【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第1戦】「誰がボスか」を示したものの、非力なマシンで痛すぎるノーポイント

 

 F1ライター、エディ・エディントン氏による角田裕毅分析コラムが今年も登場。F1での3年目を迎えた角田がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は2023年F1開幕戦バーレーンGPについて振り返ってもらった。

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 1ポイントまであと1秒だった。そんな僅差で入賞を逃がして、角田裕毅は本当に悔しい思いをしたことだろう。57周にわたっていい走りをしていたのに、マシンのストレートラインスピードが極端に不足していたために、結局前を行くウイリアムズのアレクサンダー・アルボンを抜くことができなかった。どんなにいいレースをしたところで、結局大事なのはポイントを獲れたかどうかだ。レッドブルが角田の将来を決めようとする時に思い返すのは、ポイントを稼いできたかどうかということだけなのだ。

2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)がアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)を追う
2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)がアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)を追う

 角田が別のチームで走っていたなら、心配しない。彼の努力をチームが見過ごすことはないだろうからだ。だが、彼の去就を決めるのは、レッドブルであり、ヘルムート・マルコだというところが問題だ。マルコがシーズン全体の出来事を深く詳細に分析するはずがない。もうじき80歳になるマルコは、今年の11月半ばまでのどこかのタイミングでランキング表を見て、その時に角田がいる位置が気に入らなければ、自動的に2024年には他の若者を乗せることを決めるだろう。

 もちろん、そんなやり方でドライバーを選ぶべきではない。だが、このコラムは、マルコのやり方について議論する場ではないので、この話を掘り下げるのはやめよう。史上最も高額な資金を費やした若手ドライバー育成プログラムが、ほんのわずかな実績しか挙げていないことについての実情を私に語らせたら、丸2日はかかるだろう。

 本題に戻る前にひとつ言っておきたい。角田が マリオ宮川氏をマネージャーに雇ったという話を聞いて、私は深く失望した。私があれほど売り込んでいたのに、彼は結局一度も声をかけてこなかったのだ。

 とはいえ、マリオ宮川は角田にとって完璧な選択だったと認めよう。F1の経験が豊富な日本人で、イタリアに住んでいて、アルファタウリのメンタリティもよく理解できる。長年にわたってジャン・アレジと仕事をしてきたから、裕毅のようにすぐ感情的になる子どもに対処する方法もよく知っているはずだ! 角田は、マリオにすべてを任せて、コース上に気持ちを集中させることができ、それは必ずやプラスになるだろう。

 そのメリットがバーレーンでさっそく表れたのか、週末を通して角田は新しいチームメイト、ニック・デ・フリースに完全に勝利した。予想されていた脅威を吹き飛ばして、デ・フリースに対して、誰がボスなのかをはっきり示したわけだ。

2023年F1第1戦バーレーンGP ファンイベントでの角田裕毅とニック・デ・フリース(アルファタウリ)
2023年F1第1戦バーレーンGP ファンイベントでの角田裕毅とニック・デ・フリース(アルファタウリ)

 このコラムでは普段は細かい数字を持ち出すことはないのだが、今回、角田とデ・フリースのタイム差を挙げたい。FP1では約0.4秒、FP2では約0.1秒、FP3では約0.6秒、Q1では約0.7秒で角田が圧勝だった。デ・フリースは予選はQ1で敗退している。

 決勝で角田は、序盤にニコ・ヒュルケンベルグをパスし、最初のピットストップ時期が終わった段階でローガン・サージェントをアンダーカット、エステバン・オコンがキャリア最悪の日を送ったため、角田は11番手まで上がった。2回目のピットストップ時期にピエール・ガスリーにアンダーカットされたため、シャルル・ルクレールがリタイアしたものの、角田は11番手のまま。前述のとおり、ストレートラインスピードの不足からアルボンを抜くことができず、ポイント圏内に入れなかった。

 この週末は、FP1から週末を通して角田がエンジニアたちに基準を示し、チームをリードしたと聞いている。ジョディ・エギントンが、AT04を整え、ダウンフォースを失うことなくドラッグを減らし、もっとコース上で戦えるマシンに改善できるかどうかに、今後の展開がかかってくるだろう。バーレーンで得た情報によると、レッドブル・グループがアルファタウリを売却するのを防ぐためには、角田たちは何が何でもポイントを稼ぐ必要がありそうだ。

2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)

2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)
2023年F1第1戦バーレーンGP 角田裕毅(アルファタウリ)


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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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