位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選12番手/スプリント・シュートアウト9番手/スプリント7番手/決勝14位
今回も、ジョージ・ラッセル(メルセデス)はハミルトンにかなわなかったが、レース後のペナルティにより、チームメイトよりひとつ上の順位を手に入れた。スプリントで最初にスリックタイヤに履き替えるという勇気ある決断を下したことは高く評価したい。それによってラッセルは1ポイントをつかんだ。しかし日曜にはチームメイトより常に0.1秒から0.2秒遅かった。
ランス・ストロール(アストンマーティン)にとってのこの週末のハイライトは、スプリントだった。金曜予選に続き、スプリントでもアロンソを破ってみせたのだ。しかし日曜決勝では、スタート直後にチームメイトにかわされ、VSCの際のピットストップが1周遅かったため、大量にポジションを落とした。その後、マシンの速さを活用して、ポジションを上げていき、さらにレース後のペナルティ騒動の後、9位に繰り上がった。
チームメイトはアップグレードされたシャシーでトップグループで戦ったが、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、今回は旧型エアロパッケージで我慢するしかなかった。しかしピアストリは健闘し、スプリントでは特にスリックタイヤに履き替えた後、非常に速く、一時は全体のファステストラップを維持していた。日曜決勝ではターン1でヒットされ、ダメージを受けたマシンで走り続けるしかなく、本来の速さを発揮することができなかった。
レッドブルリンクでアルファタウリAT04の競争力が最低だったことに加え、レースの1周目にインシデントに見舞われるなど、角田裕毅(アルファタウリ)は、にとっては順調な週末ではなかった。彼の名誉のために言っておくと、レースを再開してからは、ダメージのあるマシンにもかかわらず、非常に良い走りをしていた。とはいえ、今回はポイント獲得を夢見ることは不可能で、レース後のペナルティ適用により、最下位に落とされた。
エステバン・オコン(アルピーヌ)は、マシンのペース不足に困惑しながらも、土曜日の複雑なコンディションのなかで好成績を挙げた。SQ3に進出し、スプリントで貴重な2ポイントを獲得。ラッセルと激しく争い、0.009秒差で抑えきったのだ。日曜日にはペースを発揮できず、アンセーフリリースのペナルティでポイント圏外に落ち、さらに、大量のトラックリミット違反を取られ、レース中のペナルティの記録を更新した。
■評価 5/10:デ・フリースのベストレースとボスは言うものの……
周冠宇(アルファロメオ):予選17番手/スプリント・シュートアウト16番手/スプリント19番手/決勝12位
ニック・デ・フリース(アルファタウリ):予選20番手/スプリント・シュートアウト14番手/スプリント17番手/決勝17位
今週末、2回の予選で、周冠宇(アルファロメオ)はどちらもQ1で敗退、ウエットコンディション下ではアルファロメオのマシンが最も遅かったため、スプリント中も苦しんだ。結局、チームメイトより前の19番手でフィニッシュするのがやっとだった。
ルーキーのニック・デ・フリース(アルファタウリ)は、相変わらず苦戦している。レッドブルのヘルムート・マルコは、オーストリアは、デ・フリースにとって今シーズンベストレースのひとつだったと言ったが、そうだとしたら大変だ。週末を通して彼には全く印象的なところがなかったからだ。金曜予選では最も遅く、シュートアウトではSQ2に進出したが、スプリントではまるで目立たなかった。日曜日に注目を浴びたのは、またしてもマグヌッセンをコース外に追いやった時だけで、当然のことながら、この行為でデ・フリースはペナルティを受けた。
■評価 4/10:ヒュルケンベルグに大きく差をつけられたマグヌッセン
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選14番手/スプリント・シュートアウト19番手/スプリント20番手/決勝15位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選19番手/スプリント・シュートアウト10番手/スプリント14番手/決勝18位
土曜のシュートアウトのSQ1開始直後にスピンしたことで、バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は自信を失い、トリッキーなコンディション下で限界までプッシュできず、SQ2に進めなかった。日曜レースは14番グリッドからスタートした直後、ターン1でデブリをヒットし、フロントウイングのエンドプレートを破損。しかし、チームはエンドプレートにダメージを抱えた状態でSCおよびVSC導入時にステイアウトさせた。ウイングを交換した後は、まずまずのレースができたが、そのときにはすでに手遅れだった。
下位で戦っていたケビン・マグヌッセン(ハース)にとって、チームメイトが輝いているのを見るのは辛かったはずだ。予選では技術的な問題に妨げられ、19番グリッドから日曜決勝をスタート。序盤のセーフティカー時でタイヤを交換したことで、実質的なワンストップ戦略を目指したが、これはあまりにリスキーな決断だった。さらにマグヌッセンは、“お友達”のデ・フリースからターン6出口でグラベルに押し出されている。
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