【鈴鹿F1優勝偉人伝/8&番外編】鈴鹿といえばやっぱりこの人、アイルトン・セナ。そして0勝の大物たち
鈴鹿サーキットでのF1日本GPといえば、やっぱり“最象徴人物”はこの人だろう。アイルトン・セナだ。永遠のF1ヒーローは1988年と1993年の2度、鈴鹿で勝っているが、彼の場合、より印象に残るレースは勝った年やタイトルを決めた年以外にある──。
(※本企画における記録等はすべて、それぞれの記事の掲載開始日時点のものとなる)
■1988年、1993年ウイナー:アイルトン・セナ
セナの鈴鹿での輝きぶりを記すならば、勝利数よりも、マクラーレン・ホンダ時代に集中する彼の全3回の戴冠(1988年、1990年、1991年)、その決定地がすべて鈴鹿だった、という事実の方が重要だろう。
1988年はスタートで大きく出遅れてからの逆転優勝で、同じくマクラーレン・ホンダのアラン・プロストとの同門対決を制しての初タイトル獲得が決定。1990年はプロスト(フェラーリ)とのスタート直後の1コーナーでの接触により2度目の王座が決定。1991年はタイトルを争うナイジェル・マンセル(ウイリアムズ・ルノー)のコースアウト、リタイアによってセナ3度目のチャンピオンが決まっている。
鈴鹿でのセナの優勝は2回。上述の1988年に加えて1993年にも勝っている(この年はマクラーレン・フォード)。ただ、“セナの鈴鹿”といえば、やはり圧倒的に1989年だ。勝ってもいないし、タイトルも獲れていない年だが、ここ一択だと(筆者は)考える。
1989年F1日本GPの凄さは、当時現場にいた者にしか分からないかもしれない。私事で恐縮だが、筆者は2コーナーとS字区間のあいだに広がっていた当時の自由席エリアに予選日の夜から泊まりこんで決勝レースを見た。観客として見ていただけだが、あのレースの現場にいたことは生涯の誇りである。
2年連続となるセナとプロストのマクラーレン・ホンダ同士のタイトル争いは、両者の確執も激化するなか、緊迫し切った状況で“ラスト前”の日本GPを迎えていた。当時の有効得点制の絡みでタイトル決定条件は少々いびつになっており、鈴鹿を含む残り2戦をセナが2連勝すれば逆転自力王座、それ以外の結果ならプロストが王座獲得、という様相だった。
その1989年の日本GPは、予選2番手のプロストがスタートで先行。シーズン中、速さではセナに劣るとされてきたプロストが乾坤一擲ともいえる走りで逃げる。もちろんセナもあきらめない。懸命にプロストを追った。プロストはセナに優勝されなければいい、一方のセナは優勝しなければならない。そして終盤、47周目のシケイン……。
2台が、ぶつかってしまった。
この瞬間を筆者は仮設大型ビジョンで見ていたわけだが、130Rを抜けてから2台が寄り添うように、静かにぶつかるまでのわずかな時間がものすごく長く感じられたことを、33年が経とうとする今も鮮明に覚えている。
プロストはその場でリタイア。しかしセナは執念でコース復帰を果たす。そして、彼が壊れたフロントノーズを交換している間に首位へと躍り出たアレッサンドロ・ナニーニ(ベネトン・フォード)を抜いて、トップでチェッカーを受けたのである(ナニーニをシケインで抜いたのがセナの真骨頂か)。
“ウイニングラン”でのセナは泣いているようにも見えた。セナのファンが多い観客席が“セナの勝利”に大いに沸いたことは言うまでもない(余談だが筆者は当時、日本では少数派のプロストファンだった)。
さて、(少なくとも筆者の周辺の)観客席はセナ失格の可能性をチェッカーフラッグが振られてしばらく時間が経過するまで認識していなかった。なかなか表彰式が始まらず、場内放送で「セナ失格の可能性あり」という情報がもたらされて、初めて気がついたのである。
プロストとの接触後にシケインを通らずにコース復帰した、あるいはオフィシャルにマシンを押してもらった、当時も事後もいろいろと言われ、今となっては真偽不明な部分もあるが、とにかくセナは失格になった。そして表彰台の中央にはナニーニが上がる。レースが終わっても、ドラマは続いていたのだーー。
凄いレースだった(誰を応援しているかなど関係なく)。
アイルトン・セナという巨星がその輝きをいよいよ強めつつあったこのころ、いろいろな思惑が入り乱れて、1989年10月22日の鈴鹿サーキットに壮大すぎるドラマの展開を呼んだ。これこそが、セナの凄さを最も象徴する一戦であったと考える。
モータースポーツ史上最高の一戦だった、そう言っても過言ではないように思う。
■番外編。鈴鹿0勝の大物、プロストにマンセル、そして……
セナが鈴鹿で存在感を発揮していた時代、その裏でまさかの鈴鹿0勝に終わった大物がふたりいた。オールドファンなら容易に想像がつくふたりだと思うが……。鈴鹿F1優勝偉人伝“番外編”として鈴鹿0勝の大物たちにも触れよう。
