F1技術解説:日本GP(2)レッドブルRB18:直線スピードの速さの秘密はニューウェイ設計のサスペンションか

 

 2022年F1第18戦日本GPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察し、印象に残った点などについて解説。今回は、レッドブルRB18のストレートスピードの速さについて考察する。

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 ベルギーGPで出されたポーパシングに関する技術指令に関していえば、レッドブルは影響が少なく、フェラーリほど苦戦はしていない。シンガポールから改良されたフロアを装着したRB18は、マックス・フェルスタッペンのウエット路面での絶対的な強さのおかげもあって、再びフェラーリを支配下に置いた。

 この優位性は、一体どこから来るのだろうか。さまざまな要因がある中で、日本GPの数日前、卓越したストレートスピードの理由についての新説が浮上した。

 ご存知のように、F1チームは一度にすべてを求める。コーナーでは必要なグリップを得るために多くのダウンフォースを付けることを目指すが、逆にストレートではスピードを得るためにダウンフォースはできるだけ削ろうとする。そのためのさまざまな工夫の優劣が、勝負の明暗を分けることになる。

 昨年までは、ダンパーの圧縮硬度を油圧で変更することが合法的にできた。フロントとリヤに搭載したヒーブダンパーが、それに当たる(下図黄色部分)。左右の車輪を同時に倒したり起こしたりすることで、ブレーキング時や加速時の車の沈み込みや、ウイングによる空力負荷の影響で変化する車高を制御するダンパーだ。このダンパーの圧縮量を調整することで、車高を任意に変化させ、直進時の抵抗を少なくするのがこのデバイスの肝だった。

前世代F1マシンのサスペンション構造(メルセデス)
前世代F1マシンのサスペンション構造(メルセデス)

 今季のマシンも速度が上がるとダウンフォースが増え、サスペンションへの負荷が大きくなり、圧縮された結果、車高が下がる。その点は、去年までと同じだ。ただし今季のF1マシンはマシン下部に高速気流を流すことで強大なダウンフォースを発生する、いわゆるグランドエフェクトカーである。そのため車高が下がり過ぎると、グランドエフェクトがうまく機能しなくなる。空気の流れが乱れ、真空が作れなくなるのだ。

 フロア下の気流が失速することで、マシンは一気にダウンフォースを失う。それでもF1マシンが宙を飛ばないのは、ウイングが発生するダウンフォースも十分過ぎるほどあるからだ。

 ただしフロア下のダウンフォースが失われた状態では、特にリヤの車高が上がるはずだ。ところが各チームのマシンは失速しながらも、リヤを地面に密着させることに成功している。

 なぜそれが可能なのか。チームや技術レギュレーションにもよるが、たとえば昨年のメルセデスW12が、ストレートでリヤを大きく下げてドラッグを減らすことに成功していたのを、記憶している方も多いだろう。あらかじめ設定された速度でガスダンパーのバルブが開き、ダンパーが収縮、車高が下がる仕組みだった。

 しかし今季は、油圧ダンパーは認められていない。従来の仕組みのダンパーで同じように一定以上の荷重で地上高を下げ、その状態を維持することは、技術的には不可能ではない。だがかなり複雑な仕組みが必要だ。

レッドブルRB18の細部
レッドブルRB18の細部

「今季の各マシンを真横から見ると、静止状態ではレッドブルが最も地上高が高いが、高速では最も低くなる」。ドイツの『Auto Motor und Sport』誌は、メルセデスのあるエンジニアのそんな観察を紹介している。そのエンジニアによれば、普通のダンパーで去年のメルセデスのような機構を再現するには、「スペースと重量が必要だ」という。

 今季のレッドブルがシーズン当初に重すぎるマシンを投入していたこと、それでも群を抜く速さを見せていたことは、そういうことだったのかもしれない。

 RB18の卓越した最高速度は、空力的な効率の良さによるものだけではない。
「レッドブルのスピードプロファイルを見ると、ストレート後半にしかスピードが上がらないことがわかる」と、アストンマーティンのエンジニアは言う。シャルル・ルクレールも「空力だけの問題ではない。何か機械的な仕組みがあるんだ」と確信している。

フェラーリF1-75、レッドブルRB18、メルセデスW13の比較
フェラーリF1-75、レッドブルRB18、メルセデスW13の比較

 RB18のフロントとリヤのサスペンションは、エイドリアン・ニューウェイが自ら設計したものだ。しかしどうやって高速走行中にリヤの車高を下げ、それでもポーパシングを起こすことなく、ブレーキング時にはフロア下のダウンフォースが正しく復活し、コーナリングに必要なダウンフォースが確保できているのか。それは依然として、謎のままである。

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