【全ドライバー独自採点/F1第8戦】ノーミスで週末を支配したフェルスタッペン、入賞にふさわしい走りをしていた角田
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はスペインGPの週末を振り返る。
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前戦モナコは、ドライバーの力の差がはっきりと表れるコースだったが、翌週のスペインGPの舞台は、誰もがよく知るサーキットだ。今年のスペインはテストの要素が大きく、金曜日には各チームが持ち込んだ新パーツを評価する作業に加えて、ピレリのプロトタイプタイヤのテストも行われた。そして、土曜FP3が雨に見舞われたことで、予選も決勝も、誰もが幾分手探りの状態で臨むことになり、トップドライバーのなかにも、通常よりも多くミスがみられた。
■評価 10/10:最速フェルスタッペンが余裕の勝利
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選1番手/決勝1位
そんななかでもミスに無縁だったのは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)だ。彼は週末全体を支配し、チャンピオンシップのリードを広げ、自分がレッドブルの明確なナンバーワンドライバーであるということを、改めて強く示した。
予選Q3のバンカーラップで、他のドライバーたちに0.5秒の差をつけ、最後のアタックでさらにそこから0.3秒削る余裕があったが、いずれにしてもライバルたちは追いつけないことがはっきりしたため、チームからアタックを中止するよう指示された。決勝はミディアムタイヤでスタート、ソフトを履いた2番グリッドのカルロス・サインツをしっかり抑え込み、そのまま悠々とリードを広げていった。
トラックリミット違反を3度犯し、ブラック&ホワイトフラッグを提示されたものの、その後でレースの最速ラップを記録し、追加1ポイントをつかみ、余裕の勝利を飾った。
■評価 9/10:ペレスと同等の速さを発揮したハミルトン
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選5番手/決勝2位
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選2番手/決勝5位
モナコで素晴らしい走りを見せたルイス・ハミルトン(メルセデス)は、スペインでも最高レベルのパフォーマンスを維持し、今回もチームメイトを寄せ付けなかった。予選Q2ではジョージ・ラッセルとの接触という驚きのインシデントから、幸運にも生き延び、Q3に進出。しかし最後のラップでのミスが響き、フロントロウのチャンスを逃した。週末のなかでハミルトンが犯したミスはこのひとつだけだ。
スタートでノリスの前に出た後、タイヤを労わりながらサインツを追いかけ、フェラーリのピットストップに反応することなく、セカンドスティントで2番手に浮上。フェルスタッペンに挑戦できる可能性はほとんどなかったものの、ハミルトンはプッシュし続けた。彼のベストラップは、フェルスタッペンよりは0.346秒遅かったものの、セルジオ・ペレスとの差はわずか0.01秒だった。これはハミルトンがバルセロナでどれだけ速かったの指標になるだろう。
ホームグランプリをフロントロウからスタートしたカルロス・サインツ(フェラーリ)は、5位という結果では喜べないだろうが、自分自身のパフォーマンスには満足すべきだ。予選上位でミスをしなかったのは、フェルスタッペン、ランド・ノリス、そしてサインツだけだ。だが、サインツは決勝スタート直後のターン1に向けて、もっとリスクを冒すべきだっただろう。フェルスタッペンの方が失うものが大きいという状況を考えて、サインツはトップに立つためにもっとアグレッシブにいってもよかった。そこの部分が減点対象になり、サインツには満点をつけなかった。
SF-23はタイヤのデグラデーションが高く、特にハードタイヤでそれが顕著だったため、サインツがメルセデスのふたりとペレスに対抗するのは無理だった。そのため、彼に可能な最大の結果は5位だったし、チームメイトよりも優れた戦いをしたといえる。
■評価 8/10:ポイントにふさわしい走りをしていた角田
周冠宇(アルファロメオ):予選13番手/決勝9位
角田裕毅(アルファタウリ):予選15番手/決勝12位
周冠宇(アルファロメオ)が、バトルの際に、スチュワードに対して、他のドライバーの違反をアピールしたのは、あまり良いことには思えないが、全体として高い評価に値するパフォーマンスを発揮していたことは確かだ。予選ではチームメイトがQ1落ちする一方で、周はQ2に進出。決勝では見事なスタートでニコ・ヒュルケンベルグを軽々と抜き去り、ポイント獲得を狙える位置につけた。それ以降、すべてのスティントの最初と最後に激しい戦いを繰り広げてポイントをつかみとった。周冠宇が角田裕毅の降格によって追加ポイントを得るべきだったとは思えないが、1ポイントに値する走りをしたのは間違いない。
