【全ドライバー独自採点/F1第10戦】記憶に残るバトルを披露したハミルトンと、将来に光が見えてきたミック&周冠宇
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。雨の予選、身の毛がよだつクラッシュ、トップドライバーたちの名バトルと、さまざまな出来事が起きた週末に、カルロス・サインツが自身初のポールポジションからF1初優勝を達成した。イギリスGPでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。
───────────────────────────
■評価 10/10:速さで劣るマシンで戦って表彰台をつかんだハミルトン
シルバーストンでも、ドライバーたちは非常に高レベルのパフォーマンスを披露してくれた。イギリスGPで彼らが見せたバトルは、今シーズン最もエキサイティングなバトルとして思い出されるものになるかもしれない。
ルイス・ハミルトン(メルセデス)は予選で非常に素晴らしい走りをした後、決勝でもメルセデスよりはるかに速いフェラーリやレッドブルと戦って表彰台をつかんだ。2位になれる可能性もあったが、セーフティカーが不利に働き、かなわなかった。いったんはポジションを落としながらも、自分より速いマシンを相手に、フェアでクリーンな戦いをして、実力で3位表彰台を勝ち取った。
■評価 9/10:チームの戦略で勝利を失ったルクレールと初優勝をつかんだサインツ
順当に行けば、シャルル・ルクレール(フェラーリ)がウイナーになっていたはずだ。予選でスピンを喫したためにポールポジションを取り逃し、スタート直後のセルジオ・ペレスとの接触でフロントウイングのエンドプレートにダメージを負い(これについてはルクレールの責任とはいえない)、不利な状況に陥ったものの、ルクレールはレース終盤にトップに立った。ところが、セーフティカー出動時にフェラーリが失態を犯したことで、確実かと思われた勝利を落とす結果になってしまった。自分のチームに足を引っ張られて、それまでの努力が報われないとは、何とも気の毒だった。
ルクレールがチャンスを失ったことで勝利を手に入れたのは、チームメイトのカルロス・サインツ(フェラーリ)だった。予選で大きなミスをしなかったことがポール獲得のカギとなり、2日間で、F1での自身初のポールポジションとF1初優勝を達成した。決勝ではマゴッツでのミスでリードを失ったが、チームの指示に反してでも勝利を手に入れたいという強い決意をもって戦い、ユーズドのハードタイヤで走らなければならなかったルクレールを楽に抜いて、トップに立った。今回のサインツには、トップドライバー特有の強い決意が見えた。
サインツにとってのヒーロー、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)も、この週末のスターのひとりだった。終盤にはフェラーリ、レッドブル、メルセデスのすぐ後ろの5番手を走り、目の前で2番手争いをする3台に何かあった場合には、表彰台をつかもうとチャンスをうかがっていた。予選でも速かったが、奇跡のモントリオールほどではなかった。しかし決勝では忍耐強くランド・ノリスを追い続けた後、セーフティカー出動時のピットストップでノリスの前に出ることに成功した。
■評価 8/10:周冠宇とシューマッハーが、F1ドライバーにふさわしい走り
トラブルさえなければ、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は優勝していたかもしれない。彼はピエール・ガスリーのマシンから落ちたリヤウイングのエンドプレートの上を乗り越えて、マシンのフロアにダメージを負ったのだ。レースの最初のスタートではソフトタイヤでトップに立ったが、赤旗後のリスタートでは、サインツと同じミディアムで臨み、リード奪取はならず。サインツがミスをした際にパスすることができた。しかしフェルスタッペンはその直後にマシンにダメージを負ってしまった。彼はチームに対して何が起きたかを的確に伝えず、タイヤ交換でロスをした。また、終盤のミック・シューマッハーへの防御は許容されるぎりぎり、あるいは許容範囲を越えるものだったと思う。予選で速さがありながら、Q3で3回ミスを冒したこともいただけなかった。
