【F1コラム】リカルド、ガスリーはなぜ不振に陥ってしまったのか。F1の世界で待ち受けるスランプへの入口
実力あるドライバーのはずのダニエル・リカルドが不可解な不調に陥り、抜け出せずにいる。彼はなぜ突然スランプにはまったのか、そしていずれ輝きを取り戻すことができるのか──。長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、リカルドをはじめ、ピエール・ガスリー、マクラーレン、アストンマーティンといった、期待どおりのパフォーマンスを発揮できずにいるドライバー/チームを取り上げ、彼らの不振の原因を分析する。
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■リカルドが謎の不調から抜け出せない理由
ひとりのドライバーの実力を判断する場合によく使われるのが、過去を含めたチームメイトとの比較だ。だがその方法が必ずしも正しい結果を導き出すわけではない。ドライバーたちの好不調は、どのチームで走っているか、個人的にどういう状況に置かれているか、マシンとの相性などによって大きく変化するからだ。
ダニエル・リカルドは、昨年から今年にかけて、不可解な不調に陥っている。リカルドはレッドブル時代の2014年にはセバスチャン・ベッテルに圧勝し、その結果、ベッテルはチームを出て行った。その後、2016年、2017年、2018年の前半までは、レッドブルの秘蔵っ子であり、期待の若手だったマックス・フェルスタッペンを相手に全く引けを取らなかった実力の持ち主であり、ルノー時代にはニコ・ヒュルケンベルグやエステバン・オコンとのチームメイト対決で軽々と勝利を収めた。そのリカルドが、マクラーレンに移った途端、予想外の勝利を挙げた2021年イタリアGPを除けば、ほとんどの場合、ランド・ノリスに全く太刀打ちできずにいる。
ノリスと以前のチームメイト、カルロス・サインツとはほぼ互角だった。そしてサインツは2017年終盤から2018年のルノー時代、僚友ヒュルケンベルグより速かったわけではない。つまり論理的にはノリスよりリカルドの方が速いはずなのだ。論理が事実と一致しないということは、このことから明らかである。
一体全体、リカルドはどうしてしまったのか。彼は、自分自身で言うように、技術的分野を特別得意とするドライバーではないが、それでもマクラーレンに加入してからその分野にも懸命に取り組み、本来のやり方で快適に走れるようなセットアップを仕上げてもらうための努力をしてきた。2022年にはF1に新世代マシンが導入されたため、それが転機になるのではないかと期待された。だが、昨年型MCL35Mと今年型MCL36は全く別物というわけではないのだと、リカルドは言う。
「マシンのプロジェクトのなかに、マクラーレンのDNAのようなものがあって、マシンが全く違って見えても、ある部分では反応が全く同じなんだ」とリカルドは教えてくれたことがある。
もちろんチームは所属ドライバーの要求に応えるために努力を惜しまないものだ。だがいくら変更を施してもリザルトが改善しないと、チームの方に次第に諦めが生じる場合がある。そして彼らは、解決策を探し続けるのをやめて、問題はドライバーにあると考えるようになるのだ。
陽気で強気を装うことが多いが、実は繊細な心の持ち主であるリカルドは、マクラーレンが自分の才能を疑っていると感じることで、気持ちが折れて、士気が低下し始めた。さらに彼に悪影響を与えたのは、過酷なF1スケジュールのなかで故郷になかなか帰れなかったことだ。苦しい日々を送りながら、家族や友人たちに会いにオーストラリアに帰ることがほとんどできなかった。その辛さは容易に想像することができる。彼はそうして次第にスランプに陥っていったのだろう。
マクラーレンのCEOがあからさまにリカルドの将来に疑問を投げかけ、チームが契約を2022年末で打ち切ることが可能なのだとほのめかし始めたことも、リカルドに良い影響を与えるはずがなかった。予選後や決勝後のインタビューでのリカルドは、思うような結果が出なかったことについて、自分が納得する説明を何とか探ろうとしているように見える。
このような状況を覆すことは可能なのか? 可能であると、私は信じたい。絶好調の時のリカルド、特にレース中の彼の走りは、見ていて本当にわくわくする。またああいう姿を見たいではないか。だが、このままマクラーレンに残っても、事態は悪くなる一方だろう。多くのスタッフがリカルドへの信頼を失い、リカルドの方も、チームには自分に手を貸してくれる気はもうないのだと思っている。そのような状態で契約に従って2023年末までパートナーシップを続けても、ますます事態が悪化するとしか考えられない。
しかしもしリカルドが新しい環境に身を置くことができれば──たとえばルノー時代に所属していたアルピーヌに戻るのでもいい──、そうすれば物事が元に戻り、彼は輝きを取り戻すことができるかもしれない。
■精彩を欠いている今年のガスリー
