【F1技術解説】アストンマーティンはなぜ失速したのか(1)開発の方向性を誤り、2番手から5番手へ
シーズン開幕当初、アストンマーティンはレッドブルに次いで2番目に強いマシンだった。しかしカナダGP後、かつてほどの勢いはない。その理由をF1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが探った(全2回)。
────────────
■パフォーマンス上の序列に大きな変化
開幕序盤は、すべてが順調だった。アストンマーティンのマシンが、フェラーリ、メルセデスより速いことが分かり、パドック中が驚いた。この予想外の飛躍は主として積極的な人材採用と、明確な戦略的選択(特に空力への絶対的な優先)のおかげだった。
最初の8戦で、アロンソは表彰台に6回上った。カナダGPまでは、1レースあたり14.6ポイントを獲得していたのだ。ところがそこからの4戦の平均は、8ポイントに落ち込んだ。
この不振は、純粋なスピードの面でも確認されている。予選タイムを比較すると、バルセロナ以降のアストンマーティンAMR23は、マクラーレンを含むトップ5の中で最下位に落ちている。
■原因はピレリの新タイヤではなく、開発方向性の誤り
アロンソはこの低迷の原因として、ピレリがイギリスGPから導入した新しいタイヤ構造の影響を指摘した。しかしチーム首脳は、これを否定する。
「それは安易な言い訳と言わざるをえない」と、チーム代表のマイク・クラックは言う。
「新しいタイヤに、いくつかの変更点があったのは確かだ。しかしそれは主に安全面を考慮したもので、うちだけが殊更大きな影響を受けたとは考えにくい」
「競争力低下を、タイヤのせいにはできないということだ。物事はもっと単純で、タイヤのことを我々がもっとよく知る必要があるということだ」
では他に、どんな要因があるのか。チームは6月のカナダGPで新しいアップデートを導入し、車体セッティングでもいくつか新たな試みをした。それらが思わぬ副作用をもたらした可能性を、クラック代表は示唆している。
「F1マシンの開発は、非常に複雑なプロセスだ。どこかに変更を加えれば、他の箇所に必ず何らかの副次的作用が出てきてしまう。それでも改良を続けるのは、いうまでもなく副作用によるマイナス効果よりも、アップデートによる性能向上というプラス効果の方が大きいと信じているからだ」。
「たとえば、導入すれば明らかにダウンフォースが増大するとわかっているパーツを開発できたとしよう。しかし同時にそのパーツによって、旧仕様では出なかった影響に見舞われるリスクがある。ではそのパーツを選ぶべきか、見送るのか。そんな選択を重ねる中で、我々はひょっとすると1つか2つのケースで間違ってしまったのかもしれない」
カナダで投入したアップデートは、方向性が間違っていたのではないか。アストンマーティンのエンジニアたちがそんな疑念を確認できたのは、1カ月以上後のハンガリーGPだった。
(第2回に続く)
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです