【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回後編】無理な追い抜きに大クラッシュ。プレッシャーのかかる状況でもがくミック

 

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。2連戦で迎えた第7戦は、伝統のモナコGP。持ち込みのセットアップは非常にいい状態で、その後の仕様変更もうまく機能したハースだったが、レースではミック・シューマッハーが大きなクラッシュ。プレッシャーのかかる状況で結果を出せないという状況は変わらず、さらにはいいペースで走っていたケビン・マグヌッセンもトラブルでリタイアに終わり、ハースは獲れたはずのポイントを逃がし続けている状況だ。それでも明るい材料はあると小松エンジニアは言う。

 コラム第7回は、前編・後編の2本立てでお届け。後編となる今回は、モナコGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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2022年F1第7戦モナコGP
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝DNF
#20 ケビン・マグヌッセン 予選13番手/決勝DNF

 モナコでは決勝レースの24周目にミックの大きなクラッシュがありましたが、幸いなことにミック自身に大きなケガはありませんでした。クルマは真っ二つになったものの、クルマがバリアにぶつかる前にスピードが落ちていたこともあって、サウジアラビアGPでのクラッシュの時ほどダメージはありません。シャシーも基本的には大丈夫で、大きな修理もしなくてすみました。

 とはいえギヤボックス、フロアやフロントウイングなどのボディワーク、ラジエーターダクトなどは交換が必要です。ただ今のところエンジンは無事なので、次のアゼルバイジャンGPのフリー走行で確認して、大丈夫であればそのまま土曜日以降も使う予定です。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP プールサイドシケインでクラッシュしたミック・シューマッハー(ハース)

 このクラッシュの前に、ミックはターン5でアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)と接触してフロントウイングを交換し、最後尾まで順位を落としていました。ミックはブレーキングでアウト側から抜きにかかりましたが、コーナー進入時にアルボンにスペースを残していなかったのです。この時ミックは「アルボンが突っ込んできていた」と無線で言っていました。しかし僕から見れば、アルボンの内側にはスペースがないので彼にはどこにも行き場がないのに、どうしてそんなところでターンインしたのか、という感じです。

 アルボンはそれ以前にシケインをカットしていて、後ろにいたミックはフラストレーションが溜まっていました。アルボンはこの件で5秒のタイムペナルティを受けましたが、やはりミックのこの対応はダメだったと思います。マイアミGPでセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)と接触した時もそうでしたよね。あの時はミックがイン側にいてベッテルの動きが見えていたのに、それでもクラッシュしたわけですから。マイアミでポイントを獲れていれば自信にもなったはずですが、プレッシャーがかかった時に間違った判断をして結果を出せないということが最近繰り返されていると懸念しています。

 課題としている予選一発のアタックもそうです。今回の予選Q1では、まず最初に1分16秒997というタイムを出し、タイヤを冷やしてもう一度アタックする予定でしたが、ミックはそこでミスをしてタイムを出せず。一方でケビンは1回目が1分17秒061、2回目が1分14秒743と2.3秒速くなりました。

 Q1序盤は路面状況がとても悪いので1回目のタイムは参考にはなりませんが、2回目のタイムは、2セット目のタイヤでアタックするためのいいレファレンス(参考)となります。つまり2回目のアタックでタイムを出せなかったミックは、刻々と路面の状態が変わる状況下で、2セット目のタイヤでアタックする際にレファレンスがないということです。

 ケビンが2セット目のタイヤで出した1分13秒069というのも特別にいいタイムというわけではないですが、きちんと段階を踏んできているので出せるタイムです。比べてミックはケビンのコンマ4秒落ちの1分13秒469でした。また1セット目のタイヤでタイムを出せず、レファレンスがないまま次のタイヤでアタックするというミックの流れは、次のQ2でも同じで、その結果予選は15番手となってしまいました。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP ミック・シューマッハー(ハース)

