F1技術解説:レッドブルRB19の圧倒的速さを可能にしたアイデア(1)独創的なフロアとサスペンション
2023年F1で圧倒的強さを誇るレッドブルRB19。その速さをもたらすコンセプトとアイデアを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが分析する(全3回)。
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レッドブルの車体コンセプトで特筆すべきは、「最大限のダウンフォース」ではなく、「どんな状況でも安定したダウンフォースを発生させる」ことに重点を置いたことだ。では具体的に、どんなシステムがそれを可能にしたのか。これから見ていこう。
2023年のF1マシンにおいて、レッドブル、メルセデス、フェラーリの3チームは、基本的に昨年と同じ車体コンセプトを踏襲している。しかしその差は、去年以上に広がっている。今季のRB19は1年前のRB18以上に、メルセデスとフェラーリを支配しているのだ。
まるでミルトン・キーンズの技術者たちは、昨年、最も可能性のある技術思想をすでに見極めていたかのようだ。では彼らは、何を目指しているのか。一言でいえば、「安定した空力性能の発揮」を狙ったということだ。マシンの姿勢がどんなに変化しても、あるレベル以上のダウンフォースを安定して発生させることができるマシン開発に重点を置いた。
■気流を一定に保つためのアンダーフロア形状
それを可能にした要因のひとつ目が、洗練されたフロアデザインである。RB18と同様、空力開発担当者は、ふたつのベンチュリトンネル内の高さや幅を自在に変化させ、さらに中央の“キール”にも膨らみや隆起を持たせた、荒々しい外形を採用した。
これらの複雑な形状の目的は、トンネルの全長にわたって体積を注意深くコントロールすることにある。その結果、車高が変わっても気流をできる限り一定に保てるようになった。
走行中のF1マシンは、加減速やコーナリングの際、姿勢を変化させ続けるダイナミックな物体だ。ピッチング(ブレーキング時の車体前部の沈み込みと、その反動による車体後部の沈み込み)、ローリング(コーナーを曲がる際の車体の傾き)、ヨーイング(車体を真上から見た際の左右旋回挙動)が代表的な挙動変化である。
このように絶え間なく挙動が変化する最中でも、フロア下に空気が素早く、かつ大量に流れるようにすることが、空力開発のカギとなる。これを実現するために昨年型RB18から搭載されているのが、フロントアンチダイブサスペンションとリヤアンチスクワットサスペンションというふたつの独創的なシステムだ。
■欠点もあるが姿勢を維持する役割を果たすサスペンションシステム
レッドブルの開発陣は、ブレーキング時にフロントが沈み込みにくいサスペンションを目指した。そのためRB19のアッパーウィッシュボーンのフロントアームは、リヤアームよりも高い位置でシャシーに取り付けられている。さらにこのふたつの取り付け位置の角度は、約45度とかなり極端だ。ちなみにメルセデスは、15度しかない。
一方でリヤは、加速時に後方に大きく沈み込まないサスペンションを設計した。こちらはフロントサスとは逆に、アッパーウィッシュボーンのリヤアームをフロントアームより高くしている。
ただしこのシステムには、欠点もある。アンチダイブサスペンションはフロントブレーキがロックアップしやすく、ドライバーがブレーキペダルを踏んだ際の感覚にも違和感が出ることが多い。そしてリヤのアンチスクワットサスペンションは、コーナー立ち上がりのトラクションを考えれば、最適解とはいえない。
こうした欠点があるにもかかわらず、レッドブルはこのふたつのデバイスを去年から続けて採用した。空力プラットフォームに安定性をもたらし、ダイブ、ロール、ピッチといったさまざまな姿勢変化時にも、フロア下に安定した気流を流し込めることを優先したのだろう。
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