【F1チーム代表の現場事情:レッドブル】激怒と沈黙。コストキャップ違反問題への対処に苦慮するホーナー
大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、レッドブル・レーシングのチーム代表クリスチャン・ホーナーに注目した。
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レッドブルが今シーズン最も喜ぶべき瞬間を迎えたこの時期に、クリスチャン・ホーナー代表は大きな事件に直面し、強いプレッシャーのなかで過ごさなければならなかった。
シンガポールGPは、マックス・フェルスタッペンが2022年ドライバーズタイトルを決める可能性がある最初のグランプリだった。しかしその週末に大きな注目を集めたのは他の話題だった。レッドブルが2021年にバジェットキャップ規則に違反し、ペナルティを受ける可能性があるという報道がなされ、そのトピックで持ちきりになってしまったのだ。
その時点でFIAはまだ監査結果を発表していなかったにもかかわらず、フェラーリのローレン・メキースとメルセデスのトト・ウォルフは積極的にこの話題についてコメントしており、それに対してホーナーは激怒していた。
シンガポールGPの金曜、ホーナーは最初は、メディアと会話しないことで、この話題がそれ以上過熱するのを防ごうとしていた。しかし次第に苛立ちが募り、限界を超えたようで、少数の新聞系ジャーナリストのみをレッドブルのホスピタリティに呼んで、火消しにかかった。厳罰を処すべきだというウォルフのコメントが、新聞の見出しになって大きく報じられることをなんとか止めようとしたのだ。
しかしホーナーの試みは成功しなかった。イギリスの新聞にとっては、ホーナーの発言よりも、レッドブルが大きなペナルティを受ける可能性があるという内容の記事の方がおいしかったからだ。
シンガポールGP土曜にFIA記者会見に登場したホーナーは、攻撃に出た。メルセデスとフェラーリの発言は「極めて中傷的」であり、「レッドブル、レッドブルのブランド、F1に対する中傷である」と述べ、彼らが撤回しなければレッドブルは法的措置を取ることを検討すると示唆した。「具体的にどの発言を中傷的だと考えているのか」とBBCの記者が尋ねると、ホーナーはその記者をも攻撃、彼の誠実性に疑問を呈し、中立的な立場に立つべきだと言い放った。
FIAが監査結果を発表する予定だった日が数日後であることは単なる偶然であり、ホーナーもそれは分かっていた。しかし彼は、フェラーリとメルセデスは自分たちのパフォーマンス不足から人々の目をそらし、フェルスタッペンがタイトル獲得に近づいている喜ぶべき瞬間を台無しにしようとしているのだと主張、このタイミングに意図的に情報がリークされたのだと発言した。
このころのホーナーは、その言動から見て、非常に大きなプレッシャーを抱えていたのは明らかだった。その後、FIAが監査結果発表を5日間遅らせ、日本GP後に延期することが発表された。これはホーナーにとって良いことだった。自分自身が落ち着きを取り戻す時間を得ることができるし、しばらく新しい情報が出てこないことで、騒ぎが多少収まり、フェルスタッペンのタイトル2連覇への注目度が上がるからだ。
日本GP決勝後、ポイントシステムの問題から、レッドブルを含めた誰もがフェルスタッペンの王座確定を確信するのに時間がかかったが、最終的に正式にフェルスタッペンは2022年チャンピオンとして認められた。悪天候でレースの進行が遅れたため、レッドブルは喜びに沸きつつも、お祝いを短く切り上げてサーキットを後にした。
F1関係者がヨーロッパに戻った月曜、FIAが発表を行った。レッドブルのみが2021年コストキャップを破ったことが公表されたのだ。
ホーナーは守勢に回った。メルセデスとフェラーリのコメントを強く非難し、法的措置を取るとまで述べ、レッドブルは予算制限額を上回ってはいないと主張してきた彼としては、面目を失った形になった。それで、これ以上体面が傷つけられないよう、FIAにより明確な説明を受けるまではこの件について発言しないと決めたのだ。
フェルスタッペンの2回目のタイトル獲得というチームにとって最高の時期だが、外部からの注目はそこではない部分に当てられており、ホーナーの苦難の日々はまだまだ続く。
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