 ちなみに今回のクラッシュのせいで今後フランスGPで予定しているアップグレードが遅れるなどの影響は今のところありません。それよりも問題なのは、アップグレードされたパーツというのは今使っているものとは全然違うので、今使っているスペックのパーツは今後製造する予定がないのです。ということは、次のアゼルバイジャンGPからフランスGPまでの4戦の間にパーツを壊してしまうと、どんどんスペアが無くなり、極端に言えば、レースできない状況にもなりかねません。

 このようにカツカツの状況だとすべての面で運営が厳しくなり、パフォーマンスにも影響が及び、考えなくてもいいことまで考えないといけない状況になってしまうのです。ですからあのような比較的大きいクラッシュというのはその時だけでなく、その後何戦にも影響が出てきてしまうのです。

■好ペースで走行中のケビンにMGU-Kトラブル発生。獲れるはずのポイントを逃した3レース

 ケビンのレースを振り返っていこうと思います。スタートはフルウエットタイヤでしたが、路面が乾き始めていたので、1台はインターミディエイトタイヤに交換しようと考えていました(最初にインターに履き替えたピエール・ガスリーのタイムがよかったので、それも参考に)。後ろにいたミックを先にピットに入れてインターに交換し、ケビンはそのまま走り続けました。

 ガスリーは周冠宇(アルファロメオ)、ダニエル・リカルド(マクラーレン)などを抜いて瞬く間にケビンに追いついて、ピットストップのロスをを取り返していました。このままだとケビンも追い抜かれるかもしれないと思っていたのですが、よくディフェンスしてくれましたね。18周目にはドライタイヤに交換できそうだと伝えてくれたのですが、このタイミングだとトラフィックの後ろでコースに戻ることになるので、もう少し後ろの状況を見てからピットに呼ぼうと考えていました。

 ですがその前にMGU-Kのトラブルが発生し、ケビンから「パワーがなくなった」と報告があり、フェラーリのスタッフも「MGU-Kの冷却水の圧力がなくなった」と。結局どうにも解決できずリタイアとなりました。モナコなので追い抜くことはできなかったものの、ケビンは前を走っていたバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)に余裕でついていけており、ドライタイヤへの交換のタイミングで抜こうとしていたところだったので非常に残念です。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 ちなみにミックはインターに交換した後、最初は悪くなかったのですが、前にいたベッテルに途中からついていけなくなりました。今年のクルマでモナコを走ってアストンマーティンより遅いとは思わないので、このインターでのタイムは反省点です。タラレバですが、もしここでベッテルについていくことができていれば、フルウエットからドライに履き替えたアルボンはミックの後ろでコースに戻っていて、接触することもなかったはずでした。

 僕のなかでは、この3レースは獲るべきところでポイントを獲れていないのでとてもフラストレーションが溜まります。マイアミはダブル入賞のはずでしたし、スペインはケビンのスタート直後の接触がなければ入賞は可能でした。VF-22にはトップ10に入れる速さがあるので、ケビンはこの3戦で、そしてミックは少なくともマイアミでポイントを獲るべきでした。コンストラクターズ選手権でも他チームとの差が広がってしまっています。

 ただこの週末の明るい材料としては、シミュレーショングループやビークルパフォーマンスグループ、タイヤグループなどがレース週末の前に行う準備の結果がよかったことです。それを反映させた持ち込みのセットアップはよかったですし、彼らのサポートのお陰でFP1からFP2にかけてのセットアップ変更や金曜の夜の変更もうまくいきました。ケビンも「どんどんクルマがよくなっている」と言っていました。

 もちろんモナコは路面の改善が早く変化も大きいし、ドライバーもそれに慣れていくので、『慣れ』と『路面の変化』と『セットアップ変更』のどれが一番効いたかというのはわかりづらいですが、今持っているものでベストを出すという点ではチームはよくやってくれたと思います。前回のコラムで書いた通り、マイアミで投入したアップグレードは大きなものではありませんでしたが、最大限に実力を引き出せていると評価しています。

ケビン・マグヌッセン&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP ケビン・マグヌッセン&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)
シモーネ・レスタ(ハース テクニカルディレクター)&ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第7戦モナコGP シモーネ・レスタ(ハース テクニカルディレクター)&ミック・シューマッハー(ハース)

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