ランド・ノリス(マクラーレン)は予選で6番手という好位置をつかんだ後、決勝ではタイヤを労わるために抑えた走りをしなければならなかった。セーフティカー出動時のピットストップで、アロンソの後ろに落ちた後は、2番手争いに加わることはできなかった。トップスピードが足りず、前のマシンにアタックする力がなかったのだ。
周冠宇(アルファロメオ)はとてもいい仕事をしていたので、それにふさわしい結果を手にしてほしかった。だが実際にはスタート直後の激しいアクシデントでコースから弾き出され、ウォールに激突してレースを終えるという、気の毒な結果になった。予選ではまたしても、ウエットコンディションで極めて速いことを証明した。彼は今後何年もF1に残り続けるのにふさわしいドライバーであり、これまで彼の速さと才能に疑問を抱いていた者たちを黙らせるだけのパフォーマンスを見せたといえるだろう。
ミック・シューマッハー(ハース)は、セバスチャン・ベッテルやフェルスタッペンといったベテランを相手に良いレースをし、F1での初ポイントを獲得した。週末を通してミスをせずに今年ベストのパフォーマンスを発揮することができ、彼自身、ほっとしていることだろう。ハースは2023年に向けて彼と新契約を結ぶ気になったのではないか。
来年、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)のシートがオスカー・ピアストリのものになる可能性が高いことには変わりはないが、それでもラティフィはシルバーストンで意地を見せた。彼はアップデートが入れられていないウイリアムズに乗り(つまりグリッドで最も遅いマシンということだ)、ウエットコンディションの予選で、実力でQ3に進出した。さらに決勝では最初のタイヤ交換まで、バルテリ・ボッタスを抑えきった。全体的には自分より速いマシンを相手になす術がなかったが、彼のF1キャリアのなかでベストといっていいほどの走りを見せた。
■評価 7/10:ウエットの予選で速さを見せたガスリー
セルジオ・ペレス(レッドブル)が2位にふさわしい仕事をしたとは断言しがたい。ウエットコンディションの予選ではポールポジション争いに加わることができず、レーススタート後にはルクレールと接触、その責任のほとんどがペレスにあった。それによってピットストップしなければならず、後方に沈んだが、その後はツイていた。4番手から遠く離れた5番手を走っていたが、セーフティカーが出動したことでトップグループのすぐ後ろに追いつき、速いマシンを最大限に活用して2番手にポジションを上げることができた。全体的にはモナコやバクーとはほど遠いパフォーマンスだった。
アストンマーティンがシーズン最初の大規模アップグレードを入れて以来、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)は毎週末、チームメイトのランス・ストロールとは比べものにならないほど好調だ。予選ではタイヤ戦略の失敗によってQ1で敗退したが、レース中にしっかりポイント圏内までポジションを上げた。ただセーフティカー出動中のピットストップでミディアムタイヤをチョイスしたことで、フェルスタッペンとシューマッハーを抑えきることができず、7番手から9番手に落ちてしまった。
ピエール・ガスリー(アルファタウリ)にとってフラストレーションが溜まる週末だった。競争力の乏しいマシンでありながら、ウエットコンディションの予選で11番手を獲得、ドライバーとしての力を見せつけた。レースでは序盤に7番手まで上がったが、チームメイトにぶつけられた後、レースディレクターからブラック&オレンジフラッグを提示され、リタイアとなった。
■評価 6/10:ウイリアムズのアップデートの真価を示せなかったアルボン
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は、Q2の最も重要なラップでミスを冒したために、Q3進出を逃がした。その結果、決勝では最初の4分の1をラティフィの後ろを走り続けなければならず、ようやく前がクリアになった途端に、ギヤボックスが壊れてリタイアした。
ウイリアムズはアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)のマシンにアップグレードを投入、アルボンはマシンの進歩を示し、予選Q3進出可能な速さがあるとみられたが、チームがQ1でタイヤ戦略を誤ったことで敗退。決勝スタート直後には、彼自身に非はない多重クラッシュの犠牲となった。
ケビン・マグヌッセン(ハース)はセーフティカー出動時にステイアウトするという自分の判断で、ポイントをいくつか取り逃した。ハースはチームメイトのミック・シューマッハーのマシンは新品タイヤに交換、結局マグヌッセンはシューマッハーより後ろに下がってしまった。ウエットコンディションの予選で振るわなかったマグヌッセンは、少なくとも決勝では1点をつかんだ。
■評価 5/10:オコンは予選でも決勝でもトラブル発生
エステバン・オコン(アルピーヌ)は、予選ではバッテリーのトラブルに見舞われてQ2敗退、決勝では燃料ポンプの問題でリタイアという週末だったので、評価を下すのが難しい。決勝ではミスなく走り、一時は7番手を走行していたが、トラブルが発生してストップ。そこで出動したセーフティカーが友人ルクレールの勝利を奪った。
■評価 4/10:いつもの輝きを見せられなかったラッセル
ジョージ・ラッセル(メルセデス)にとっては、彼らしからぬ低調な週末だった。ウエットの予選で8番手にとどまり、スタート直後には自分と周冠宇の間にガスリーがいることに気付かずに左に寄り、接触が起きた。ただ、その後、マシンにとどまっていれば、赤旗後のレースに参加できたにもかかわらず、すぐさまマシンを降りて周のもとに駆け付けた行動を褒め称えたい。
■評価 3/10:レース界においてしてはならないミスを犯した角田
チームメイトに接触して自分のチームのマシン2台のチャンスを投げ捨てることは、モーターレーシングの世界では重大な罪である。7番手を走るガスリーを抜いてポジションを上げたかった角田裕毅(アルファタウリ)は、誤った判断に基づいて仕掛け、スピンをしてガスリーにヒット、これによって2台ともがポイントのチャンスを失った。
今シーズンここまで低迷しているランス・ストロール(アストンマーティン)は、シルバーストンでもウエット、ドライの両コンディションでベッテルにかなわなかった。ストロールがコンスタントにポイントを獲得できずにいることで、アストンマーティンにとって苦しいシーズンが続いている。
■評価 2/10:リカルド、来季シートにつながる走りができず
こんなことを言わなければならないのは本当に辛いのだが、ダニエル・リカルド(マクラーレン)は、マクラーレンが今シーズン末で彼を解雇するための材料を与え続けているように見える。シルバーストンでリカルドはかつての速さを発揮できず、すべてのコンディションで遅かった。レース中盤には10番手を走ったものの、後半は、周回後れとなり、ペナルティを受けた上にダメージを負ったマシンで最後尾を走行していた角田のひとつ上という結果に終わった。
■全ドライバー評価/F1第10戦イギリスGP(10段階)
評価 10/10
ルイス・ハミルトン:予選5番手/決勝3位
評価 9/10
シャルル・ルクレール:予選3番手/決勝4位
カルロス・サインツ:予選1番手/決勝1位
フェルナンド・アロンソ:予選7番手/決勝5位
評価 8/10
マックス・フェルスタッペン:予選2番手/決勝7位
ランド・ノリス:予選6番手/決勝6位
周冠宇:予選9番手/決勝リタイア
ミック・シューマッハー:予選19番手/決勝8位
ニコラス・ラティフィ:予選10番手/決勝12位
評価 7/10
セルジオ・ペレス:予選4番手/決勝2位
セバスチャン・ベッテル:予選18番手/決勝9位
ピエール・ガスリー:予選11番手/決勝リタイア
評価 6/10
バルテリ・ボッタス:予選12番手/決勝リタイア
アレクサンダー・アルボン:予選16番手/決勝リタイア
ケビン・マグヌッセン:予選17番手/決勝10位
評価 5/10
エステバン・オコン:予選15番手/決勝リタイア
評価 4/10
ジョージ・ラッセル:予選8番手/決勝リタイア
評価 3/10
角田裕毅:予選13番手/決勝14位
ランス・ストロール:予選20番手/決勝11位
評価 2/10
ダニエル・リカルド:予選14番手/決勝13位
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです