F1技術解説:バーレーンGP(1)車体特性が逆転し、苦しんだフェラーリと強さを増したレッドブル
2023年F1第1戦バーレーンGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。第1回では、開幕戦で苦労したフェラーリと、逆に予選でも決勝でも圧倒的強さを見せたレッドブルの、それぞれのマシン特性に焦点を当てる。
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■マシン特性変更がマイナスに働いたフェラーリ
昨シーズン、レッドブルに圧倒されたマラネロのエンジニアたちは、昨年型マシンF1-75の弱点を修正しようとした。具体的にはダウンフォースを少し失ってでもトップスピードを向上させることを追求したのだ。
こうして新車SF-23は、直線では先代より速くなった(下の写真から、空力効率を上げるため、青矢印のステアリングラックの位置がF1-75より下げられたのがわかる)。しかしコーナーでは絶対的な荷重(ピークダウンフォース)が小さくなるため、苦しくなる。この特性はバーレーンのようなサーキットでは特に不利で、フェラーリはトップスピードの上昇と引き換えにダウンフォースが不足し、決勝レースではリヤタイヤが過度に摩耗してしまった。
予選に比べ、フェラーリのレースペースが過度に遅かったのは、主にこの理由からだ。シャルル・ルクレールいわく、予選より1秒は遅かったという。ちなみに予選でのルクレールは、決勝レースに新品ソフトを温存するため、Q3では1回しかアタックしなかった。なので0秒292というポールポジションのフェルスタッペンとの差は、実際にはもっと縮まっていた可能性が高い。言い換えればSF-23の予選とレースのペース差は、さらに大きいことになる。
一方でバーレーンのコース特性によって、フェラーリSF-23のポテンシャルが十全に発揮されなかったという楽観的な考え方もできる。アスファルトの摩耗が少なく、リヤタイヤへの負担が少ない次戦ジェッダの高速コーナーの方が、より適しているはずだ。今シーズンの優先課題である、信頼性が確保されなければ、それを結果に結びつけることはできないわけだが。
■レッドブルRB19は空力効率の良さで予選でも決勝でも他を圧倒
予選でのGPS解析によれば、直線ではフェラーリの方がレッドブルRB19より速いが、加速性能は後者の方が良い。両チームのマシン特性は、2022年とは正反対になったことがわかった。
ただしRB19は2022年型フェラーリほどドラッグを発生させていない。そのためバーレーンサーキットのような長い直線を備えたストップ&ゴーレイアウトでも、フェラーリに対して大きく不利になることはない。エンジニアがセットアップを正しく行い、レッドブルは予選で非常に速く、レースペースでもライバルたちを圧倒した。
昨年の開幕戦はフェラーリF1-75が、ポールポジションと優勝を奪い取った。しかし今季のレッドブルRB19はどのような速度域でも空気抵抗を大きくせずに、ダウンフォースを発生させることができる。去年型と比較して最も速くなっているマシンはまさにRB19で、2022年のタイムを0秒973凌いだ。これに対しフェラーリは0秒558、メルセデスは0秒708にとどまった。
レッドブルの優位性は、レースでより鮮明だった。RB19は低速域でより多くのダウンフォースを発生させ、そのおかげでリヤタイヤをオーバーヒートさせることなく、スムーズに加速していった。さらにマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスは、フェラーリ、アストンマーティン、メルセデスのドライバーとは異なり、3スティントのうち2スティントをソフトタイヤで走行することができた。
このことは、エイドリアン・ニューウェイが設計したF1マシンが、決勝レースを予想以上に快適に支配していたことを説明する。実際、2回目のピットストップの後、レッドブルのエンジニアはドライバーにエンジン回転数を下げるように指示している。それがなければ二人は1周あたりコンマ8秒、誰よりも速く走ることができたというのが、チーム側の計算だ。
理論的には、ソフトコンパウンドはハードコンパウンドよりも熱劣化しやすい(熱によって構造が弱くなり、トレッドが耐えられなくなり、結果的にグリップが低下する)。しかしRB19は、その強大なダウンフォースのおかげで、ソフトタイヤがハードよりラップタイムが遅くなるタイミングを遅らせることができるのだ。
レッドブルは今後、第4戦アゼルバイジャンGPで、更なるアップデートを投入する予定だ。これだけの圧勝ぶりを示したフェルスタッペンだが、RB19のマシンバランスにはまだ完全に満足はしていない。
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