F1技術解説:第5戦(3)金曜にトップタイムも失速。メルセデスが持ち込んだ3つの空力アップグレード
2022年F1第5戦マイアミGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点などについて解説する。第1回「アップデートなしでフェラーリに勝利。レッドブルRB18が持つふたつのアドバンテージ」、第2回「新ウイングの導入を中止しつつ最高速向上を図ったフェラーリ」に続く第3回では、苦戦し続けるメルセデスが導入したアップデートに焦点を当てる。
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マイアミGPの週末、メルセデスは順調に滑り出したように見えた。金曜日のフリー走行2回目では、ようやく最適な車高に下げられたW13のステアリングを握ったジョージ・ラッセルがトップタイムを記録した。
今回メルセデスは、非常に独創的なフロントウイングを含む多くのアップデートパーツを投入した。下の写真のように、フロントウイング翼端板は後部のフラップが完全に切り離され、フラップ自体も前方に移動してエンドプレート前部に取り付けられている(矢印参照)。このデザインは、現行の技術規則で大幅に削減されているフロントウイングの「アウトウォッシュ」効果を改善するのが目的だ。
さらにメルセデスは今回、空気抵抗をさらに減らす方向のアップデートを行った。この低ドラッグ構造は、マイアミ・インターナショナル・オートドロームの長いストレートに特に適合したものだった。具体的には、よりフラットなリヤウイングとスリムなビームウイングにより、ドラッグ減少が図られた。ただしこれらはあくまでマイアミのサーキットに適応した仕様で、一方で新型フロントウイングは年間の改良計画に沿った正常進化形と言えるものだ。
金曜日の好タイムは、これらの変更によって、メルセデスが開幕以来手こずってきたポーパシングからついに決別できたことを意味するのだろうか。残念ながら実際に運転したラッセルとルイス・ハミルトンによれば、そう断定はできない。50℃以上に達した高い路面温度のおかげでタイヤの温まりに苦労しなかったこと、ダウンフォースを減らしたことでポーパシングが起きにくくなったこと。二人のドライバーは、それが躍進の理由だと分析していた。
そして二日目になると、メルセデスの競争力は完全に消失してしまった。二人は揃ってペースが落ち、ライバルたちに比べ1秒前後遅くなってしまったのだ。不思議なことに、金曜日から土曜日にかけて路面グリップが上がったことで、逆にターン4と5を始めとしてポーパシング現象が復活したとラッセルは言う。
開幕以来のレッドブルやフェラーリのポールポジションタイムと、メルセデスの差は、以下のように推移している。バーレーン+0.541%、ジェッダ+1.025%、メルボルン+1.229%、イモラ+1.289%、マイアミ+0.934%。1%以上だったペース差が、マイアミでは1%以下に縮まった。しかしそれは、ほんのわずかなものだ。
「金曜日には、マシンを適切なウィンドウ内に収め、ポーパシングを制御したことで、本来のマシンパフォーマンスを垣間見ることができた」と、トト・ウォルフ代表は言う。
「我々は依然として、このマシンのコンセプトを信じている。優勝を争うポテンシャルを、この車は間違いなく持っている。しかし我々のフロアは他のマシンよりも大きく露出しているため、極めて繊細なコンセプトであり、適切な運用が非常に難しいのだ」
「とはいえ、まだ降参はしていない。より単純化された解決策に逃げるのは、まだ早い。来季2023年マシンをどうするか、決めなければならない時がいずれ来る。だが、今シーズンをあきらめて来年に集中するのは、技術的なレギュレーションが同じなので意味がない」
「理解は確実に進んでいる。レース週末のたびに、大きな学びを得ているからね。次戦バルセロナでは、さらに有益なデータを収集することができるはずだ。スペインでは(開幕前テストで)ローンチバージョンを走らせた。そのため、そこで得たデータと直接比較ができる」
確かにそうかもしれない。しかしそれはライバルたちにも言えることで、一気に差が縮まると考えるのは楽観的すぎるだろう。もしもシミュレーションのみでしか機能しないコンセプトなのであれば、それは断念すべきではないだろうか。
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