F1スペインGP技術解説:フェラーリSF-23のアップデート(2)他車のアイデアを自在に取り入れるレッドブルとの対比

 

 2023年F1第8戦スペインGPに、フェラーリが導入したマシンアップグレードを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察。SF-23の細部の画像を紹介するとともに、デザインの変化とその狙いを分析する。

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■アップデートでも一貫性のない挙動は解決されず

 第1回「“金魚鉢”型サイドポンツーンとフロアに加えられた変更」 の終わりに、SF-23の本質的な弱点は、今回のアップデートを持ってしても解消されたとは言い難いという話をした。

フェラーリSF-23サイドポンツーン比較

 現在のF1マシンが最大のダウンフォースを発生させるためには、できるだけ低い車高で走る必要がある。しかしSF-23が地上高を下げると、サスペンションが思うようにボディを安定させられなくなる。足周りは空力プラットフォームを安定的に制御する上で重要な役割を担っているのだが、フェラーリはそこに依然として大きな弱点を抱えているのだ。

 足回りによる制御が不完全なために、レース後のカルロス・サインツがコメントしていたように、SF-23は跳ねてしまった。これを抑える方法は今のところ車高を上げるしかなく、必然的にダウンフォースの発生量はシミュレーションでの想定よりも減少してしまう。

 それを補うための最も手っ取り早い方法は、リヤウイングを立ててダウンフォースを増やすことだ。しかし重いウイングがオールマイティでないことは、フェラーリのエンジニアたちも理解していた。そのためスペインの週末のSF-23には、比較的フラットで低い位置のリヤウイングが装着された。おかげで予選ではサインツがフロントロウを獲得できたものの、決勝では2台ともにタイヤのデグラデーションが悪化してしまった。

 2番グリッドのサインツは5位完走。ピットレーンからスタートしたシャルル・ルクレールは、順位を上げたものの12位フィニッシュ(正式結果は、他者のペナルティにより繰り上がって11位)が精一杯だった。スペインでのフェラーリはこれまでと同様、土曜日には速さを見せたものの、日曜日は一気に失速した。

2023年F1第8戦スペインGP カルロス・サインツ(フェラーリ)
2023年F1第8戦スペインGP カルロス・サインツ(フェラーリ)

 この結果を受けてフレデリック・バスール代表は、「大幅アップデートにもかかわらず、全般的な状況は変わっていない」と語る。

「予選での戦闘力が、決勝レースに反映されない。マシンの挙動はタイヤの種類によって変わるし、時には同じコンパウンドでも装着するタイミングで変化してしまう」

「たとえばシャルルは、第1スティントと第3スティントをハードタイヤで走った。そして1回目はマシンバランスが悪く、3回目は良好だった。一方カルロスは、ソフトの第1スティントとハードの第3スティントはまずまずだったが、第2スティントのミディアムでライバルに5秒から15秒の差をつけられた」

 フェラーリのエンジニアたちがマシンの性能を向上させ、操作の幅を広げる努力を続けても、SF-23にはまだ完全に理解しきれない構造上の欠陥があるということだ。レッドブルのRB19の優位性は、さまざまな要素に起因している。なのでサイドポンツーンの模倣だけでは十分ではない。フェラーリは今回、そのことを痛感させられた。

 確かにバルセロナのコースレイアウトは、左フロントタイヤがことさら厳しい試練にさらされる。そのためただでさえタイヤが劣化しやすいSF-23にとっては、決して楽な状況ではなかった。

 とはいえ一貫性のない挙動に対する根本的な答えを見つけない限り、長期的な改善は望めそうにない。その答えなしには、アップデートを重ねても散発的に速さを見せるだけになってしまうはずだ。

■レッドブルもライバルのデザインを模倣

 サイドポンツーンの形状が万能薬ではないことを証明するかのように、スペインGPでのレッドブルは他チームのデザインからインスピレーションを得て、ディフューザーを作り直した。しかも珍しいことに、「借用した」と、レッドブルは堂々と語っている(編集部注:ウイリアムズのデザインの借用と思われる)。

「ディフューザー上方のエッジをより湾曲したデザインにすることで、局所的なダウンフォースがわずかに増加できた。これはライバルチームのデザインからヒントを得たものだ」

レッドブルRB19 ディフューザー、フロア比較
レッドブルRB19 ディフューザー、フロア比較

 これまでのRB19は、非常に丸みを帯びたエッジを持つディフューザーを持つ唯一のF1マシンだった。それがバルセロナでは、フェラーリ、アストンマーティン、メルセデスなどにも見られる四角い形状を採用した(黄色矢印参照)。

 しかしこの変更が示すのは、パーツデザインはあくまで性能の一部を決めるに過ぎないということだ。そしてライバルたちをより不安がらせるのは、レッドブルが本来の競争力を失うことなく、外部のアイデアを自由に取り入れているように見えることだ。

 一方でレッドブルは依然として、他が簡単に真似できない独自性も堅持している。象徴的なのがフロアエッジにある不思議な突起で、バルセロナでは更なるアップデートが見られた(赤矢印参照)。

 進化し続ける今季のレッドブルF1は、誰にも止められない。

2023年F1第8戦スペインGP スタート直後のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

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