F1アメリカGP技術解説(2)頂点に立ちかけたメルセデスが導入した新フロア
F1アメリカGPで、ルイス・ハミルトンとメルセデスは、マックス・フェルスタッペンとレッドブルに、今までになく僅差まで迫った。F1i.comの技術分野担当ニコラス・カルペンティエルが、メルセデスが持ち込んだアップグレード版フロアについて分析、細部の画像も紹介する。
─────────────
今シーズンのメルセデスが、レッドブルより高い車高で走っているのは明らかな事実だ。特に今季序盤は、その傾向が甚だしかった。しかしその後アップデートを重ね、特にモナコで導入された新たな仕様は、レッドブルの空力コンセプトにかなり寄せたもので、その結果、メルセデスW14の車高もかなり下げられるようになっていった。
そしてアメリカGPで導入された新たなフロアのおかげでさらに車高は下がり、特に高速コーナーでのパフォーマンスを向上させた。とはいえラップタイム自体は、顕著に向上したわけではない(せいぜいコンマ1秒程度のゲインか)。
重要なのはむしろ、来季マシンW15に向けて、ブラックリーのエンジニアたちが正しい方向で作業していることを確認することだった。そして彼らはこの点に関して、かなり大きな手応えを感じたようだ。そしてもうひとつのポイントは、ドライバーが自信を持って攻めていけることだ。こちらはジョージ・ラッセルよりも、ルイス・ハミルトンに好影響を与えているように見える。
上の新旧比較画像でわかるように、フロアエッジは大きな形状変更を受けており、丸みを帯びたエッジは垂直ではなく水平になっており(黄色の矢印と赤の線参照)、さらに下の黄色い線と矢印を見比べて分かるように、ふたつのベンチュリ・トンネルの入り口の上部も高くなっている。この領域でのダウンフォースをより分散させるのが目的で、ハミルトンはマシンの反応がより予測しやすくなったと感じたとコメントしている。
メルセデスがアメリカで設定したかなり低い車高で、ハミルトンはフェルスタッペンを激しく追走した。その結果、フロアに取り付けられたスキッドが、技術規則第3条5.9で認められている限界を超えて摩耗してしまった。
レース後にFIAが検査した4台のうち、ハミルトンのW14とシャルル・ルクレールのSF-23は不適合とされた。一方で、フェルスタッペンのレッドブルRB19とランド・ノリスのマクラーレンMCL60は問題なくテストを通過した。
メルセデスとフェラーリのアメリカGPでの高いパフォーマンスが、低すぎた車高のおかげだったかどうかは不明だ。一方でレース後の車検は、項目によっては全20台に対して行われないとはいえ、万一不正が発覚した場合のダメージが大きすぎるため、彼らが故意に違反を犯したとは考えにくい。スプリントフォーマットではフリー走行は1回のみで、走行不足がエンジニアたちを混乱させたのは間違いない。
「パルクフェルメの前に1時間しか走行時間がないのが、スプリント方式の落とし穴だ」とメルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクターであるアンドリュー・ショブリンは弁明する。
「FP1でレース用の重い燃量を積んで走らなかったこと、バンピーな路面などが、我々の予想以上に摩耗を大きくする要因となった」
確かにそうかもしれない。しかし車検を受けた他のチーム、例えばマクラーレンやレッドブルは、より慎重なアプローチでこの週末に臨んでいた。では完走した車両のうち、車検を受けなかった他の11台は違反していなかったのか。それは永遠にわからない謎である。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです