【未来のF1ドライバー候補紹介(1)デ・フリース】メルセデスが厚遇する“真面目すぎる”27歳。2023年のデビューなるか
2022年の新たな規則により、各チームはシーズンに最低2回、F1昇格を狙うドライバーを金曜プラクティスで起用することとなった。これは、テストの機会が非常に限られる状況のなかで、若手ドライバーにF1マシンに乗るチャンスを与えるために、F1が導入した規定だ。FP1ドライバーとして選ばれた彼らはどのようなキャリアをたどってきたのか、そしてFP1で実際にどういう走りを見せたのかを、F1ジャーナリストのクリス・メッドランド氏がレポート、各チームが最も期待をかけている若手ドライバーの将来性を探る。第1回は、スペインGPでウイリアムズ、フランスGPではメルセデスでFP1を走ったニック・デ・フリースに焦点を当てた。
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2019年にFIA F2選手権でタイトルを獲得、2020/2021シーズンのフォーミュラEでチャンピオンになったニック・デ・フリースだが、F1チームとの関わりを保ちながらキャリアを進めてきたにもかかわらず、27歳の今、まだF1デビューのチャンスをつかめずにいる。
彼はかつてマクラーレンの若手ドライバー育成プログラムの一員であり、2019/2020シーズンから3年にわたってメルセデスからフォーミュラEに参戦、メルセデスF1チームのリザーブドライバーも務めている。
デ・フリースはゴーカート時代に鮮烈な印象を残して2010年にマクラーレンの若手プログラムのメンバーとなった。フォーミュラ・ルノー2.0で3年を過ごすなかで2014年にタイトルを獲得し、フォーミュラ・ルノー3.5では初シーズンでランキング3位。翌年にはGP3に昇格し、シャルル・ルクレールとアレクサンダー・アルボンがタイトルを争ったこの年に2勝を挙げてランキング6位となり、翌年にF2にステップアップした。
ここまでは順調にキャリアを進めてきたが、F2のデビューイヤーはシーズン途中でのチーム変更もあり、1勝を挙げるにとどまった。そしてF2での2シーズン目も、思いどおりにはいかなかった。
2018年、プレマから参戦したデ・フリースはチャンピオン候補とみなされていたが、ジョージ・ラッセル、ランド・ノリス、アルボンに敗れてランキング4位どまり。ライバル3人は2019年にF1にデビューしたが、デ・フリースにはチャンスがなく、彼はマクラーレンを離れてメルセデス陣営に移り、翌年、F2参戦3年目にしてタイトルを手にした。
その2019年、ランキング首位のデ・フリースと2位ニコラス・ラティフィとの差は52点にもおよんだが、ラティフィが翌年ウイリアムズからF1にデビューしたのに対し、デ・フリースはF1でのチャンスがなく、フォーミュラEに活動の場を求めることになった。
メルセデス傘下でフォーミュラEに参戦するとともにF1のリザーブドライバーに就任し、悲願のデビューを狙い続けているデ・フリースに、2021年の夏、ようやくチャンスが訪れたかのようにみえた。キミ・ライコネンが引退を決め、ラッセルがメルセデスとの契約を結ぶなど、ドライバーマーケットに動きがあり、F1シートに空席ができた。そのひとつはメルセデスのパワーユニット(PU)を搭載するウイリアムズだったのだ。
メルセデスのボス、トト・ウォルフは、デ・フリースをウイリアムズに送り込むことを強く望んでいた。ところがメルセデスからの独立性を強調したいウイリアムズ代表ヨースト・カピートは、レッドブル傘下のアルボンを選び、またしてもデ・フリースはF1デビューを実現することができなかった。
■「常に目標を見失わず、向上を目指しているドライバー」とメルセデスは高く評価
2022年、彼はFP1のルーキーテストの機会を活用して、自身の能力をアピールしようとしている。スペインではまず、ウイリアムズのアルボンのマシンに乗った。デ・フリースはいきなりラティフィより速いラップタイムをたたき出すと同時に、ドライバーとしてのアプローチやフィードバックの面で、チームに良い印象を与えた。
この時、優れたパフォーマンスを見せたことで、メルセデスのボスも自身のチームでデ・フリースを走らせることを決めた。そうしてフランスGPでデ・フリースはルイス・ハミルトンのマシンに乗ることとなった。ウイリアムズに乗った時よりもさらにプレッシャーが高まった状態で、デ・フリースはまたしても堅実な走りを見せた。
「素晴らしいのは、彼は優先事項をちゃんと理解していることだ」とメルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクターであるアンドリュー・ショブリンは、デ・フリースのFP1走行について語った。
「第一は、ミスを犯さず、クラッシュをしないこと。第二は、テストプログラムに集中し、チームが必要としている項目について学び取ること。第三は、速く走ることを気にかけることだ」
「彼は第一と第二をいとも簡単にこなし、第三の点についてもしっかりやってのけた。つまり彼には速さがあったし、我々が望んだ仕事に取り組む上で非常に役に立ってくれた。彼は常に『自分はどうすればもっと良くなるのだろう』と考えている。『学習するには何が必要なのだろう』と常に考えているのだ。F1の経験が少ないにもかかわらず、非常に熟練した仕事ぶりだった。彼はマシンに乗るたびに、印象的な走りを見せてくれる」
デ・フリースには、F1で成功できる能力があり、そのためのアプローチも確立している。何か足りない部分があるかどうかを考えると、ルクレールがF2時代に言った言葉を思い出す。「彼は真面目すぎるんだよ。時にはレースから離れる必要があるんじゃないかな」。
シーズン後半、デ・フリースは再びメルセデスのマシンに乗る機会を与えられるかもしれない。それによって、2023年に向けて今度こそチャンスをつかめるかどうか、注目していきたい。
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