重大事故の連鎖で挙がった“GT500廃止論”には反対。DTMの二の舞は避けるべき:英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記

 

 スーパーGTではここ2シーズン大きなアクシデントが続いていますが、先月のSUGO戦で起きたホンダ陣営のスター選手である山本尚貴の事故は、特にシリアスなものでした。首にダメージを負った山本は今シーズンの残りレースの欠場が決定。彼が回復し、来シーズンの開幕時に再びGT500マシンに乗れることを心から祈っています。 山本のクラッシュを受けて、ソーシャルメディア上ではさまざまな意見が飛び交いました。その中には、スピードの低減を望む意見や、サーキットによってはGT300クラスとの混走をやめるべきという意見、中にはGT500クラス自体をGT3車両に置き換えるべきだという声も多くありました。 今回のような大きな事故が起きると、そのような声があがるのも理解できます。しかし個人的には、GT500クラスを廃止するという案は先見性に欠けると感じますし、最終的にはスーパーGT自体を崩壊に招く可能性があると考えています。 GT500でレースを戦ったことがある外国人ドライバーに、スーパーGTのどこに魅力を感じたのかと尋ねれば、誰もが同じような回答をするでしょう。タイヤやサーキット、ファン、そして何よりマシンだと。GT500は世界中のいわゆる“箱車”の中で最速であり、ル・マン・ハイパーカーをも凌駕する速さを誇っています。これは魅力であり、だからこそこの選手権は尊敬され知名度があるのです。 コロナ禍以降、GT500に参戦する外国人ドライバーの数は減ってしまいましたが、強力な外国人がやってくることはレベルの底上げにもなります。彼らの存在は、スーパーGTに通常の“国内選手権”にはない特別感を与え、ドライバーが今後WECなどの世界選手権で戦う上でも有効になるでしょう。 かつてはDTMもそれと同様で、2020年まではスーパーGTと同じClass1規定のマシンを使用していました。2000年代半ばから2010年代初頭にかけての“黄金期”には、DTMはその技術レベルやドライバーの質がF1に次ぐレベルだと言われていました。そのため、何人かのドライバーがDTMを経てF1にステップアップするというケースさえありました。 悲しいかな、それは長くは続きませんでした。ドイツの“ビッグ3”のメーカーによる政治的な対立がDTMを崩壊に導いてしまいました。アウディとBMWはターボエンジンへの切り替えを望んだ一方で(ターボエンジン化はClass1導入の2019年にようやく採用)、メルセデスは2017年に撤退を表明するまで自然吸気エンジンの継続を強く望んでいました。 アウディは2020年にDTM撤退を決め、プロモーターのITRにシリーズのGT3車両への切り替えを迫りました。GT3化となった最初のシーズンである2021年はアレクサンダー・アルボンの活躍でまずまずの注目を集めたものの、それ以降はファンからの関心も薄れ、その過程でITRは破産しています。現在シリーズはADACによって運営されており、かつてのような特別感はなくなり、むしろ“ドイツGT選手権”のような印象が色濃くなっています。 昔からの大物ドライバーはまだ何人か残っていますが、DTM参戦を熱望するようなドライバーがいなくなってしまっているのが実情です。DTMでレースをしているのは、メーカーから命じられたドライバーか、自らお金を払うペイドライバーのどちらかです。もしスーパーGTが同じような状況となれば、移動にかかるコストや賞金額を考えれば、有力な外国人ドライバーの選択肢として外れてしまうでしょう。 また、GT3車両によるシリーズとすることは現実的ではありません。トヨタは新しいGT3車両を開発しているとみられますが、ホンダNSX …読み続ける

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