今シーズン半ば、スランプに陥っているように見えるもうひとりのドライバーは、ピエール・ガスリーだ。才能は問題ない。士気の低下が影響していると思われる。
2021年に強力なシーズンを送ったガスリーは、今年、アルファタウリがさらに強さを増して、より上位で戦うことができるものと考えていた。それができれば2023年にレッドブルに復帰する道が開けるかもしれない、そう期待していたのだ。だが今のところ、彼の思惑はすべて外れている。シーズン序盤、セルジオ・ペレスが好結果を出し続けるなか、アルファタウリAT03のパフォーマンスはぱっとせず、結局レッドブルはペレスと複数年契約を結んでしまった。昇格の可能性が消失したために、ガスリーはレッドブルとの契約から逃れようとしたが失敗し、2023年もアルファタウリで走ることが確定した。
今のガスリーはモチベーションが低下しているように見える。必死に頑張れば、14位ではなく11位になれるかもしれないが、それに何の意味がある、と考えているのだろう。リカルドと同様に、ガスリーも環境が変われば再び輝き出すはずだ。だが、その機会は、早くても2024年までは訪れない。
■チームの平穏を乱すマクラーレンCEOの行動
スランプに見舞われるのはドライバーだけではない。チームもさまざまな理由で不調に陥ることがある。たとえば今年で言うと、なんといってもメルセデスだ。だが、メルセデスの不調の原因は比較的分かりやすい。今季マシンのコンセプトを間違ってしまったにすぎない、あるいは、彼らに言わせると、「今季マシンが持つポテンシャルを最大限引き出せずにいること」が原因だ。従って、彼らは2023年に向けて目標を修正し、再びトップに立つことは可能だろう。
今年はマクラーレンも期待されたほどの強さを見せていない。彼らは2022年のレギュレーションをうまく解釈することができなかった。つまり、来季型には異なるコンセプトを採用すれば改善するのだろうが、マクラーレンにはもうひとつ問題がある。CEOザク・ブラウンの行動が、チーム内に不穏な空気をもたらしていることだ。アンドレアス・ザイドルは強力なリーダーなので、彼がチームをうまく守っていけるかどうかが今後の鍵になりそうだ。
ブラウンはパト・オワード、コルトン・ハータ、アレックス・パロウ、オスカー・ピアストリと契約あるいは接近、それによって、チーム全員が混乱に陥っている。マクラーレンの場合、現在のパフォーマンス不足の責任の一端はCEOにあるといえるだろう。
■空中分解が懸念されるアストンマーティン
最後に、今後が懸念されるチームとしてアストンマーティンを挙げ、その現状に触れておきたい。
フォース・インディア時代までは小規模ながら、非常に効率の良いチームだった。その後、多額の予算、大規模なスポンサー、ビッグネームを手に入れ、元世界チャンピオンをドライバーとして迎え入れて、F1での成功を目指しているわけだが、その成長に伴う痛みが生じている。オーナーであるローレンス・ストロールが、他チームから人員を引き抜いて重要なポストに据え、シルバーストンのファクトリーで長年働いてきた人々を軽んじることで、長年育ててきた素晴らしいチームスピリットを台無しにしつつあるのだ。
いまや古参スタッフと新規参入メンバーの間に溝ができ、チーム内に“我々と彼ら”という空気が流れている。チーフテクニカルオフィサーのアンドリュー・グリーンがストロールの方針の次なる犠牲者となったとしても、私は驚かない。ストロールは、レッドブルから引き抜いてきたダン・ファローズをテクニカルディレクターに任命したが、彼をさらに上のポジションへと引き上げたいと思うかもしれない。ファローズは常勝チームであるレッドブルに所属していたという理由でだ。
グリーンは、アストンマーティンF1の基礎となる、1991年から活動を始めたジョーダン・グランプリの初期からのメンバーで、1998年末まで同チームにとどまり、他チームでのキャリアを経て、12年前に戻ってきた。彼がもし離脱するようなことになれば、同時に経験豊かな古くからのメンバーも抜けてしまい、チームが弱体化するかもしれない。
そしてさらなる不安要素は、来年にはセバスチャン・ベッテルに代わってフェルナンド・アロンソが加入することだ。アロンソはすぐさま結果を求め、チームに大きなプレッシャーをかけるだろう。そして、アロンソとストロール家の関係が悪化した場合には、チームは最悪の状況に陥る。
心の平和、調和、互いに信じあうことこそが、成功する企業の根幹の大きな部分を占める。レーシングチームであれば、その傾向はさらに強い。チームにとって重要なのは、集団的に経験を積み、前に進んでいくことなのだ。それができれば、結果はついてくる。それができなければ、どれだけ経験豊富で才能があるスタッフがいて、多額の資金をマシンにつぎ込むことができても、そのチームは失敗するだろう。
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