手元調べで、F1通算20勝以上の17人中、鈴鹿での日本GPに出走経験がある者は13人、そのうち鈴鹿0勝は3人だ。顔ぶれは以下のとおり。
・アラン・プロスト(通算51勝)
・ナイジェル・マンセル(同31勝)
・マックス・フェルスタッペン(同30勝/2022年オランダGP終了時点)
現役のフェルスタッペンに関しては2022年の日本GPを含めてこれから大いにチャンスがありそうだが、プロストとマンセルはそれなりの回数、鈴鹿F1に戦闘力あるマシンで出走していながら、ついに勝てなかった。
セナのライバルであった彼らの場合、チャンピオン争いの土壇場、いや修羅場ゆえに“いろいろと”ドラマフルな展開もあって鈴鹿0勝に終わった、と評すべきだろう。実際、勝っていてもいい状況は多々あった。
1987年、初の鈴鹿開催となったF1日本GP。マンセルは、当時のウイリアムズ・ホンダで同僚だったネルソン・ピケとのタイトル争いに逆転の可能性を残していたが、予選でクラッシュして決勝負傷欠場に。この時点でピケの王座が決まるという衝撃的な鈴鹿初回開催だった。
1988年からはセナとプロストの王座争いが続く。1988年は前述のようにセナが優勝(プロスト2位)、マクラーレン・ホンダ同門対決を制して自身初のチャンピオンに輝いた。翌1989年、そしてプロストがフェラーリに移籍した1990年は、ともに鈴鹿での両者接触で事実上の決着がつくという格好になっている。プロストは2年連続リタイア。
この3年間、プロストが鈴鹿で3連勝していてもおかしくはなかっただろう。3年とも予選は2番手。思えばその前、1987年もプロスト(マクラーレンTAGポルシェ)は予選2番手につけており、レース序盤のデブリ起因とされるパンクがなければ、勝ったゲルハルト・ベルガー(フェラーリ)と優勝争いをしていた可能性はあったはずだ。つまり、プロストは4年連続で予選2番手から勝機を逸していたことになる。
1990年は“セナプロ”やベルガー(マクラーレン・ホンダ)の早期戦線離脱によってマンセル(フェラーリ)が優勝確実と思われる形勢になったが、タイヤ交換してピットアウトする際にドライブシャフト破損でリタイア、という状況も発生していた(気負い過ぎ?)。
1991年はセナ(マクラーレン・ホンダ)とマンセル(ウイリアムズ・ルノー)の戦いになり、マンセルのコースアウト、リタイアでセナの王座が決まる。
翌1992年もウイリアムズ・ルノーで走ったマンセルは悲願の初王座を独走でゲット。その後に日本GPを迎え、鈴鹿初ポールを獲るが、レースでは僚友リカルド・パトレーゼを先頭に出してやるなどした末に、マシントラブルでリタイアした(この年の鈴鹿ではマンセルは自分が勝つ気はなかったわけだが)。
1993年はプロスト(ウイリアムズ・ルノー)の引退と王座獲得が決まってからの日本GPだった。プロストは鈴鹿初ポールを獲ったものの、レースでは天候の変化も味方にセナ(マクラーレン・フォード)が勝利。
1994年、ウイリアムズ・ルノーに移籍したセナが5月1日に亡くなったこの年の日本GPでは、セナの代走を務めたマンセルが4位。マンセルは鈴鹿に(決勝不出走の1987年を含めて)7回参戦して、決勝最高がこのときの4位である。しかも唯一の完走という……。
プロストも鈴鹿では6回走って優勝なし、決勝最高成績は2回の2位だった(ともに優勝はセナ)。
どうも鈴鹿の勝利の女神は当時、ブラジル勢の味方をしていたようだ。セナのみならず、ピケも1987年の王座決定に1990年の優勝と、鈴鹿でけっこういいところをもっていっている。なぜか欧州勢のプロスト、マンセルはバッドラック続きだった。
続いて、チャンピオン獲得経験と鈴鹿F1出走経験の両方がある者のうち、、チャンピオンになる以前/以後を問わず鈴鹿で1度も勝っていないドライバー、という条件に照らすと、プロスト&マンセル&フェルスタッペン以外にもひとり、該当例が出てきた。
1997年王者ジャック・ビルヌーブである。
ただ、ビルヌーブには実質的なチャンスが少なかった。彼が真っ向から優勝を狙えるマシンに乗っていたのはルノーのワークスエンジンを積むウイリアムズに乗っていた1996~1997年の2年だけと考えられるからだ(彼のF1全11勝はこの2年間のもの)。
その1996~1997年、鈴鹿でのビルヌーブは、1996年はタイヤが外れてしまう不運に見舞われてリタイア、1997年はフリー走行での黄旗無視に関連して“失格前提”での決勝出走になるという厳しい状況で、ほとんど勝ちようがなかった(1996年はスタート失敗もあったが)。
こうして見てくると、鈴鹿F1ウイナーの称号を得るのは簡単でないことが分かる。16人の勝者、その栄誉を(改めて)称えたい。
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