角田裕毅(アルファタウリ)がペナルティを受けたことに憤慨した人も多いだろう。ターン1で周は自らランオフエリアに避けたが、コース上にとどまることは可能だったはずだ。今回も角田はチームメイトより優れていたものの、予選では1周をうまくまとめることができずに下の順位に終わった。決勝序盤には、スタートを成功させ、いくつか良い動きをして、9番手を争う位置につけた。そのポジションを最後まで維持したが、ペナルティでポイント圏外に落とされ、ふさわしい結果を持ち帰ることができなかった。
■評価 7/10:予選でチームメイトと接触したラッセル
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選12番手/決勝3位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選7番手/決勝8位
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選6番手/決勝6位
ジョージ・ラッセル(メルセデス)は、予選では悲惨だったものの、決勝で見事に挽回した。12番グリッドからスタートし、ターン1のランオフエリアを利用したこともあって、1周目に大きく順位を上げた。それから一歩ずつ上位へと近づいていき、ハミルトンの後ろまで追いつき、表彰台に上った。ただ、ラッセルの予選はチームと自分自身を失望させるものだった。Q2ではタイヤにうまく熱を入れることができず、良いラップを刻めなかった。さらに、チームのコミュニケーション不足によって、ラッセルはストレートでハミルトンと接触したのだ。
モナコで見事に表彰台を獲得したエステバン・オコン(アルピーヌ)は、スペインでも堅実な週末を過ごした。ただ、予選ではピエール・ガスリーにかなわず、完璧とはいえなかった。そのため、決勝でランス・ストロールの後ろからスタートすることになり、また、タイヤマネジメントがうまくいかなかったことで、8位が精いっぱいだった。フェルナンド・アロンソに対するディフェンスは規則違反に問われなかったが、ぎりぎりのものだった。
ランス・ストロール(アストンマーティン)は今回初めて、アロンソに予選でも決勝でも勝つことができた。ただ、予選に関しては、アロンソがQ1でマシンにダメージを負ったためといっていいだろう。ストロールのマシンには、2番手が可能なポテンシャルがあったが、結果は6番手。レースではラッセルとペレスを後ろにとどめることができなかった。ガスリーがグリッド降格されたことと、ノリスが1コーナーのインシデントで後退したことにより、ストロールは決勝でも6位を獲得。これは堅実な結果ではあるが、アストンマーティンがコンストラクターズ選手権で2位を維持するために十分なものではなかった。
■評価 6/10:アロンソが母国で珍しくミス
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選9番手/決勝7位
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選11番手/決勝4位
ランド・ノリス(マクラーレン):予選3番手/決勝17位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選4番手/決勝10位
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選10番手/決勝13位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選8番手/決勝15位
ニック・デ・フリース(アルファタウリ):予選14番手/決勝14位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選18番手/決勝16位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、ホームグランプリの予選Q1の序盤に珍しくミスを犯し、それが日曜のレースにまで影響した。2番グリッドに楽に手が届いたと思われるが、AMR23のフロアを破損させたことで、予選9番手に終わった。レースでは、タイヤに良い感触を持つことができず、序盤は守りのレースをしなければならなかった。最後のタイヤセットで速さを取り戻し、いくつか順位を上げることができたが、チームメイトの後ろに追いついた後は、「そもそも予選でマシンを壊した僕が悪かった」と、オーバーテイクしないことを選び、最後の約10周、ポジションキープで走った。
低調だったモナコに続き、セルジオ・ペレス(レッドブル)は、スペインでも忘れてしまいたい週末を過ごした。少なくとも4位を獲得したとはいえ、優勝したチームメイトから約36秒遅れてのフィニッシュとなったのだ。
予選Q2序盤でのミスによりプレッシャーにさらされたペレスは、その後、良いラップをまとめることができずに、Q3進出を逃した。決勝はラッセルより前のグリッドからスタートしながら、メルセデス2台の後ろでレースを終えることになった。この結果から、ペレスのレースペースが特に優れていなかったことは明らかだ。
