【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回後編】連続W入賞。チームプレイで貢献のケビンと若さゆえに不満を抱えたミック
2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。連戦のオーストリアGPでは、今季2度目のW入賞を達成した。コンストラクターズランキングでもアルファタウリを逆転して7位に上がり、6位のアルファロメオも視野に入ってきたという小松エンジニアだが、オーストリアGPはいい結果で終わることができたものの反省点も多いレースだったという。
コラム第9回は、前編・後編の2本立てでお届け。後編となる今回は、オーストリアGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2022年F1第11戦オーストリアGP
#47 ミック・シューマッハー 予選7番手/スプリント9番手/決勝6位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選6番手/スプリント7番手/決勝8位
前戦イギリスGPに続き、オーストリアGPもダブル入賞で終えることができました。今シーズン、2台で週末3日間をまとめられたのはこれが初めてです。なかなかポイントを獲れないレースが続くなか、チームには、「クルマの戦闘力はあるので早くコンストラクターズ選手権で7位に上がろう」と言っていました。カナダGP終了時点でウチが獲得したポイントは15(ランキング9位)でしたが、この2連戦で19ポイントを獲得してアルファタウリも追い越すことができ、6位のアルファロメオとの差もグッと縮めることができました。長いシーズン、これからも山あり谷ありだと思いますが、とにかく常に前を向いて一歩でも上を目指していきます。
さて今年2度目のスプリント方式で行われたオーストリアGPの週末を振り返っていこうと思います。FP1の走り出しからクルマは安定しており、金曜の予選では見事に7番手・8番手。土曜の朝のFP2はあまりよくなかったものの、そこからうまく修正してスプリントではケビンが7番手完走で2ポイントを獲得しました。日曜のレースでも6位・8位のダブル入賞とやっと3日間をまとめることができました。
ミックはカナダGPからいいドライビングをしていて、イギリスGPでのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とのバトルもいい経験になりましたし、あそこでポイントを獲ったことで精神的にもひとつ山を超えたような感じです。安定したクルマなら自信を持って攻められるし、今回のルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルでも無理をせず、守りに入りすぎることもなくよくやってくれました。
スプリントで「ケビンと争わないように」と指示を出したのは、後ろからハミルトンとセルジオ・ペレス(レッドブル)が来ていたので、チームメイトふたりでバトルをしてラップタイムを落としたり、タイヤのタレが大きくなるような事態を避けるためです。6、7番手からスタートして、そのままの順位で終えられるかどうかはわからなかったですが、7、8番手でフィニッシュできる可能性があったのでとにかくダブル入賞を目指してレースタイムを重視しました。
レッドブルリンクでは3つのストレートでDRSが使えるので、DRSがないとラップタイムが0.9秒も遅くなります。ミックがハミルトンとのバトルでケビンから1秒以上離されてDRSが使えなくなった際には、ケビンに「下がってミックを引っ張ってくれ」と指示を出しましたが、ふたりの差が1秒以内に戻る前にミックはハミルトンに抜かれてしまいました。これで残念ながらミックはポイント圏外に落ちてしまいましたが、チームとしては序盤にケビンがミックをDRSで引っ張てくれたことはよかったと思っています。
しかしスプリント後、ミックはケビンを抜けなかったことについて不満が溜まっていました。ミックはまだ若くて経験も少ないし、ケビンもロマンも若い時は同じような感じだったので特に驚くことではないです。ペレスに抜かれた後、ハミルトンとのギャップがあった段階でケビンと順位を入れ替えることはできなかったのかとも聞かれました。ミックは自分の方がケビンより速かったと言っていましたが、DRSがない状態でケビンより速く走れていたコーナーがなかったことも事実です。この辺りはもう少し全体の状況を考えて、今しなければいけないレースに集中してほしいと思いますが、まあまだ若いので彼の反応は予想の範囲内です。チームがちゃんとマネージメントしていけばいいことだと思っています。
■後方にいたメルセデスをカバーできず。ピットストップではタイムロス、反省点の多いレースに
上述の通りダブル入賞で決勝レースを終えましたが、ケビンの方はかなり危ない状態でした。エンジン系の問題がレース中盤から出始めて、アクセルを踏んだ時に安定してパワーが出なくなりました。この症状がランダムに出るのでラップタイムにも影響しました。この辺りでミックの方がペースがよかったので、ふたりの順位を入れ替えようと思っていたら、こちらから指示を出す前にケビンが自分の意思でミックに順位を譲ってくれました。ケビンがこうしてミックを先行させたのは、オーストラリアGPに続いて2度目のことです。
ケビンはその後もラップタイムが悪くて、ランド・ノリス(マクラーレン)にプレッシャーをかけられ41周目に2度目のピットイン。ここで失敗したのは、ケビンよりも後ろにいたジョージ・ラッセル(メルセデス)をカバーできなかったことです。この時僕たちはメルセデスの無線を聞いていて、ラッセルが40周目にピットに入ることは予測していました。結果的に僕らは40周目には動かず、次の周にピットインしたのでラッセルにアンダーカットされてしまいました。その2周後にピットインしたノリスにオーバーカットされることはなかったものの、ケビンは第3スティントでもやはりペースが上がらずVSC後に抜かれてしまいました。それでもエンジンの問題を抱えながら8位でフィニッシュできたことは評価されるべきだと思います。
一方のミックはレース前に、スプリントで順位を入れ替えられなかったことをまだ自分の中で消化しきれておらず、再び話し合いの場をもちました。とにかく無駄な争いをしてお互いの足を引っ張ることだけは避けるようにと伝えました。彼は100%納得したわけではないものの、結局この指示に従って走ってくれました。第2スティント中盤でケビンの前に出た後はいいペースで、前にいたエステバン・オコン(アルピーヌ)とのギャップも安定していてほぼ同じペースでした。ただ43周目の2度目のピットストップの際に3.6秒かかってしまい、コースに戻った後他車に詰まってラッセルとの差が開いてしまいました。
ですからオーストリアGPは結果こそよかったものの、チームとしてもう少しうまくやれたな、という反省点も多いレースでした。それでも中団勢のなかでアルピーヌに次ぐ2番手という位置で終わることができたのは、クルマのセッティングがよかったことと、マイアミでの小さなアップデートが機能していることが理由だと思います。以前のコラムにも書いた通り、マイアミで投入したのは大きなものではないのですが、それのおかげでセットアップの幅が広がったことは確実です。今回は持ち込みのセットアップも非常によかったので、そういうもののコンビネーションでいい結果に繋がりました。
ただ、どこのサーキットに行っても今回のように最初からいいペースで走れるかというと、チームとしてはまだその段階には到達していません。イギリスGP金曜日のケビンがそのいい例です。この時は持ち込みセットアップがよくなかったので高速でまったく安定しなかったのです。もっと安定して良いセットアップをどこのサーキットでも持っていけるようにならなければいけません。
また当初は次戦フランスGPで新しいアップデートをする計画でしたが、現在はその次のハンガリーでの投入を予定しています。というのも、GOサインを出す前の最後の風洞セッションで結果があまりよくなかったので、再確認が必要になり遅れが出てしまったのです。ファクトリーのシャットダウン(サマーブレイク)後まで用意できないという話もあったのですが、ハンガロリンクのように低速コーナーが多いサーキットでのゲインが大きいので、なんとか1台だけでも持ち込もうと急ピッチで作業しているところです。
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