【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回前編】グリッド降格ペナルティで痛手を負うも、速さを証明し士気を高めたケビン
2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。第12戦フランスGPは例年よりも1カ月ほど開催時期が遅くなったこともあり、非常に高い気温と路面温度に苦しめられた。またケビン・マグヌッセンがパワーユニットのエレメントを交換したため、レースは後方からのスタートが決まっていた。そんななかで予選ではあえてQ3まで進む速さを見せ、チームの士気を高めることもできたという。
コラム第10回は、前編・後編の2本立てでお届け。前編となる今回は、フランスGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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2022年F1第12戦フランスGP
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝15位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選10番手/決勝DNF
サマーブレイク前の最後の2連戦、まずはフランスGPを振り返っていこうと思います。フランスGPではケビンがICE、TC、MGU-H、MGU-Kを交換したため、グリッド降格ペナルティを受けることが決まっていました。ですからケビンのフリー走行でのタイヤの使い方や予選の走り方は、通常とは少し違ったものになりました。
当初の予定ではQ1を通過して近い競争相手を16番手以下に抑えた後、Q2では中古タイヤのみを使ってミックを引っ張ることに専念しようとしました。ということは予選に向けてソフトタイヤは3セットあれば十分です。その分、ソフトをフリー走行で使って、逆にミディアムタイヤとハードタイヤをレース重視で余分に残しておきました。
その予選Q1ですが、結果的にミックがQ1敗退になってしまいました。ミックはFP3があまりよくなかったのですが、それでも自力でQ2に進出できる速さは十分にあったので、Q1でケビンにミックを引っ張ってもらうプランは立てませんでした。もしQ1でそうした場合はケビンの新タイヤでのアタックが難しくなるので、ケビンがQ1で敗退してしまう可能性が出てくるからです。
ただ、間違ってもケビンのせいでミックが16番手になってQ1敗退になることだけは避けなければいけなかったので、Q1ではミックは当初の予定通り2回走りましたが、ケビンは最後に1回走るだけにしました。それもミックより後にコースに出て行って、ミックがもし15番手にいた場合はケビンのラップを中断する予定でした。
実際にはミックが2回目のアタックを終えた時点で10番手にいたので、そのままケビンのアタックも続行しました。ケビンは最後の一発勝負だったのにも関わらずミックをコンマ4秒ほど上回って見事に6番手のタイムをたたき出しまし、この時点では無事に予定通り2台揃ってQ2進出でした。しかしミックはターン3でのトラックリミット違反により最後のラップタイムを抹消されてしまったので、19番手でQ1敗退となってしまいました。まったく持てる力をまったく出せずにこれで2台ともグリッド最後方に決まってしまったので痛かったです。
タラレバですが、もしトラックリミット違反がなければミックのQ3進出は現実的だったと思います。FP2とFP3ではケビンに後れをとりましたが、コンマ3秒落ちの辺りまではいけたはずです。そしてQ2ではケビンに引っ張ってもらう予定だったので、これでコンマ2秒ほど稼げます。Q2で実際にケビンが出したタイムから推測すれば、ミックは1分32秒8あたりで、9番手か10番手でギリギリQ3に進めたのではないでしょうか。またもしケビンがQ3で走っていればアロンソを上回って7番手になれたと思っています。だから今回のペナルティは本当に痛かったですね。
先程も書きましたが、ケビンは当初の予定では、Q2で新品タイヤを使わず、Q3進出を助けるためにミックを引っ張るだけのつもりでした。しかし肝心のミックがQ2に進めなかったので、プランを変えてケビンには新タイヤでアタックしてもらいました。もちろんペナルティがあるので予選の順位は関係ないのですが、チームにとってこのポール・リカールで実際にどれだけの速さがあるのかというのを証明することが重要でした。実際ケビンのアタックラップは完璧とは程遠いものだったにも関わらず、8番手でQ3に進出しました。これはチームの士気にもとてもいい影響を与えたので、アタックしてよかったと思います。Q2で速さを確認できたので、Q3ではエンジンの走行距離を抑えるために走りませんでした。
■狙い通りのレースから一転。SCで2度目のピットストップを強いられ後退
決勝レースはふたりともミディアムタイヤでスタートすることにしました。ポール・リカールはそれほどセーフティカー(SC)が出る確率の高いサーキットでもないですし、ミックのミスとケビンのペナルティで、スタート位置はクルマの速さにまったく見合っていない順位です。ですからなんとかミディアムで序盤にアタックをかけて順位を上げられるだけ上げて、その後どこで前のクルマに詰まるか、またタイヤのタレ具合を見て、1ストップにするか2ストップにするのかを決めようと思っていました。
ケビンは予想以上にいいスタートを切って、一気に12番手までポジションを上げてくれました。ミックもすぐ後ろで14番手と狙い通りのオープニングラップとなりました。その後、ケビンはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)の後ろ、ミックはアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)の後ろでスタックしてしまったので、クルマの速さを活かして1ストップ勢を逆転すべく、2ストップのタイミングでピットインしてフリーな状態で走らせました。この時も狙い通りの速さで走ってくれたので、この時点ではすべてがうまくいっていました。
しかし18周目にシャルル・ルクレール(フェラーリ)がターン11でクラッシュし、SCが出たことですべてが変わってしまいました。この時点で残り周回数は35周だったので、1ストップ勢にピッタリのタイミングです。これではウチはどうしようもありません。ここから最後まで走り切るため、やむを得ずこの段階で2度目のストップを行いました。これでケビンは18番手まで順位を下げることになります。
レース再開後はペースもよくて、10番手のランス・ストロール(アストンマーティン)から5秒以内につけていたのでまだチャンスはありました。しかし残念ながら30周を過ぎたあたりからペースが落ち始め、前にいるバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)にアタックするよりも、一度は抜いたピエール・ガスリー(アルファタウリ)からプレッシャーを受けるようになりました。そのガスリーに抜かれた後、38周目にターン2進入でニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)と接触してフロントウイングやフロアにダメージを負ってしまいました。これでもうポイント圏内まで挽回できる可能性がなくなったので、新調したPUの距離を抑えるためにもリタイアすることにしました。
今年のフランスGPは開催時期が昨年より1カ月ほど遅く、路面温度が60度を超えておそらく過去最高温度になりました。ホントに暑かったですね。このせいで、ウチはリヤタイヤがきつかったです。特にミディアムのタレがひどかったので、レースはなるべくハードタイヤで周回を重ねたかったんです。これもあってウチは2ストップで行くことにあまり躊躇しませんでした。ガスリーのようにミディアムで35周は走れなかったですね。ケビンはバトルをしていたせいもありますが、ハードでもタレが大きかったです。逆にミックはうまくタイヤを持たせて走っており、特にレース終盤にVSCが出る前の数周はとてもいいペースでした。ですからミックも予選ではミスがあったもののレースではタイヤをうまく使って走れたので収穫はありました。夏休み前最後のハンガリーではぜひ、週末を通して上手くまとめてほしいと思います。
(第10回後編・ハンガリーGPに続く)
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