【角田裕毅F1第4戦分析】リスタート後は接触せず、順位も落とさない走り。引かずアグレッシブに戦い入賞をつかむ
レース前、角田裕毅(アルファタウリ)の心には、ある強い思いがあった。それは、このグランプリ直前に今シーズン限りでの勇退を発表したフランツ・トスト代表へ対するものだった。
「僕がF1にデビューしてからこの3シーズン、トストさんは僕を信頼し続けてくれた。どんなときでも、そばで僕を支えてくれていました。そのことに、本当に感謝しています。だから、残りのレースはトストさんが喜ぶようなレースをしたい」
角田がF1ドライバーとしてトストから学んだことのなかで忘れられないのが、レース中のチームメイト同士でのバトルだ。それは、角田が昨年のイギリスGPで当時チームメイトだったピエール・ガスリーを抜こうとインを差しながらも成功せず、接触事故を起こしていたからだ。レース後、角田はトストに呼び出され、「なんで、あんなバカなことをしたんだ」とたしなめられたという。そのときの苦い思い出はいまも忘れることができない。
その後、角田は同じ過ちは犯さなかった。
ところが、今年のアゼルバイジャンGPの土曜日に行われたスプリントで事件が起きた。スタート直後の1周目に今年から新たにチームメイトとなったニック・デ・フリースとサイド・バイ・サイドのバトルを演じた際に、接触事故が起きてしまった。
しかし、状況は1年前とは反対で、イン側にいたのはデ・フリースで、アウト側にいた角田はデ・フリースとウォールに挟まれて、どうすることもできない状況だった。3コーナーの立ち上がりで、わずかに減速した角田の前をデ・フリースが走り抜けていく際に、デ・フリースのリヤタイヤと角田のフロントウイングが接触。フロントウイングの左側が脱落した角田は「ピットインする」と無線でチームに伝えた後、こう叫んだ。
「あいつはいったい何を考えているんだ」
その直後、フロントウイングを失った角田はウォールにクラッシュし、最終的にリタイアを余儀なくされた。
スプリント後、角田は名指しこそしなかったものの、デ・フリースの行為をこう言って非難した。
「あるドライバーと接触して、フロントウイングを失いました。(並んでいる時は)普通はスペースを残しますよね。しかも、チームメイト同士なんで」
レースだから、バトルはする。でも、当たってはダメだ。しかも、チームメート同士なら、なおさらだ。
それがトストから角田が教えてもらったレースへのアプローチだった。それはデ・フリースとの接触事故の後も変わらなかった。
アゼルバイジャンGP決勝レース。8番手からスタートした角田だが、ランス・ストロール(アストンマーティン)とジョージ・ラッセル(メルセデス)にかわされ、10番手に後退。その後、セーフティカーが導入され、角田はピットストップのタイミングの関係で12番手となる。そして、レースは14周目に再開される。
ここで角田は、このレースでのハイライトを迎える。再スタート直後にオスカー・ピアストリ(マクラーレン)に前に出られるが、簡単には譲らない。その戦いは土曜日のスプリントを思い出させる激しいサイド・バイ・サイドのバトルだった。
1コーナーから始まったふたりのバトルは、6コーナーまで続いた。しかし、角田はピアストリと接触することなく、ポジションを守ることに成功した。
「アグレッシブにピアストリとバトルして、ポジションを明け渡さなかったことはよかった。あそこは引かなかったことが、ポイント獲得につながったと思います」
レース終盤に、タイヤを交換しないで粘っていたエステバン・オコン(アルピーヌ)とニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)がピットインし、12番手を死守していた角田は、10位でチェッカーフラッグを受けた。その走りをピットウォールで見ていたトストはこう言って角田を讃えた。
「トップ4チームが全車完走したレースで、ユウキとチームは最高の走りで1点を持ち帰ってくれた。よくやった。ファンタスティックだった!!」
この1点は、ただの1点ではない。トストから学んだことを実行して持ち帰った恩師に捧げる最高のプレゼントとなった。
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです