F1技術解説:レッドブルを超えるポイントを稼ぎ出したマクラーレンの最新アップデート(1)フロアエッジの形状変更
F1シンガポールGPで大規模なアップグレードを入れて以来、3戦連続で表彰台を獲得したマクラーレンF1チーム。驚くべきパフォーマンス向上を成し遂げたMCL60の変化を、F1i.comの技術分野担当ニコラス・カルペンティエルが分析、細部の画像も紹介する。
─────────────
2年ぶりのF1カタールGPで、最も多くのポイントを獲得したチームはどこだったか。普通に考えれば王者レッドブルだろう。しかし、そうではなかったのだ。
カタールGPでマクラーレンが獲得したポイント数は、47だった。対するレッドブルは、マックス・フェルスタッペンが優勝したにもかかわらず34ポイントに留まった。そう、正解はマクラーレンだった。
2023年シーズンを通してのマクラーレンの進化は、控えめに言っても印象的だ。悲惨なほど遅かった開幕序盤を経て、エンジニアたちはオーストリア、イギリス、シンガポールの3段階で、MCL60の修正を続けた。
これから検証するのは、最新の変更点である。カタールでのオスカー・ピアストリの初勝利(スプリント)、ランド・ノリスとのダブル表彰台に、これらのアップデートが大きく貢献しているのは明らかだ。
車体アップデート以外にも、この週末のマクラーレンには様々な追い風が吹いていた。燃料漏れによるカルロス・サインツ(フェラーリ)のレース欠場、スタート直後のルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルのメルセデス同士討ちにより、有力ライバルたちが早々に姿を消したことも確かに大きかった。一方でマクラーレンのメカニックたちはタイヤ交換作業で、1.8秒という世界新記録を樹立した!
さらにピレリタイヤにバーストの危険があるとして、FIAは最大18周の周回制限という前代未聞の措置を敢行した。その結果、レッドブルRB19の長所のひとつであるタイヤ温存とスティント延長能力が、事実上無力化されたのだ。
ランド・ノリスはレース後、こう指摘している。
「レッドブルは通常、タイヤのデグラデーションという点ではレースでより良いパフォーマンスを発揮する。実際、カタールでも、デグラデーションが悪かったという印象はない。もしレース中のピットインが2回に留まっていたら、レッドブルがずっと優位に立っていただろうね」
「その証拠に日本GPでは、レッドブルがいつも速さを見せるスティントの後半で、マックスは僕らが失速している間も安定して速かった。でもカタールでは、そこまでの差はなかった。ロングスティントが禁じられていたことが、大きな要素だったんじゃないかな」
■フロア形状が速さの鍵を握る
製造上の理由から、F1チームはシーズン中のすべてのアップデートを一度に導入することはできない。
マクラーレンの場合、3週間前のシンガポールGPで導入された改良版は、7月初めのオーストリアGPでの大幅な空力アップデートを、さらに進化させたものだった。あのアップデートでマクラーレンの開発陣は、内部ラジエターの位置を変更。エアインテークとフロアの空間は劇的に大きくなった。
「車体下部の細かな作業は信じられないほど洗練されており、技術的な観点から見ても、私がこれまで見た中で最も魅力的なもののひとつだ」とチーム代表のアンドレア・ステラは、エンジニアたちの仕事ぶりに賞賛を惜しまない。
さらにステラ代表は、「フロア形状が速さの鍵を握る」とし、「今後は1mm単位の変更に、各チームがしのぎを削ることになるだろう」と、さらなる開発の激烈さを予言している。
MCL60のマシン下部も、大きく見直された。まずマシン前部だが、上の4枚の画像の黄色い矢印で示したように、ベンチュリ・トンネルの入り口の形状が変更され、最も内側のフィンも再設計された。横方向のデフレクターとして機能するバージボードも、より高く(緑色の矢印)、より湾曲している(紺色の矢印)。
■原点回帰の改良
マクラーレンMCL60は、マシン後部もフロアデザインに変更が認められる。特にリヤタイヤ前のフロアエッジの形状変更が顕著だ。下の2枚の写真の、緑色の矢印部分に注目してほしい。エッジ部分が強化されている。2022年型シャシーで一時導入されたものの、その後、アイススケートの刃のような形状に変更されていた。一方で他チームはこのマクラーレンのアイデアを、シーズン開幕時から導入していた。今回は本家が、その流れに乗った形だ。
「まあ原点に戻ったと言うことかな」と、ステラ代表は言う。「去年は新車発表時点から、このデザインが採用されていた。しかしその後、“スケートブレード”の方が効果的ということになって、取り除いたんだ」
「ところが今シーズンが始まったとき、ライバルの何チームかはこのスケートブレードを取り外していた。我々も今回、倣うことにした。マシンのパフォーマンスを大きく左右する部分だからね」
さらに、サイドポンツーンの幅が広げられ(上の写真の赤矢印参照)、上部はより湾曲した形状となった。これらの改良で、表面上の空気の流れにいっそうの活力を与えることができ、ディフューザーに向かう空気の流れをよりよく導くことができる。
「(サイドポンツーンの)幅が広くなっているのがよくわかるだろう。空気の流れを高めるために、より明確な経路を作ろうとしているのだ。しかし実現までの道のりは、決して簡単なことではなかったよ」
(第2回に続く)
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです