【全ドライバー独自採点/F1第15戦】フェルスタッペンに果敢に挑戦したサインツ。期待以上のローソン
長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はイタリアGPの週末を振り返る。
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モンツァは、マシンのパフォーマンスが与える影響が比較的大きいサーキットだ。ミスをせずにレースを走り抜くことはそれほど難しくないものの、ストレートスピードを考慮してリヤウイングのダウンフォースが実質的にない状態で走るため、ブレーキングエリアやコーナーへのターンインでミスが出る場合があり、そうなると、同じマシンでもチームメイト同士の差が出る可能性がある。
今回際立って優れていたドライバーは3人、その他に、自分のマシンをうまく活用して良い仕事をしたドライバーも何人かいた。一方で、F1でレースをするより他の場所にいたいと思っているのではないかと思われるほど、マシンの潜在能力を下回るパフォーマンスしか見せなかったドライバーもいた。
■評価 10/10:週末のスター、サインツ
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選1番手/決勝3位
この週末のスターはカルロス・サインツ(フェラーリ)だった。サインツはマックス・フェルスタッペンに挑戦するという、今シーズンまだ誰も成し遂げていない困難な仕事に臨み、見事に戦った。サインツのポールポジションラップは見ていて楽しいもので、テクニカルなシケイン、バリアンテ・アスカリを他の誰よりも速く駆け抜けた。レースではフェルスタッペンを15周にわたって後ろに抑えるという素晴らしい仕事をし、その後、終盤までセルジオ・ペレスに対抗したが、タイヤがオーバーヒートして抑えきれなくなり、残り数周はチームメイトとの緊迫したバトルを繰り広げた。
■評価 9/10:通常ほどの優位性はなくても結果につなげたフェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選2番手/決勝1位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選6番手/決勝7位
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、10連勝の記録を達成したものの、今回は25ポイントを獲得するのが予想していた以上に困難だった。Q3での2周は最高の出来とはいえないもので、ロッジア・シケインで体勢を崩したことで、危うくポールポジション争いから脱落するところだった。レースではRB19のDRSシステムが通常ほど大きなメリットをもたらさなかった。しかし、フェルスタッペンは成熟したアプローチをとり、サインツの小さなミスを待ってリードを奪った。ライバルたちが希望を持てる要素を挙げるとするなら、フェルスタッペンは15周にわたって他車のすぐ後ろを走ったことでマシンの温度が上昇し、フィニッシュまで労わって走る必要があったことだ。
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)とウイリアムズは、このところ、あらゆる種類のサーキットでポイントを獲得することに成功しており、モンツァも例外ではなかった。ウイリアムズは、昨年型ほどの圧倒的なトップスピードはなかったものの、ダウンフォースとグリップが向上しており、アルボンは予選で6番手、決勝で7位という素晴らしい結果を出した。彼はレースの51周の間、ひとつもミスをせず、オスカー・ピアストリとランド・ノリスを抑えきることに成功。ルイス・ハミルトンに対しては抵抗できなかったが、メルセデスの方がはるかに速く、アルボンのタイヤは限界に近い状態だった。
■評価 8/10:予選も決勝も堅実な走りをしたローソン
リアム・ローソン(アルファタウリ):予選12番手/決勝11位
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選3番手/決勝4位
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選4番手/決勝5位
初めてF1ウイークエンドをフルで参加したリアム・ローソン(アルファタウリ)は、求められる以上の仕事をやってのけた。2022年には経験がほとんどないニック・デ・フリースが、モンツァで確かなパフォーマンスを発揮してみせたが、今回のローソンも素晴らしかった。予選では自分よりもはるかに経験豊かな角田裕毅からわずか0.164秒差のタイムを出し、決勝でも堅実な走りをした。スタートでニコ・ヒュルケンベルグに抜かれ、ポジションを取り戻すのに12周を要した。リスキーな2ストップで戦い、最後まで全力でプッシュし続けたが、バルテリ・ボッタスに挑戦できるだけのスピードはなく、ポイントには一歩およばなかった。
シャルル・ルクレール(フェラーリ)は予選でも決勝でもサインツに一歩およばず、SF-23に適していない基本セットアップでFP1をスタートしたことの代償を払った。スタートで躓いたルクレールは、土曜日にはサインツのセットアップをコピーすることで差を縮め、バリアンテ・アスカリで失ったわずか0.067秒の差でポールポジションを逃したものの、それでも3番手という良い位置をつかんだ。レースでは最後までチームメイトを追い続け、32周目にペレスに抜かれた後も僅差でついていき、終盤は表彰台をかけてサインツにチャレンジした。ふたりのバトルは非常に激しいものだったが、最後までクリーンなレースをしてみせた。
モンツァのメルセデスは単独3位という立ち位置だったが、ジョージ・ラッセル(メルセデス)は予選4番手と、W14の力を上回る成績を収めた。レースではペレスをしばらく抑え続け、ハードでありつつフェアに戦ったものの、16周目にポジションを落とした。タイヤ交換後、エステバン・オコンをクリアするためにファーストシケインをカットし、5秒ペナルティを受けた後、後方に5秒分以上のギャップを築き、後半はほぼ単独走行で、堅実に5位をつかんだ。
■評価 7/10:不運なトラブルでチャンスを失った角田裕毅
角田裕毅(アルファタウリ):予選11番手/決勝スタートできず
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選5番手/決勝2位
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選8番手/決勝6位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選10番手/決勝9位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選14番手/決勝10位
角田裕毅(アルファタウリ)には同情を禁じ得ない。予選で見事なパフォーマンスを発揮し、ベスト・オブ・ザ・レストである11番手を獲得したにもかかわらず、決勝のフォーメイションラップでパワーユニットの問題が発生し、レースをスタートすることができずに終わった。ローソンのパフォーマンスからして、角田が走っていれば、彼は10位でフィニッシュしていた可能性が高いと思われるが、挑戦することすらできなかった。
セルジオ・ペレス(レッドブル)は2位でフィニッシュし、レッドブルがチャンピオンシップのリードをさらに広げることに貢献したのは確かだが、今回もフェルスタッペンのパフォーマンスには遠くおよばず、フリープラクティスではコースオフもあった。今回はフェルスタッペンですら、オーバーテイクを成功させるのに時間がかかっていたため、ブレーキングを遅らせるスキルと自信が欠けていたペレスは、ラッセル、ルクレール、サインツを抜いていくのに46周を要した。最終的にそれを成し遂げたことが、唯一ポジティブな出来事だったといえよう。
ルイス・ハミルトン(メルセデス)は予選での成績が悪かったことで、決勝でラッセルと5位争いをするチャンスを失った。何らかの理由で予選Q3で使用した2セットのソフトコンパウンドにグリップがなく、ハミルトンは8番手にとどまった。ハードタイヤで決勝をスタートするという賭けは奏功。スタートでノリスに抜かれた後、タイヤを温存するために無理をしないことにしたものの、予定より9周早くミディアムタイヤへの交換に呼ばれたことには困惑していたが、最終的にはグリッドより順位を上げることに成功した。ピアストリとの接触でペナルティを受けたものの(本人も自分の非を認めた)、アロンソ、アルボン、ノリスを抜いて、5秒以上を稼いで6位をつかんだ。
もうひとりのベテラン、フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)は、予選で10番手、決勝ではピアストリが追加のピットインをしたことの恩恵を受けて9位という結果を出した。AMR23はモンツァで特に優れたパフォーマンスを見せなかった。一方で、アロンソがチャンスを感じたときに見せる輝きが、今回は見られなかったように思う。
幸運を必要としていたバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)が、今回は良い結果を出すことができた。ボッタスは、アルファロメオがモンツァに導入したメカニカルアップグレードを最大限に活用。時間をかけて周冠宇に対する優位を築いていき、予選で14位を獲得した。他のほとんどのマシンとは反対の戦略で、ハードタイヤでスタート。ピアストリの後退により10位に上がり、ローガン・サージェントとのクラッシュを生き延びて、ポイントをつかんだ。
■評価 6/10:僚友と接触するという大きなミスを犯したピアストリ
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選7番手/決勝12位
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選13番手/決勝17位
ランド・ノリス(マクラーレン):予選9番手/決勝8位
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選15番手/決勝13位
オスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、序盤はノリスより前を走り続け、素晴らしいパフォーマンスを見せていた。しかし冷えたハードタイヤでピットアウトした際に、チームメイトの後ろに落ちまいと、激しく戦い、その結果、接触が起きた。2台ともリタイアとなることは避けられたとはいえ、チームメイトに接触することは、モーターレースにおいて最も大きな過ちのひとつである。ピアストリはその責任を認め、そこから学ぶ必要がある。ピアストリは、ハミルトンのまれなミスの犠牲となり、最終的にはポイント圏外でフィニッシュ。予選と決勝序盤には素晴らしい速さを発揮していただけに、残念な結果だった。
ハースVF-23自体にはポイント圏内に入れる力はなかったが、ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)は善戦。予選で13番手を獲得し、スタートでなんとアロンソとローソンをパスし、角田が出走できなかったことで、ヒュルケンベルグはタイヤが駄目になるまでトップ10圏内を走った。しかし、すべてのタイヤでひどいデグラデーションが起き、ヒュルケンベルグは長く厳しいレースを戦わなければならず、最終的には周回遅れの17位という結果になった。
モンツァはマクラーレンとの相性が良いコースではなかったが、かつて表彰台に上った経験を持つランド・ノリス(マクラーレン)が、予選でルーキーのチームメイトに負けたのは意外だった。決勝ではトップスピードが不足していたためにアルボンを抜くことはできず、ピアストリより早くピットインしてアンダーカットを成功させた後、チームメイトとの接触があったものの、ノリスは8位を獲得した。
ローガン・サージェント(ウイリアムズ)に向けられている批判は不当なものであると感じる。アルボンと比較すると確かに見劣りするが、サージェントはルーキーであり、ピアストリよりもF1テストの経験が少なく、チームは経験あるアルボンの方に集中しているのだ。今回サージェントは、ハースを除くと最もタイヤの消耗が早いウイリアムズで、予選Q2に進出し、ポイント争いに加わり、悪くない仕事をしていたと思う。しかしボッタスへの接触は不必要なインシデントだった。そういうことが起こるのは、彼の絶望感が高まりつつあることの兆候かもしれない。
■評価 5/10:アルピーヌが前戦の表彰台が信じられないほどの低迷
周冠宇(アルファロメオ):予選16番手/決勝14位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選17番手/決勝15位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選18番手/決勝リタイア
アルファロメオ・ザウバーとの将来に注目が集まっている周冠宇(アルファロメオ)は、今回ボッタスと同等の競争力を示せずにいた。チームはレースでボッタスを守るため、周にアルピーヌ2台をカバーする役割を託したようだ。レースを通して目立たない存在だった周だが、チームのためのミッションは遂行してみせた。
モンツァでは、アルピーヌA523は完全に誤ったウインドウに入っていたため、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)とエステバン・オコン(アルピーヌ)自身のパフォーマンスを評価するのは難しい。わずか一週間前にガスリーを表彰台に導いた同じマシンとは思えないほどの精彩のなさで、ガスリーは少なくとも完走を果たしたが、オコンは高速コーナーでステアリングがロックし始めたため、安全上の理由からリタイアしなければならなかった。
■評価 3/10:最下位を走り続けたマグヌッセン
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選19番手/決勝18位
またしてもケビン・マグヌッセン(ハース)は、チームメイトに大差をつけられ、挑戦するのを諦めたようにすら見える。19番グリッドからスタート、決勝の大半を最下位を走り、その位置でフィニッシュした。
■評価 2/10:ストロールはモチベーション低下か
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選20番手/決勝16位
FP1はフェリペ・ドルゴヴィッチにマシンを譲り、FP2ではトラブルのために走れなかったことが、ランス・ストロール(アストンマーティン)にとって不利に働いたのは確かだ。しかし、彼はすでにF1で7年を走っているドライバーなのであり、そういう状況でももっと良い成績を収める必要があった。予選では最下位、Q1のタイムはアロンソより0.8秒以上遅かった。決勝でも後方近くを走り続け、終盤3周で大きくペースを落として16位という結果になった。これを見ていて、ストロールは父親とチームに対して、来年以降、F1を続けたくはないという意思表示をしたのではないかと疑う者すらいた。
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