インパル星野一義総監督、“愛弟子”平川亮のマクラーレンF1リザーブ就任にさまざまな想い「僕ができなかった夢を託す」
2023年現在、全日本スーパーフォーミュラ選手権とWEC世界耐久選手権で活躍中の平川亮。2024年からマクラーレンF1リザーブドライバーに就任することが9月に行われたF1日本GP期間中に発表され、平川のF1への挑戦は国内モータースポーツファンの間で大きな話題となったが、彼の成長をスーパーフォーミュラで見守ってきたITOCHU ENEX TEAM IMPULの星野一義総監督も、この吉報をもっとも喜んでいるひとりだ。
2013年にスーパーフォーミュラデビューを果たした平川は、2016年からヨーロピアン・ルマン・シリーズへの参戦を優先するため、一旦スーパーフォーミュラを離れた。そして、2018年から参戦を再開する際に加入したのが名門チームインパルだ。2020年には山本尚貴(当時DOCOMO TEAM DANDELION RACING)と最終戦までチャンピオン争いを繰り広げたほか、2021年はインパルに11年ぶりとなるチームタイトルをもたらす活躍を見せた。今シーズンも同チームから参戦し、第7戦もてぎを終えて3度の表彰台を獲得している。
今回のマクラーレンF1リザーブドライバー就任について、スーパーフォーミュラで6年にわたって彼を近くで見て育ててきた星野総監督に、今の心境を聞いた。
■平川は「今がドライバーとして一番熟しきっている」
「その話を聞いた時は、嬉しいというか、一瞬『おぉ!』となったね」と、最初の感想を話す星野総監督。続けて、愛弟子のことについて語り出した。
「平川は粘り強さで言ったらダントツに日本でトップ。それでいて(他車と)絡まないし、絡みそうな時は必ず引いている。レースをしっかり組み立てて、最後にはトップを脅かす。この前のもてぎ(第7戦)では、タイヤ交換を失敗して申し訳ないことをしてしまったけど、完璧に良いドライバーですよね。彼が作ったリズムで、彼が描いているシミュレーションが良いのではないかな」
「よく、22~23歳の若手がもてはやされているけど、今の平川(29歳)はちょうど(ドライバーとして)熟しきって、今が一番良い時。精神的にも落ち着いているからね。嬉しいです」と、感慨深い表情をみせていた。
リザーブドライバー就任が決まったことについて、平川とは電話で話したという星野総監督。
「『ここまで育ててくれて、ありがとうございました』と言ってくれて……ものすごく大人になったよね。実力的にも精神的にも今が一番良い時。それに対して僕は『責任感とかばかりを感じないで、自分のペースで行って……自分の身体は自分で守れよ!』というような話をしました」
平川は普段から多くを語らないものの、自身の夢を叶えるために人知れず努力していることを星野総監督は知っていた様子。
「『英語勉強しているのか?』と聞いても『いや、全然ですよ』と言うけど、実はちゃんと勉強しているし、トレーニングもしっかりやっている。でも(平川からは)普段からやっているという意思表示はしないし、彼はそういうところは見せない。今はモナコに住んで、英語圏の世界を回って……きっと彼の中で着々とシミュレーションをして進めていたんだと思います」
■モリゾウが星野総監督に直接報告すべく、東京世田谷のインパル本社へ
今回の件で、マクラーレン側と交渉するなど、もっとも尽力したと言われるのがモリゾウ(豊田章男トヨタ会長)だ。実は、平川のことについて星野総監督に直接報告をするべく、モリゾウは世田谷にあるホシノインパル本社を訪れていたという。
「信じられないですよ! 『来てほしい』と会長(モリゾウ)に言われれば、すぐにこちらから行くのに」と、モリゾウとの一件について話す星野総監督。
「(平川のF1リザーブドライバーの話を聞いて)そんなの、断る/断らないではなくて『会長、こんな良いチャンスはないんですから!』と話しました」
星野総監督は平川の挑戦を後押ししたい気持ちとともに、モリゾウをはじめとした強力なバックアップ体制があることも大きいと語った。
「ドライバーにとっては幸せだと思います。モリゾウさんがフォローしてくれるのが、どれだけ心強いことか……。海外の大きな舞台に行くとなると、やはり自分ひとりの力だけじゃ無理。そこはモリゾウさんがフォローしてくれたので、タイミングとして抜群、脂が乗り切っている時に手を差し伸べてくれたので『平川、良かったなあ』と思いました」
「平川はきっと、良い走りをするんじゃないかなと思います。そして、再来年は正ドライバーになってくれるかな……」と星野総監督。平川へ寄せる期待は膨らむばかりだ。
「僕ができなかった夢を叶えてほしいなと思います。平川に託したいなと。僕たちの頃は1戦(ヨーロッパに)いくのに1200万円くらいかかったんだから、とても自分のお金では無理。その時は日本で応援してくれる人がいるという時代でもなかった。そういう意味では、このチャンスを平川自身がうまくやってほしいですね」
■SFは一旦、卒業か。「“不器用な”平川のままでいてほしい」
来季の平川については、マクラーレンF1のプログラム以外でどのカテゴリーに参戦するかについて、今の段階で発表は何もない。それでも周囲の情報を集める限りでは、スーパーフォーミュラ参戦は今シーズンで“一旦ひと区切り”の形になりそうな気配だ。
星野総監督に「今後の平川に期待することは」と聞くと、しばらく考えた末に「今の“不器用な”平川のままでいてほしい」と答えた。
「彼は要領よく自分をアピールしたり、周りにゴマをするようなこととか、そういうのがあまり器用じゃないから……だから、可愛いかったんですよ。そこを(豊田)章男さんも分かってくれていて協力してくれたんでしょうね。やっぱり、見てくれている人は見てくれているんです」
「これからもマネジメントとか周りのこととかは不器用なままでいてほしい。うまく言えないけど……ハンドルを握ったら、その世界だけに集中して、スーパーフォーミュラの時のように自分で目標を立てて、階段を上っていってもらいたい」
「そうすると、周りが『何とかしてあげたい!』という気持ちになってくるから。それが天狗になってチャラチャラして……そういうのは大嫌いです。ただ速く走ることだけに集中する、そういう今の平川のままでいてほしいです」
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