ランド・ノリス(マクラーレン)が、スタート直後の1コーナーでルーキーのようなミスをしたのは残念だった。フェルスタッペンの動きに気付かず、ハミルトンに追突、後方のグループに影響を与えた。予選でのノリスは最高のパフォーマンスを発揮し、マシンの力以上のグリッドをつかみ、不安定なコンディションでの強さを改めて示した。決勝1周目のインシデントにより、マシン修復のためピットインしなければならず、後方を走行。最終スティントでペースが向上し、3台をオーバーテイクした。
ピエール・ガスリー(アルピーヌ)にとって予選のパフォーマンスは週末のハイライトだったが、それを生かすことができなかった。素晴らしい予選ラップで、2番手からわずか0.082秒差の4番手を獲得。しかし予選中にフェルスタッペンとサインツ相手に妨害行為を行ったことで、ふたつのペナルティを受け、グリッドを降格された。ペナルティポイント上、出場停止に近い状態であるにもかかわらず、ガスリーは周囲で起きていることに十分な注意を払っていない。他者妨害についてはチームに責任の一端はあるものの、レーシングライン上でスロー走行しているときにはミラーをもっとしっかり確認するべきだ。決勝ではスタートで出遅れてさらにポジションを落とし、11位フィニッシュにとどまったが、角田のペナルティによりポイント圏内に繰り上がった。
オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、予選で自己最高の結果を出せる可能性があったが、路面が湿っていたターン10でミスをし、ワイドになったことで、3列目グリッドをつかむことができなかった。レースでは、ストレートで遅いマクラーレンで戦わなければならず、ペース不足のため13位に終わった。
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は、予選Q3に進出するという素晴らしい仕事をした。しかし、彼自身、決勝で苦労することは予想していた。実際に、マシンのペースがよくなく、タイヤのデグラデーションが非常に高いことが、ポイント争いのチャンスを奪った。ターン1に向けて何度か素晴らしい動きを見せたものの、ヒュルケンベルグは最終的に15位どまりとなった。
ニック・デ・フリース(アルファタウリ)は、予選Q1において、ターン10で2回スピンしたことで、Q2を新品タイヤなしに戦わなければならなかったが、それでもチームメイトを破った。決勝では1周目がうまくいかなかったことから、ポイント争いから脱落、14位に終わった。
バルセロナはウイリアムズとの相性が良くないサーキットだったが、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は、ベストを尽くしたといえよう。決勝では何度か闘争心あふれる動きを見せ、10チーム中最も遅いマシンに乗りながら、16位という、マシンの本来の力以上の結果を出した。
■評価 5/10:ボッタス、土曜の低迷から最後まで抜け出せず
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選16番手/決勝19位
金曜日に輝きを見せたバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)だが、その後は厳しい週末となった。FP3では誤ったセットアップの影響を受け、予選Q1の最初のラップでスピンを喫した。このラップをうまくまとめていれば、楽にQ2に進出できたはずだった。決勝では、1周目にノリスのクラッシュによるデブリを踏んだことで、ポジションを上げるチャンスが奪われた。ダメージを負ったフロアで後方を走り続けるしかなくなったのだ。
■評価 4/10:精彩を欠いたルクレール
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選19番手/決勝11位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選17番手/決勝18位
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選20番手/決勝20位
シャルル・ルクレール(フェラーリ)の採点については迷ったが、土曜日に彼のSF-23の何かが壊れていたのだと判断せざるを得ない。それほど彼はペースを失っていた。バルセロナでサインツよりも0.668秒も遅いという事態が、トラブルなしに起こるはずがない。ただ、週末の初めからいくぶん不調に見え、士気が低下しているように思えたのは確かだ。レースでは、最初のスティントでは苦戦した後、改善していったが、入賞に一歩及ばなかった。
今回もケビン・マグヌッセン(ハース)は予選でチームメイトほどのペースを発揮することができなかった。ヒュルケンベルグはQ3に進んだのに対し、マグヌッセンはQ1で敗退したのだ。レースでも状況は好転せず、ポジションを守るために見事な戦いを見せたが、18位にとどまった。
ローガン・サージェント(ウイリアムズ)は、予選でも決勝でも最下位だった。予選ではチームメイトとの差は0.6秒にもおよび、レースではタイヤの消耗が早すぎて、ポジションを上げることができずに終わった。彼にとって、シーズンここまでで、最も低調な週末だった。
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