【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】大雨の鈴鹿で「すべてが後手に回った」判断の遅れが影響、入賞圏内に留まれず
2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。新型コロナウイルスの影響により、日本GPの開催は3年ぶりとなった。ようやく母国レースを迎えた小松エンジニアだったが、日曜日のレースでは「すべてが後手に回った」と振り返る。大雨に見舞われた鈴鹿で一体何があったのか。日本GPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2022年F1第18戦日本GP
#47 ミック・シューマッハー 予選15番手/決勝18位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選18番手/決勝14位
3年ぶりの日本GPで、ようやく鈴鹿に行くことができました。僕は水曜日にサーキット入りしたのですが、その時点ですでにガレージの前のグランドスタンドにはハースのバナーがあったり、金曜日にイベントでステージに上がった時にはハースのユニフォームを着ている方や、僕の名前が書いてあるバナーを持っている方がいて、本当にありがたかったです。
それだけに、日曜日にあんなにひどいレースをしてしまい申し訳ないと思っています。リスタート後にケビンをピットに入れるのが遅れるなど、すべてが後手に回ってしまいました。
振り返ってみると、長い中断を挟んでローリングスタートでレースを再開した時、視界は最悪だったものの、路面状況はそれほど悪くないとドライバーからフィードバックを受けていました。ですので、結論から言うとセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)やニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)のように5周目にピットに入ってフルウエットタイヤからインターミディエイトタイヤに履き替えるのが正解だったのです。
話は前後しますが、金曜日にウエットコンディションでフリー走行を走った際に、フルウエットでは遅すぎるとわかっていたので、日曜日のレースが雨になった場合は必ずインターで走ることになると考えていました。実際にその通りで、最初のスタート時には全員がインターを履いていましたよね。鈴鹿ではあんなに水の量が多くても、インターがよく機能するんです。
ただレギュレーションが少し曖昧で、ローリングスタートの時にピットに入ってタイヤを変えるられるかどうかがはっきりしていなかったので、チームマネージャーを通してFIAに問い合わせました。規則では「ローリングスタートになった場合は、スタートするべき(should)」と書かれているので、ピットに入っていいのかどうかについては曖昧です。この件についてはっきりしてくれと言うと、「shouldはmustではない」(つまり文字どおりに受け取ればピットインしてもいい)という返事が来ました。
ですがマネージャーたちと話し合い、もしピットインすると他チームからの抗議があるかもしれないので、チームとしてはピットインするべきではない、という結論に達しました。そして、僕がここで納得したのが悪かったです。こんなのは解釈の問題なので、本当にピットインしていいのかどうかを突き詰めてから結論を出すべきでした。これが第1のミスです。
5周目にタイヤ交換を行ったベッテルがけっこういいタイムで走っていたので、うちは少なくとも6周目にまずはケビンをピットインさせるべきでした。前を走っていたのはミックですが、ミックは金曜にクラッシュしていたこともあり、トリッキーなコンディションではケビンを先に入れる方がよかったのです。
ところがその対応も遅れ、実際にケビンをピットインさせたのは7周目でした。僕は普段、戦略担当の人やタイヤ担当の人にいろいろな質問をしてたくさんの情報を得ているのですが、今回は僕からの質問が少なかったせいで彼らから得られる情報も少なくて、瞬時に判断を下せませんでした。なんの言い訳もできません。
7周目にインターに履き替えたケビンは14番手でトラックに戻りました。8周目にはフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)がピットに入りましたが、もしここでミックを入れていたら、彼が入賞圏内でコースに戻ることはできませんでした。だからミックがポイントを獲るためには、一か八かでステイアウトするしかなかったのです(たとえば赤旗が出た場合は順位を維持できるので)。しかしこれはいい意味でのギャンブルではなく、判断が後手に回った結果のギャンブルです。
もちろん7周目にケビンと同時にミックもピットインさせることも考えましたが、その当時は2台の距離が近かったので、2台目の方が損をすることになります。もうこの時点でだめですよね。5周目か6周目にケビンをピットインさせて、少なくとも7周目にはミックのタイヤ交換を行うべきでした。
インターに履き替えたミックはペースがよかったので、そこから怒涛の追い上げを見せてくれました。反対にケビンはペースがなかなか上がりませんでした。ここで僕たちがさらによくなかったのは、もう一度タイヤ交換を行うことを考慮していなかったことです。たとえば周冠宇(アルファロメオ)は2度目のタイヤ交換を行っていて、ペースの悪いケビンを追うバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)に近づいていました。なんとかケビンはボッタスの前でフィニッシュしましたが、もしアルファロメオが周とボッタスの順位を入れ替えていたら、ケビンは周に抜かれていたと思います。
ケビンに関しては、ハンガリーGPあたりからパフォーマンスがよくないなと感じています。もちろんミックがイギリスGPからよくなってきたというのもありますが、それにしても、たとえばシンガポールGPでブラック&オレンジ旗を出されるような走りをするべきではなかったです。もうこれで3回目ですからね。シーズン序盤に心配していた首や体力の問題は克服しましたが、もっと精神的なことかと思っています。今のケビンの走りを見ていると、何か今ひとつ気概に欠けている気がします。
とにかくこういうコンディションでのレースでは、目の前の状況に適したことをやらないといけないし、それが僕が仕事をするうえでのベースラインです。今回はそういう基本ができておらず、どうしてできなかったのか自分のなかでも正直ショックです。すべてが後手に回ってあのようなことになってしまい、もちろんレース後にはミックにもケビンにも謝りました。
そういう意味では、ベッテルはすごかったですよね。予選でも気持ちが入った走りをしていたし、失うものが少なかったとはいえ5周目にピットインするという判断は素晴らしかったと思います。もちろん倒さなければいけないライバルではありますが、一歩引いて見てみると、ベッテルが最後の鈴鹿であの走りを見せてくれてそれが結果に繋がりよかったです。まあ彼が頑張ったのでコンストラクターズ選手権ではアストンマーティンと11点差になってしまいましたが、まだまだ逆できる点差だと思っているので僕たちは最後までランキング7位を目指して戦います。
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