【F1第16戦無線レビュー】「僕は勝ちたい」「ノリスとの差を毎周教えて」優勝をかけた3チームによる譲れないバトル
2023年F1第16戦シンガポールGP。土曜日の予選でレッドブル勢が振るわず、グリッド上位にはフェラーリ、メルセデス、マクラーレンが並んだ。1年のなかで最も過酷なレースと言われるシンガポールGPは、追い抜きの難しいマリーナベイ市街地サーキットが舞台となるが、今シーズンの初優勝をかけて最終ラップまで3チームによる激しいバトルが繰り広げられた。シンガポールGPを無線とともに振り返る。
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レッドブルとマックス・フェルスタッペンの絡まない優勝争いは、こんなにも盛り上がるものなのか。思わずそう思ってしまうほど、手に汗握るレース展開だった。
5番手スタートのルイス・ハミルトン(メルセデス)が、ターン1のブレーキングでランド・ノリス(マクラーレン)をかわし、さらにジョージ・ラッセル(メルセデス)に並ぶ。しかし止まりきれず、オーバーラン。3番手でコース復帰した。ラッセルにしてみれば、当然順位は戻されるはずだった。ところがハミルトンは、そのまま走り続けた。
1周目
ラッセル:僕に譲るつもりはないのか?
ハミルトンの言い分は真逆だ。
ハミルトン:ジョージに押し出された
2周目
ノリス:ルイスは僕に譲らないのか? あれだけ深くブレーキングしたら、飛び出すのは当たり前なのに。ふたつ、ポジションを譲らないと
ウィル・ジョゼフ:了解した。すでにレースディレクターには申し入れた
ハミルトンは2周目にラッセル、5周目にようやくノリスに譲った。
背後では、セルジオ・ペレス(レッドブル)に背後から接触された角田裕毅(アルファタウリ)が、マシンにダメージを負って早々に戦線離脱した。
2周目
角田:パンクチャーだと思う。ペレスに押し出された。ペレスだよ、まったく!
前日の予選Q2で同じレッドブルのマックス・フェルスタッペンにアタックを邪魔されたことが、角田の頭をよぎったのかもしれない。
2番手シャルル・ルクレール(フェラーリ)が、首位カルロス・サインツ(フェラーリ)を懸命に追う。しかし近づきすぎると、乱流でタイヤがすぐに劣化してしまう。
9周目
シャビエル・マルコス・パドロス(→ルクレール):サインツとのターゲットは3秒だぞ。今は1秒だ
タイヤをいたわるためには、3秒の間隔を空けろと指示するが、ルクレールはきかない。
一方のサインツは、早くもクルージングモードだ。
10周目
サインツ:このペースなら、永遠に走れるよ
13周目
ルクレール:カルロスは、スローダウンしてるみたいだ
実際には、それほどペースは落としていない。
15周目
パドロス:サインツとのギャップは3秒だ
ルクレール:わかってる。でも僕はリスクに晒されてるんだから
18周目
ラッセル:勝つための最善の方法は何だ。教えてくれ
マーカス・ダドリー:フェラーリにプレッシャーをかけ続けることだ
19周目、ローガン・サージェント(ウイリアムズ)が単独クラッシュ。自力でピットインするがSCが導入され、ステイアウトのフェルスタッペンが2番手に上がる。
2番手だったルクレールは、ピットインで大幅にタイムロスしてしまう。
ルクレール:何が起きたんだ
パドロス:トラフィックで待たせる必要があった
ラッセル、ノリスに先行され、ルクレールは6番手まで後退した。
一方、ステイアウトを選択したレッドブル2台はまったくペースが伸びず、フェルスタッペンはラッセル、ノリスになすすべもなく抜かれ、ペレスもハミルトン、ルクレールにかわされた。
25周目
ペレス:ハミルトンは飛び出した。
ヒュー・バード:ああ、見てる
ペレス:僕に順位を返すべきだ
しかしこれは、審議にもかからなかった。
29周目
ラッセル:サインツはマネージメントしまくってる。すごく遅い。僕らを後ろに閉じこめるつもりだ
フェラーリとしては、そうやって5番手のルクレールができるだけ引き離されないようにする作戦だ。
30周目
ダドリー:タイヤに注意しろ
ラッセル:全然大丈夫。最後まで行けるよ。サインツがこれだけ遅いんだから
32周目
フェルスタッペン:まるで氷の上を走ってるみたいだ
ランビアーゼ:了解
33周目
ラッセル:僕は勝ちたい
ダドリー:わかってる。同じ思いだ
しかし打つべき手は限られている。サインツにミスやトラブルがない限り、勝利は難しい。
38周目
サインツ:いつプッシュしたらいいか、教えてくれ。1秒は余裕で速くできるから
39周目
ダドリー:サインツは1秒速く走れるといってる
ラッセル:2秒と言っても驚かないよ
43周目、6番手走行中のエステバン・オコン(アルピーヌ)が、駆動系トラブルで止まってしまう。
オコン:ノー!! ノー!!
これでバーチャルセーフティカー(VSC)が導入され、上位勢ではメルセデスの2台が新品ミディアムに履き替え、勝負に出た。
ルクレール:メルセデスは2台変えてる。それが正解じゃないのか?
パドロス:ステイアウトだ
しかし結果的にルクレールは、53周目にラッセル、次周にハミルトンにも抜かれてしまう。3、4番手に上がったラッセル、ハミルトンは首位サインツ、2番手ノリスを猛然と追った。
48周目
サインツ:このペースでどう?
アダミ:もっと上げて、最後まで行け
2台のメルセデスにみるみる迫られるサインツ。しかし彼には、一計があった。
55周目
サインツ:ノリスとのギャップを、毎周教えてくれ
58周目
アダミ:ランドは0.8秒後ろでDRSが使えてる。ラッセルはDRSなしだ
サインツ:わかってる。わざとやってるんだよ
アダミ:了解した
ノリスにわざとDRSを使わせ、背後のラッセルに抜かれないようにする作戦だった。
懸命に追走するラッセルだったが、最終周のターン10でクラッシュを喫してしまう。
62周目
ラッセル:ノー! ノー! XXXX! XXXX! まるでXXXXの新人だ!
放送禁止用語を連発し、ラッセルが悔しさを爆発させた。
チェッカー後
アダミ:なんて嬉しい結果を出してくれたんだ! 実に賢いレース運びだった
サインツ:わかるだろ? これがフェラーリで初めての、スムースオペレーションだ!!
そしてふたりで「スムース・オペレータ〜」と、歌い出した。
サインツ:リッキー! 僕らはシンガポールを勝ったぞ
アダミ:もう、泣くしかない(涙声)
サインツ:ハハハ
ノリス:キャハハ、実は壁にヒットしたんだ!
ジョゼフ:慎重にマシンを持ち帰るんだ。とにかくP2だ。よくやった
対照的にノーポイントに終わったアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は、ぶつかってきたペレスへの憤懣を抑えきれない。
ジェームズ・アーウィン:チェッカーフラッグ。P11だ
アルボン:とにかく汚いXXXだった。あれで何かを得たんだろうか
アーウィン:君と、それからローソンへの接触で審議中だ
アルボン:とにかく最悪だよ、最悪だ
そしてフェルスタッペンは5位に終わり、彼自身の連勝記録とチームの全勝記録は遂に途絶えた。
フェルスタッペン:今日は彼らにあげよう。僕らは来週勝てばいい
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