【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】クルマの実力以上の結果が出たスプリントに満足。入賞で選手権順位もアップ
2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。今シーズン2度目のスプリントが行われたオーストリアで、ハースはVF-23の強みを活かし予選、スプリント・シュートアウトで結果を出した。そしてスプリントでニコ・ヒュルケンベルグが入賞したことで、コンストラクターズ選手権の順位はひとつ上がり7位に。オーストリアGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2023年F1第10戦オーストリアGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選19番手/スプリント14番手/決勝18位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選9番手/スプリント6番手/決勝DNF
オーストリアは今年2度目のスプリントの週末でした。ここのところ予選成績に関してはニコの方が上ですが、FP1ではふたりともコンディションに苦労していたものの、今回ケビンは走り始めから比較的クルマに満足していました。ですから予選に向けたセットアップの変更は微調整に留め、彼のドライビングでタイムを稼ぐことに重点を置きました。
Q1はふたりとも同じプランでしたが、ケビンは1回目のアタックでいい感触を持っており、この段階ではあまり心配はありませんでした。しかし赤旗後の1周目のアタックの際にターン1でマックス・フェルスタッペン(レッドブル)に妨害されたところで歯車が狂いました。このターン1でタイムロスをしたうえに、ターン10ではトラックリミット違反を犯してタイムが無効になりました。
その後タイヤを一度冷やし、最後にもう一度アタックしたのですが、もうタイヤのグリップが落ちていてタイムが出ず19番手でQ1敗退。ターン3でギヤを間違えたとコメントしていたようですが、これはあまりタイムには影響しませんでした。マックスに妨害されたこと(明らかにレーシングラインにいたマックスにペナルティがないのはおかしいです)でリズムを狂わせてしまったことがすべてだと思っています。
土曜午前のスプリント・シュートアウトは、ドライタイヤで走行できたものの、完璧にドライというコンディションではありませんでした。このようなコンディションは今のウチにとってはチャンスで楽しみにしていたので、いい結果を出すことができて嬉しかったです。ケビンは金曜の予選でQ1敗退だったのでソフトの新品タイヤが3セット残っており、これを活かしてSQ3まで残ることができましたが、最後は中古のソフトタイヤでタイムが伸びず10番手。ニコは新品タイヤを予選で使い切っていたのですが、中古タイヤだけで見事にSQ3に進出しました。そして最後のSQ3ではミディアムタイヤをうまく作動させ4番手という素晴らしい結果に繋げることができました。このタイムはトップのマックスと比べてもとてもよかったですし、VF-23の強さを活かせた結果です。
午後のスプリントではドライでグリッドまで行った直後に雨足が強まり、インターミディエイトタイヤでのスタートになりました。序盤は水しぶきがかなり上がるような路面状況でしたが、クルマの状態はよくて、中盤までニコは2番手をキープすることができました。路面が乾いてくると、うちより速いクルマに乗っているセルジオ・ペレス(レッドブル)、カルロス・サインツ(フェラーリ)、ランス・ストロール(アストンマーティン)に抜かれましたが、これはどうしようもありません。
この辺りで路面はかなりドライに近くなっていました。このままインターで走ってもポイント圏外に落ちることは必至でした。5番手といういい位置で走っていたのでプレッシャーも大きかったですが、思い切ってスリックに交換しました。ピットインすれば約20秒ロスするのでこれを残り7周で取り返すためには1周3秒ほど速く走らなければいけません。これができるかどうかはギリギリの線でしたが、路面はドライだったのでこれしかないと思っていきました。
ニコは難しいコンディションのなか、スリックタイヤでよく走ってくれて、終盤はインターで走り続けた前のクルマより4、5秒速かったので、勝負は残り周回数だけでした。最後は4、5番手争いをしていたストロールとフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)のすぐ後ろまで追い上げることができました。狙いどおりのレースができて、今のクルマの実力以上の結果を出せたので、ピットストップ作業を含めてすべての面で満足のいくスプリントでした。
そのスプリントと比べて、完全なドライコンディションでの日曜のレースでは残念ながらやれることはありませんでした。ニコは8番手スタートで、序盤こそアストンマーティンとレースができていましたが、今のクルマで彼らとレースをしながらタイヤを保たせることはできません。ですからピエール・ガスリー(アルピーヌ)に抜かれた時点でピットインすることに決めていました。ピットアウト直後にエンジンが壊れてリタイアとなりましたが、もしこのトラブルがなかったとしても、ポイントを獲るのは難しかったと思っています。
ケビンは予選19番手で失うものもほとんどなかったので、大きくセットアップを変更してピットレーンスタートでレースに望みました。1周目のセーフティカー(SC)でタイヤ交換をすませ、ここからはハード〜ハードの1ストップでポイント獲得を目指しました。バーチャルセーフティカー(VSC)が出て残りのピットストップ回数が他車と同じ1回になったところで12番手につけていたので、この戦略によってなんとか戦える位置までは挽回しました。しかし、やはりVF-23はドライの混戦ではまともに戦えません。結局、大きく順位を落として19位となりました。
以前にも書いたとおり僕たちは予選一発の速さにはこだわっていませんが、これだけ性格の異なるサーキットで速さを発揮できているので、やはり一発の速さはVF-23の強みです。しかし、レースで戦えないということが一番大きな問題です。どの週末でもクルマを作る際になんとかレースで戦えるようにとセットアップを行っているのですが、根本的な問題点が大きいので現場でのセットアップでこれをカバーするには限界があります。開発陣はなんとか解決策を探してくれていますが、簡単ではありません。
それから今回、冗談のように多かったトラックリミット違反ですが、以前から言っているようにまったく透明性がないし、レース終了から何時間も経って結果が変わるという事態は異常としか言えません。これは予選、スプリントシュートアウトでも問題になりました。トラックリミットに違反したら必然的にラップタイムが遅くなるようにコースを改修すべきです。それができないのならば、トラックリミット自体を見直すべきだと考えています。
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